【ジャパンC】三冠馬3馬の歴史的一戦 日本競馬史上最高の150秒を見逃すな!

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2020.11.28

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日本競馬史上最高の150秒を見逃すな!

日本競馬界にとって、歴史的な一戦―― 第40回ジャパンCがすぐそこまでやってきている。

「世界に通用する、強い馬作り」を合言葉に日本初の国際GIとして1981年に創設されたジャパンC。海外の一流馬と日本の一流馬とががっぷり四つでぶつかり合い、鎬を削るレースとしてこれまでに数多くの名勝負を生んできたが、今年の出走馬15頭の中に外国馬はフランスのウェイトゥパリスのみ。

それもフランスでGIを1勝しただけという馬で、お世辞にも一流馬とは言えない。それだけに「海外の一流馬VS日本の一流馬」というジャパンC創設時に描いていた夢の構図とは程遠いと言わざるを得ないだろう。

それでも、今年のジャパンCが歴史的一戦と称される理由......それは3頭の三冠馬が一堂に会するからだ。

過去には"皇帝"シンボリルドルフが1つ上の三冠馬ミスターシービーと初めて対戦した1984年、牝馬三冠馬ジェンティルドンナと1つ上の牡馬三冠馬オルフェーヴルが直線で激しく競り合った2012年と三冠馬同士の激突は過去にもないわけではなかったが、今年は史上初となる三冠馬3頭の競演。

しかも、ただ強い馬が3頭揃っただけではなく、それぞれの馬にドラマがあることが今年のジャパンCをより引き立たせている。

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デアリングタクト 写真:日刊スポーツ/アフロ

 まずは史上初となる、無敗の牝馬三冠を達成したデアリングタクト。彼女の背中には生産者たちの想いがある。

 過去に誕生した三冠馬のほとんどが、年間生産頭数500頭を優に超える大牧場で生まれ、若駒時代から英才教育を受け、一流調教師の下に預けられたあと、当代随一の腕利き騎手が騎乗していたが、デアリングタクトはそうした歴代の三冠馬たちとは真逆にいる。

 生まれは日高の小牧場。英才教育を受けるどころか、寒風吹く襟裳で夜を徹しての放牧で馬体を鍛え、調教師として開業4年目の杉山晴紀が管理して、同じく若手の松山弘平が主戦騎手を務める......とここまでのプロフィールを見ると、とても無敗で牝馬三冠を達成できるとは思えないが、生まれながらのエリートでなかったからこそ、デアリングタクトには歴代の三冠馬にはないタフさがあった。

 例えばデビュー2戦目のエルフィンS。スタートからいきなり出遅れて、好位から抜け出したデビュー戦とは異なり、後方からのレースを余儀なくされたが、結果は直線一気のごぼう抜きを見せて快勝。「ちょっと出遅れたくらいで、ガタガタ騒ぐな!」と言わんばかりの強気なレース振りが印象に残った。

そして、三冠がかかった秋華賞。オークス以来のぶっつけとなった一戦だったが、若駒時代を過ごした襟裳の地での放牧が利いたか、馬体重はオークス時よりも14キロも増やし、生涯最高体重となる480キロに。この日も出遅れたが、ビルドアップした馬体から繰り出すパワフルなフットワークを見せると、直線では外に持ち出し、堂々と突き抜けて無敗での牝馬三冠制覇を成し遂げた。

 牡馬と見比べても遜色ないほどの雄大な馬格に、3歳牝馬ながら並外れた精神力。初の古馬相手のレースでも堂々と立ちまわることだろう。

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コントレイル 写真:日刊スポーツ/アフロ

 一方、デアリングタクトと同い年の牡馬三冠馬、コントレイルはデアリングタクトのような雄大さとは無縁の存在。無敗の三冠馬、ディープインパクトを父に持ち、トップトレーナーの矢作芳人調教師に育てられた彼はどちらかというと、父同様の軽やかな走りが印象的な馬だった。

鞍上を務めた武豊に「走っているよりも、飛んでいるようだ」と評された父ディープインパクトの走りにコントレイルが最も近づいたのが、デビュー2戦目、重賞初挑戦となった東京スポーツ杯2歳Sのことだった。直線で外に進路をとると弾かれたかのような伸びを見せて楽勝。気が付けば勝ち時計も2歳レコードを大幅に更新するものだった。

