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THE WORLD COMPASS2001年7,8月号

事業変革支援室 Business Revolution Support


レポート
SCWに参加して
「勝ち組」を支えるサプライチェーンシステム

藤澤研二
流通エンジニアリング室客員研究員
消費者が見えない!
 日本は世界一の長寿国になったのに、日本の商品の寿命はこのところますます短くなっているようだ。ある研究所の調査によると、パソコンは1年10カ月、携帯電話は1年5カ月で新機種に買い替えられているそうだ。また、清涼飲料水は1年4カ月、スナック菓子では9カ月でお気に入りの商品が次々に変わっている。
 このような商品の短命化は、消費者の移り気もさることながら、メーカーや小売業など供給サイドの企業行動による部分が大きい。技術革新が猛烈に進むIT機器はまだしも、一般商品では目先を変えるだけの安易な商品開発競争に明け暮れることでメーカーや小売業が自身の首を締め、消耗しているように見える。
 ただ、最近の消費行動が、メーカーや小売業の予想の範囲を超えているのも確かなようだ。例えば、いま渋谷のファッションビル「109」は、中高生とともに小学生の女の子の溜まり場になっているという。また、若者に混じってオジサンたちが「ユニクロ」の快進撃を支えている。今年の父の日には、ユニクロのポロシャツをプレゼントされたお父さんも多かっただろう。さらに、すっかり日本の国民食になってしまった感のあるハンバーガーだが、マクドナルドの平日65円セールにより最近はマックの店内で年配者をよく見かけるという。「バリューセット」でお昼を済ませ、オマケを大事そうに孫に持っていくのだそうだ。
 小売業は、環境変化対応業だといわれる。多くの小売業の経営者もそれを自認している。しかし、これほど目まぐるしく変わる消費行動には、その対応力も限界に達しているようだ。それは、2000年度の決算数字にも表れている。
 そのような視点から、最近の業績数字を見ながら小売業の具体的な動向をトレースしてみよう。

苦戦する総合型業態
 まず第一に挙げられるのは、総合型業態、すなわち百貨店、総合量販店(GMS)の不振である。商業統計における業態別の商店数および販売額の伸び率をみても、総合型の両業態は明らかに業績が芳しくない(図表1参照)。

図表1:小売業態別の動向
業態別 商店数
伸び率
販売額
伸び率
従業者
伸び率
小売業 計
1 百貨店
・大型百貨店
 (売場面積3,000m2以上)
・その他の百貨店
 (同3,000m2未満)
▲7.5
▲18.9
▲10.6

▲65.3
▲8.0
▲10.5
▲9.6

▲41.0
▲2.6
▲11.0
▲9.1

▲61.0
総合スーパー
・大型総合スーパー
 (売場面積3,000m2以上)
・中型総合スーパー
 (同3,000m2未満)
▲12.6
▲6.6

▲39.4
▲12.1
▲9.1

▲40.1
4.8
9.3

▲30.9
専門スーパー
 (売場面積250m2以上)

・衣料品スーパー
 (衣料品が70%以上)
・食料品スーパー
 (食料品が70%以上)
・住関連スーパー
 (住関連品が70%以上)
5.5

▲0.6

1.8

14.8
10.1

▲7.6

8.5

20.2
26.5

1.8

25.3

39.1
コンビニエンスストア
 (30m2〜250m2・14時間以上営業)
・うち終日営業店
1.5

17.0
9.3

20.2
23.1

31.4
注:伸び率=H11/H9×100  出所:平成11年商業統計(通産省)


 最近の個人消費は、「一進一退を繰り返す横ばい状態」と「高級品と低価格品の両極への偏り」が特徴だ。中庸な商品を、中庸な価格で総合的にそろえるGMSは、「欲しい商品がない」と消費者に敬遠され、成長著しい専門店チェーンに顧客を奪われている(図表2参照)。

図表2:主要業態の業績推移(98年度→2000年度)
画像
出所:日経流通新聞の調査データより作成


 同じ総合業態でも百貨店は、総じて業績は悪いながらも、最近やや明るさが出てきている。これは、不振店の閉鎖や人員削減などのリストラ効果が出てきたことと、消費者の根強い高級ブランド嗜好などに支えられている。百貨店の得意客である年配層とパラサイトシングル層の消費支出には底堅いものがある。さらに、最近は地価下落や工場移転に伴う用地供給の増加などにより、都心周辺への人口回帰が進むなど、百貨店の経営にはプラス要因が出てきている。
 もともと、百貨店はオーバーストアと問屋依存型の体質が業績不振の原因だ。今後も競争力のない企業、店舗の陶汰は避けられないが、強みであるファッションとギフトに経営資源を集中し、集客力のあるブランドや競争力のある専門店をテナントとして導入することに徹すれば、百貨店はそれなりのパフォーマンスを発揮することはできると考えられる。


