きょうの日経サイエンス

2011年2月2日

大科学実験:アルジャジーラが出したNG

 

大科学実験ファンの皆さま,こんばんは。
今週からはまた再放送になります。

 

すでに何度も書いておりますが,大科学実験はNHK,NHKエデュケーショナルと中東カタールの「アルジャジーラ子どもチャンネル」の3社共同制作です。

 

 

これも以前書きましたが,カタールは天然ガス資源に恵まれた非常に裕福な国です。ですが「資源が尽きた時に国を支えるのは人材」と,教育に力を入れており,王妃のポケットマネーで数年前に開局したのがアルジャジーラ子どもチャンネルです。

 

「国を支える人材育成」と同時に「汎アラブ主義」(国を超えたアラブ民族の連帯)の発想もあり,対象となる視聴者はアラビア語を話すすべての子どもなのだそうです。衛星放送ということもあり,カタールだけでなくアラブ各国で見ることができます。

 

風習の異なる国との共同制作ですから,それなりに苦労もありました。先方はイスラムの国ですから,映像にさまざまな制約があります。女性はもちろん,男性もむやみに肌を露出させてはいけない,下からのアングルでの人の撮影はいけない──などなど。

 

習慣がベースになった決まり事ですから,なぜNGなのかを理詰めで考えても無意味。ここは,互いの習慣を尊重しつつ,確認しながら進めていくしかありません。我々の感覚からすると,普通のドレスでも首元が開きすぎと言われたり,裸としか言えないまわし姿の力士がOKだったりと,制作スタッフには戸惑うこともたくさんあったようです。

 

この辺の苦労話は,詫摩はいつもまったくの他人事として能天気に笑いながら聞いています。話すほうも,制作が終わってからなので「昔の苦労は,格好の笑い話」的なところがあります。

 

ですが1回だけ,アルジャジーラ側が出したNGの理由を聞いて,胸を衝かれたことがあります。

 

ある企画のアイデアに,「それって,協力を仰ぐとしたら,自衛隊?」というのがあったそうです。これにアルジャジーラはNGを出してきました。
理由は「子どもたちに戦争を思い出させる場面は止めて欲しい」
「戦争を思わせる」ではなく,「戦争を思い出させる」
  ──おのれの能天気ぶりに深く恥じ入りました。

 

制作に協力したガリレオ工房の方が,日本賞受賞記念の内輪のパーティで話した言葉。
「僕の夢は(紛争で家や親をなくしたりして難民)キャンプとかにいる子どもがこの番組を見て,少しでも笑ってくれている,その笑顔を見ること。その場面を想像するだけで,もう・・・」

 

全然,科学の話でなくて,すみません。
エジプトのニュースを見ていて,この話を思い出しました。
アルジャジーラ子どもチャンネルでの放送開始はこの2月からです。

 

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