 それ以来、コントレイルはどんなレースに出ても、軽やかな走りで他馬を圧倒し続けた。最後の直線でサリオスに迫られた皐月賞ですら、外から伸びたコントレイルにはどこか余裕のようなものが感じられ、距離が延びたダービーでは後続馬との差をさらに広げて見せた。

後方からの直線一気一辺倒だった父と比べて、レースごとに好位に付けて抜け出していくコントレイルの方が3歳春の時点では完成しているようにも映った。

 そして迎えた秋。緒戦の神戸新聞杯では馬群に包まれながらも抜け出して勝利すると、三冠制覇がかかった菊花賞はアリストテレスをはじめとしたライバルたちからの執拗なマークに遭いながら、決してベストなレース運びができたわけではなかったが、それでも二冠馬の意地と誇り、そして強い意志で決して先頭を譲らずに三冠制覇のゴールを駆け抜け、日本どころか世界にも類を見ない、親子二代による無敗の三冠制覇を達成した。

 偉大なる父と同じ、無敗の三冠馬となったコントレイル。父は初古馬相手のレースとなった有馬記念で2着に敗れたが、ジャパンCへと駒を進めたコントレイルは果たしてどんなレースを見せるのか......

これまでのような軽やかな走りで他馬を突き放すか、それとも最後の最後まで抜かせない抜群の勝負根性で粘りこむか。偉大なる父を超える彼の挑戦はそれだけでも大きなドラマとなる。

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アーモンドアイ 写真:日刊スポーツ/アフロ

 この2頭の挑戦を真っ向から受けるのが、2年前の牝馬三冠馬にして、現役最強馬のアーモンドアイ。世界を相手に日本競馬を牽引してきた彼女もこのレースで現役を引退する運びとなった。

 デビュー戦で2着に敗れて以来、負け知らずで牝馬三冠を達成。返す刀で挑んだ2年前のジャパンCでは2番手追走から押し切り、2分20秒6という世界レコードを記録した。古馬になってからもGIタイトルを積み重ね、その数はとうとう7つに。芝のGI勝ちでは史上最多タイに並んだ。

 そして迎えた5歳秋。前年に勝利した天皇賞(秋)へ連覇を目指して出走すると、4番手から抜け出して難なく勝利。芝のGI勝ち数史上最多となる8つ目のタイトルを手にした。

歴史に残る偉業を成し遂げた彼女に残された最後の使命は、ラストランとなるこのレースで後輩にあたる2頭の三冠馬に勝利すること。自身の競走生活の物語の最終ページを彩るのは間違いなく、晩秋の府中での勝利以外にない。

 小さな牧場で生まれた牝馬が成り上がっていくシンデレラストーリーを実現させたいデアリングタクト、偉大なる父超えを果たしたいコントレイル、そしてラストランを飾りたいアーモンドアイ......3頭それぞれに物語があり、全身全霊を込めてこのレースに臨んでくる。

日本競馬界史上、最高となる150秒のドラマがもう間もなく始まる。


■文/秋山玲路


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2020年11月29日(日)5回東京9日 発走時刻:15時40分
第40回 ジャパンカップ(GI)
枠-馬番 馬名(性齢 騎手)
1-1 カレンブーケドール(牝4 津村明秀)
2-2 アーモンドアイ(牝5 C.ルメール)
2-3 ワールドプレミア(牡4 武豊)
3-4 キセキ(牡6 浜中俊)
3-5 デアリングタクト(牝3 松山弘平)
4-6 コントレイル(牡3 福永祐一)
4-7 ミッキースワロー(牡6 戸崎圭太)
5-8 ウェイトゥパリス(牡7 M.デムーロ)
5-9 トーラスジェミニ(牡4 田辺裕信)
6-10 パフォーマプロミス(牡8 岩田望来)
6-11 クレッシェンドラヴ(牡6 内田博幸)
7-12 マカヒキ(牡7 三浦皇成)
7-13 ユーキャンスマイル(牡5 岩田康誠)
8-14 ヨシオ(牡7 勝浦正樹)
8-15 グローリーヴェイズ(牡5 川田将雅)