日本のはやり言葉の一つが「少子高齢化」だとすれば、韓国では「早老早退」問題がいまホットな話題だ。
韓国語で「サオジョン」(同音45定と西遊記の沙悟浄をかけた語呂合わせで45歳定年の意)、「オリュクト」56泥と釜山の観光名所、五六島をかけたもので56歳まで働くと泥棒の意)、「ユギオ」(朝鮮戦争勃発(ぼっ・ぱつ)の日6・25にかけ62歳まで働くと五賊の一人の意)という言葉が人々の口にしばしば登場する。40代、50代に会社から退出させられる韓国サラリーマンの悲劇を表している。
この「早退」現象97年末のアジア通貨危機から始まった。通貨危機の際の激しいリストラがいまでは日常化してしまった。
大手企業のLG電子50代以上は全体の1.7%45〜49歳の社員も4.5%にすぎない。SKグループとLGグループの新任取締役の平均年齢は44歳である。サムスン生命の今年の新任取締役11人のなかで最高齢者は46歳だった。金融界では40代の頭取、30代の支店長は当たり前で、もう話題にもならない。かつて一般的だった55歳定年はすでに昔話だ。
この現象は急激な事業構造変化や改革が進んでいる最近の韓国の企業風土とも無関係ではない。米国流経営哲学が影響してか、目の前の数字重視、コスト減らしのためには従業員解雇もためらわない風潮が強まった。そのまな板に真っ先に上るのは賃金水準が比較的高い中高年だ。
また、最新の事業は大概外国語能力と海外経験、専門性などを要求する。中年以上のサラリーマンはこの流れに乗り切れず、社内での立場がなくなっているのだ。
退出させられた中年以上が再就職や独立自営の道を探すのはきわめて難しい。夫に代わってパートに出る主婦の姿は珍しくない。行き詰まった揚げ句の一家心中が韓国市民の同情を誘うこともしばしばだ。
こんな「早退」現象が社会問題になって韓国政府は賃金ピーク制を導入しようとしている。一定の年齢から賃金を低くしてサラリーマンの寿命を延ばそうとする政策だ。しかしその「一定の年齢」が40代後半とあって、サラリーマンから猛反発を受けている。
ベテランの経験が無駄にされる時代。人間の顔を忘れ効率一辺倒で猛進する企業。その行く末に懸念を抱くのは私一人だろうか。
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筆者略歴:日韓共催W杯担当を経て経済部記者。グローバル化の中のアジア協力体制、韓国が学ぶべき日本の教訓などをテーマに5月来日。34歳。