新たな収益の柱を模索するコンビニ
 大型総合業態と比較すると、コンビニは依然として成長力を維持している。しかし、そのコンビニ業界でも明らかに構造変化が始まっている。それは、業界内の企業間格差が決定的となり、中堅チェーンを核に業界再編が本格化していることだ。
 例えば、この7月にサークルケイ・ジャパンとサンクスアンドアソシエイツが持ち株会社シーアンドエスを設立し、経営を統合した。シーアンドエスの2002年2月期の連結全店売上高は8,700億円強、同経常利益では業界3位のファミリーマートを上回る見通しである。また、ココストア(愛知)は、4月にカスミコンビニエンスネットワーク(茨城:カスミ系列)を子会社化したのに続いて、6月には九州コンビニエンスシステムズ(熊本:壽屋系列)、アイアンドアイリテイル(福岡)という九州の2つのコンビニチェーンを買収した。この一連の買収で、ココストアの系列店舗数は2,200店を超え、九州地区に限れば大手3社を抜き最大の店舗網を持つことになった。
 これらの業界再編の背景には、コンビニ事業から撤退し、本業に経営資源を集中する地域スーパーマーケット企業の動きがある。カスミ、壽屋以外にも平和堂がコンビニ事業部門(東近畿スパー本部)を売却している。このような業界再編の動きを通して、現状でも大手3社で店舗数の50%強、売上高の65%を占める寡占化傾向がますます進み、将来的には業界全体が5グループ・プラスα程度に統合されるとの見方が強い。
 これら業界再編の背景にあるコンビニの最大の課題が、日販額の低迷と既存店売上高の減少である。これはこれまで収益の柱として、コンビニの成長を支えてきたファーストフード部門(弁当・惣菜)の伸び悩みとの関連が大きい。いま65円ハンバーガーや290円牛丼など、コンビニの弁当・惣菜を脅かす強敵が次々と現れている。また、ロックフィールドやオリジン東秀など、路面店展開で成長する惣菜専業企業も登場している。コンビニは、ファーストフード部門の再強化を求められるとともに、今後は新しい収益の柱づくりが大きな課題になろう。
 コンビニ業界では、金融事業や料金収納代行など、その店舗網と情報システム網を活かしたサービス事業の強化やeコマースの展開を進めている。しかし、これらの事業はまだ緒に就いたばかりだ。コンビニ、とくにフランチャイジーの厳しい状況は、まだしばらく続きそうだ。


現状における「勝ち組」小売業の強さの秘密
 前述のコンビニもそうだが、いずれの業態も業態内の企業間格差が非常に明確になってきている。図表2で見た好調な専門店業態も、実態は特定企業、あるいは数社の勝ち組企業が業態全体の業績を引き上げているに過ぎない。
 ファーストリテイリング(ユニクロ)、実用衣料のしまむら、マツモトキヨシ、ヨドバシカメラ、大塚家具、良品計画(無印良品)、100円ショップの大創産業、ホームセンターのジョイフル本田などがその代表だ。ここでは、紙幅の関係で全ては紹介できないが、それら勝ち組企業のその強さの秘密を整理してみよう。

