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(地域発・企業発)水を得た内陸水族館 人工海水で入れ替え問題克服

1月9日付朝刊4ページ 1経済

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人工海水システムを導入したプールで披露されるイルカショー=東京都港区高輪4丁目の「エプソン品川アクアスタジアム」、小川智撮影

 今春、東京スカイツリーに「すみだ水族館」、京都市に「京都水族館」がオープンする。いずれも内陸の都市型水族館。新技術を使い、課題だった海水の入れ替えが減り、都市部でも大型水族館が増えている。

 「イルカたちが奏でるドルフィンオーケストラの開演です」。12月、JR品川駅から歩いて2分の「エプソン品川アクアスタジアム」。イルカプールでは、ベートーベンの「第九」の曲に合わせて、カマイルカやバンドウイルカが次々と大ジャンプを見せる。子どもも大人も大喜びだ。

 同スタジアムは年間約90万人が来場する東京の人気スポット。高橋直人マネジャーは「環境学習や癒やしの場として、最近は気軽に行ける都会の水族館が人気を集めている」と話す。

 この都市型水族館を陰で支えるのが、ゼネコンの大成建設(東京)が開発した人工海水技術だ。2005年、国内で初めて、人工海水を大量利用、イルカプール、アシカプールの水は100%人工海水。「はじめは慣れない海水にイルカも戸惑い気味でしたが、今は快適そうです」(飼育員)

 内陸の水族館の問題は海水の入れ替えだ。放置しておくと、魚のフンやえさの残りで、バクテリアが発生し、イルカや魚が病気になってしまう。このため、1日に全体の5〜10%の海水の入れ替えが必要で、毎日、輸送車で運んでいた。

 海水の輸送費は平均で、1トンあたり5千円ほど。規模が大きいほど費用がかかるため、都会では大きな水族館の運営は難しいというのが業界の常識だった。

 大成建設は水族館の建設だけでなく、人工海水処理システムの開発も行っている。手がけた水族館も、マリンワールド海の中道(福岡)や鴨川シーワールド(千葉)など全国の主要な水族館の3分の1に及ぶ。エンジニアリング本部グループリーダーの西村正宏さんは「水族館への思いはゼネコン1」と話す。

 最近はレジャーの多様化もあり、地方では人気のない水族館も増えてきた。同社は「新技術の開発で支援したい」。コスト削減につながる海水処理システムの開発は欠かせないからだ。

 昨年、長岡技術科学大学と続けてきた研究の成果で半年間、水補給なしでも、老廃物が増えないシステムができた。この技術は特許申請している。

 すみだ水族館、京都水族館にはこのシステムが導入される。計算上では海水の入れ替えは1%以下で、大幅なコスト削減が可能だ。

 「水処理に使っていたお金を、イベントや展示物に回せ、より魅力のある水族館ができる。既存の水族館も生まれ変わるチャンスだ」(西村さん)

 ●映画館や遊園地と競う

 オリックス不動産水族館事業部――。「不動産会社で水族館の専門部署があるのはうちだけでしょう」と三坂伸也部長は話す。京都水族館、すみだ水族館を運営するのは同社だ。

 同社の水族館事業の始まりは2004年。PFI事業の一環として、神奈川県の江の島水族館の再生に参画した。

 新江ノ島水族館として、環境学習やイベントの強化などで、30万人だった入場者を1年で、180万人まで伸ばした。当初3人のスタッフは今ではグループで100人に。

 三坂部長は「もともと海辺の文化施設だったが、環境学習や癒やしの場へとニーズが広がっている」。

 ただ、東京の水族館競争は激化している。エプソン品川アクアスタジアムだけでなく、サンシャイン水族館(池袋)は昨年リニューアルした。都心では、映画館や遊園地などの娯楽施設も競争相手だ。

 三坂部長は「都会にはマーケットがあるが、その分、選択肢も多い。魚好きの人だけでなく、普通の人が気軽に行きたくなる水族館を作らないと」。

 すみだはスカイツリーにあわせエンターテインメント性を重視し、京都は環境学習に文化性を重視する。いずれも地域密着だ。

 ◆人気上昇の裏に企業の工夫や努力 記者の視点

 海から離れた場所にある都会の水族館。海水がどこから来るのか疑問だったが、わざわざ海から運んでいた。毎日だと高くつく。海水を減らすために建設会社が努力していた。そして、水族館の運営にも異業種からの参入企業が乗り出している。

 レジャー白書によると、2010年の「動物園、植物園、水族館、博物館」の人気は5位(4800万人)で、08年の9位(4030万人)から上がった。水族館の舞台裏がみられるバックヤードツアーなどで企業の工夫をみて欲しい。(座小田英史)

 ■主な内陸部の大型水族館

 ◆京都水族館(京都市下京区)
 開業(改装):2012年3月
 総水量:約3000トン
 展示数:未定
 延べ床面積:10981平方メートル

 ◆すみだ水族館(東京都墨田区)
 開業(改装):2012年5月
 総水量:約700トン
 展示数:未定
 延べ床面積:7140平方メートル

 ◆サンシャイン水族館(東京都豊島区)
 開業(改装):2011年リニューアル
 総水量:約770トン
 展示数:約450種1万5千点
 延べ床面積:7765平方メートル

 ◆エプソン品川アクアスタジアム(東京都港区)
 開業(改装):2005年
 総水量:約5000トン
 展示数:約350種1万点
 延べ床面積:11535平方メートル(遊技場も含む)

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