(1).ファーストリテイリング
 勝ち組の筆頭格に当たるのがユニクロのブランドで知られるファーストリテイリングだ。同社の業績は、ここへ来てますます好調だ。とくに、昨冬、1900円フリースの爆発的なヒットでユニクロ旋風を巻き起こしたことは記憶に新しい。それを機に、「ユニクロ・ブランド」はコストパフォーマンスの高いカジュアル衣料として消費者の認知を得て、若者ばかりでなく幅広い顧客層に定着した。
 そもそもユニクロは、衣料品のカテゴリーの中でもカジュアルというニッチに特化し、徹底して商品を絞り込んだ点が成功の第1のポイントだ。そして、何といってもその最大の特徴は、製造小売業(SPA)と呼ばれるビジネスモデルだ。つまり、自社で企画した商品を、約100カ所ある中国の工場に生産委託する。生産や物流は、大手商社に委託するが、他のSPA企業と異なり、ユニクロは常に自社が主導権を握り、関与する。原材料選びから工場の指導まで、中国に2カ所ある現地事務所のスタッフが細かく管理する。特に、他社を定年退職したベテラン技術者などで組織した専門部隊で、製造、検品を厳しく指導する「匠チーム」の存在は有名である。このようにして、圧倒的なコストパフォーマンスを実現している。
 また、ユニクロは完全買取り制で返品をしない。それが、売れる商品を作る「商品力」とともに「売り切る力」を鍛えることになる。そして、完全実力主義の人事評価システムが、人材を育て、その人材が知恵を絞って「商品力」と「販売力」をさらに高める好循環を生み出している。
 ユニクロに死角があるとすれば、それは成功要因でもあるカジュアル衣料に特化しているという点だろう。つまり、カジュアルブランドは流行のサイクルが短く、海外の例を見ても企業の栄枯盛衰が激しい業界だ。加えて日本人は極めて移り気だ。ユニクロが、この課題にどう対応していくかが楽しみだ。


図表3:ファーストリテイリングの業績
画像
出所:図表3〜7は各社公表資料より作成


(2).ヨドバシカメラ
 ヨドバシカメラは、ユニクロと同様に99年、2000年と業績を大きく伸ばした企業だ。
 家電量販店では、同社とコジマ、ヤマダ電機の勝ち組3社を称して‘Y2K’などと呼ぶが、ヨドバシカメラの収益性は群を抜く。また、他の2社が郊外ロードサイド出店を強力に進めるのとは対照的に、ヨドバシカメラは「レールサイド」、すなわち駅前出店にこだわる。本拠地の新宿は、鉄道の乗降客数だけでも1日350万人にも及ぶ日本最大の繁華街で、新宿西口店の売上高は優に400億円を超える。
 同社は「ヨドバシカメラ」の名称だが、現在、カメラ関連の売上は全体の15%強に過ぎず、家電、パソコンなどの情報機器、ゲームなどの売上が約85%を占める。そして、同社の品ぞろえの特徴は、周辺機器や関連商品の圧倒的な豊富さだ。商品に精通した社員が、商品の特性や使い方を詳しく説明する販売手法で、粗利の取れる周辺機器、関連商品の売上比率が高いことが同社の高収益を支えている。
同社は株式公開もせず、メインバンクも存在しないが、豊富な資金を背景に、店舗の土地、建物は自前主義、仕入も現金決済で行ないコストを下げている。
 また、売上高4,000億円を超える同社の本部人員は100人強に過ぎないが、それを支えているのが高度な情報システムだ。それがヨドバイカメラの競争力の最大の源泉だともいえる。すなわち、POSシステムによる単品管理を徹底し、販売情報に基づく自動補充発注システムの構築や約100社の納入メーカーと発注計画・納期情報の共有化も行われている。さらに、POSは会計システムとも連動しており、その日のうちに売上高、粗利、バランスシートまでが集計できる。
 情報システムは顧客管理にも最大限活用されている。他社に先駆けて90年に導入されたポイントカードの発行枚数は1,000万枚を超える。そして、会員顧客の購買履歴はすべて把握され、販促活動に活用されている。さらに、カード会員には10%のポイント還元があるが、これもメーカーを刺激しない実質的なディスカウントであり、顧客の固定化に結び付いている。


図表4:ヨドバシカメラの業績
画像


(3).大塚家具
 三越新宿南館、多摩そごう、近鉄百貨店東京店、奈良そごう。これら業績不振で閉店した百貨店の跡に、「ショールーム」を積極展開しているのが、低迷する家具業界で一人気を吐く大塚家具だ。98年こそ減益を記録したものの、99年、2000年と大きく業績を伸ばしている。
 同社が「ショールーム」と呼ぶ大型店舗を都心周辺に展開しはじめたのは、93年に開設した日比谷店からだ。メーカーを刺激しないように会員制を導入し、徹底的に商品知識を叩き込んだ社員が、一組の顧客に対して平均2〜3時間を掛けて個別に接客対応する販売方法が大塚家具の最大の特徴だ。また、販売する家具は6割近くが輸入品で、メーカーから直接、現金仕入を行っている。そのため、百貨店の半分以下の価格で販売しても50%以上の粗利が確保できるという。輸入先も、最近は物流コストを圧縮するため、欧米メーカーのアジア工場からの仕入割合を増やしている。
とはいえ、輸入家具は全品買取りだから、売り切る力が必要になる。そこで、同社では社員研修による販売力の強化に最も力を注いでいる。新入社員には120時間の研修が義務づけられているほか、新商品を販売する時には、開店前に1時間の研修が各店舗で行われる。販売員は、顧客ごとの家族構成、自宅の間取り、好みなどをびっしり書き込んだノートを作成している。そして、一人の販売員が、年賀状以外に礼状や情報提供の手紙を月に30通は出すという。これらの通信費は、全社で年間1,600万円に達する。しかし、その成果で、大塚家具の接客成約率は50%を超え、販売員一人当たりの平均売上額は月約500万円と、いずれも業界では群を抜く。
 2〜3万m2規模の多様な品ぞろえを持つ大型のショールームで、個客対応型の接客販売を武器に躍進する大塚家具が、本当に「百貨店から家具売場をなくす」日が来るかもしれない。


図表5:大塚家具の業績
画像


常に進化を求められる小売業
 これまで見てきたように、一口に勝ち組企業といっても取扱品目も違えば、企業規模、ターゲット顧客もさまざまだ。そのため、それぞれのビジネスモデルも強さの秘訣も多様だ。しかし、そこにはいくつかの共通する特徴が存在するように思われる。
共通点の一つは、完全買取り制で、返品をしないことだ。「返品」という日本の小売業に甘えを生んできた取引慣行から脱して、敢えて自らが販売リスクを取るという厳しい環境に身を置いている。そうすることによって、仕入価格を引き下げるというメリットもさることながら、「売れる商品を見極める力」と「仕入れた商品を売り切る力」を育てる仕組みを企業の内部に構築しているということだ。このことは返品のみならず、旧来の業界の慣行や常識に囚われない革新性を企業の遺伝子として持っていると言い換えることもできよう。
 また、これは「価格」を大きな訴求のポイントとしているという第二の共通点に結び付いている。もちろん、前述の3社の例で見たように、勝ち組企業は単に低価格だけを売り物にしているわけではないが、その価格競争力はデフレ経済下において大きな武器であることは間違いない。そして、これらの企業の企業行動が引き金となって業界全体の取引慣行や仕組みを変えるインパクトを持ちはじめているのも共通する特徴だ。
 三つ目の共通点は、上記の2点を実現するために、店頭販売情報に基づく垂直統合の仕組みを構築していることである。個別に見れば、自社展開をする部分とアウトソーシングをそれぞれの企業理念や特性に応じて組み合わせているが、いずれにしろ小売業がイニシアチブを取る形でのサプライチェーンのシステムを作り上げている。
 一方、これまで勝ち組企業に数えられていた「しまむら」「良品計画」の両社が、2000年度は減益を余儀なくされた。また、「マツモトキヨシ」も収益の伸びが鈍化した。


図表6:しまむらの業績
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図表7:良品計画の業績
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 これら3社の不振は、ともに既存店販売額の大きな落ち込みが原因であり、その背景には業態内および業態間の競争の激化と大量出店による店舗費用の増大がある。このように、現状の小売業界では勝ち組企業といえどもちょっと気を抜くと、業績を維持できない不安定さをはらんでいる。その意味では、常に進化を求められるのが小売業の宿命と言えそうだ。
 特に、消費者の変化のスピードが速く、これまでの経験則では消費行動が読めなくなっている現状では、従来のシステムを精緻化しても、もはや仮説の精度を上げるのが難しくなってきている。
 そのような中で、より進化したビジネスモデルの登場が待望されている。そうした視点に立つと、いわゆるIT革命が新しいビジネスモデルの輪郭、そしてその可能性を提示しているように思える。
 産業界におけるIT革命の本質は、「見込み生産が限りなく受注生産に近づく」ことだ。つまり、小売業においても、永遠のテーマである売れ残りロスおよび売り逃しロスの双方を最小化する可能性が、従来以上に現実味を持ってきている。そのモデルとは、消費者がダイレクトにニーズ情報を発信するなどの形で流通にかかわることで、嗜好や購買履歴に基づいて個客ごとに商品開発やサービス提供を行う、いわゆる「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」型のモデルだ。そこで重要になるのは、「POS(Point of Sales)」よりはむしろ「POP(Point of Produce)」というような概念だろう。つまり、製造段階に消費者の嗜好やニーズ情報をダイレクトに反映させる仕組みだ。既にインターネットを使った、具体的な成功事例がいくつも登場してきている。新しい進化形のビジネスモデルが日本の小売業のスタンダードになる日は案外早いかもしれない。

  
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