特集
97年CM業界10大事件の真相はこれだ!
間引き、全裸、援助交際、山一証券などなど

誰もが見ているCMの裏側で、事件、トラブル、クレームが渦を巻く。97年、CM業界を騒がせた10大事件を一挙公開


 1年間に放映されるCMは、約1万4000作品(関東地区)。この膨大な数のCMの中で、いかに視聴者にインパクトを与えるかが、制作者の腕の見せ所。しかし時に「インパクト」は、逆に視聴者の抗議によって生まれることもある。

 富士写真フイルム「写ルンです」のCMでは、「長男じゃないわよね」のセリフが問題とされ、「二股かけてないわよね」に速やかに差し替えられた。

 いくらなんでも対応が速すぎると思ったら、初めから2種類のコメントが用意されていたという。苦情がくるのを想定していたのかもしれない。これが話題となり「また何かやってくれるのでは」との期待も高まった。結果的にCM好感度は上昇し大成功となった。

 インパクトという点では、「日清ラ王」も抜群だった。食品のCMに男性のオールヌード。これは、今までのCM手法からは考えられないことだ。「味」ではなく「驚き」に重きを置き、オンエアも若者が多い深夜帯に集中させたことが、大ヒットにつながった。

CM間引き問題で暗黙の信頼が崩れる

 しかし、こうして昨年のCM業界のトピックスを振り返っていくと、視聴者からの抗議や、金融CMの自粛など、世相を反映してか、あまり楽しい話題が見つからない。

 広告会社にとっては、個人視聴率調査にしてもそう。どの時間帯に誰が見ているかがハッキリ分かるようになったため、広告主のCM効果を見る目が厳しくなった。

 また個人視聴率調査の開始と前後して、CMの「間引き」問題が発覚したのも、皮肉な話。一般には地味な話のように思えるが、広告・放送関係者にとっては、信用問題につながる重大事件だった。

 ビデオリサーチ社には、CM自動識別装置という、音声の波形でCMの識別と視聴率を測るシステムがある。正しくオンエアされているか、ある程度まで把握できる。しかし、サービスエリアは東京、名古屋、大阪地区だけ。また、細かいCMの確認となると、人間の手と目で確認していくしかない。それには膨大な時間と労力がかかるため、「きちんとオンエアしている」という暗黙の信頼関係が、成り立っていた。だが、その信頼関係が崩れた現在、各広告代理店ではチェック体制をどうするか、頭を悩ませている。

 視聴者にとって明るい話題と言えば、CMを外してノーカットで放送したW杯サッカー中継だろう。以前は、スポンサー重視で、ノーカット放送など考えられなかったのだから大きな変化だ。

97年CM業界10大事件
1 福岡放送と北陸放送で「CM間引き」発覚
6月、福岡放送で過去20年にわたるスポットCMの間引き放映が発覚。さらに2週間後、今度は北陸放送でも、機械操作の誤りなどによる間引き放映が発覚した。「間引き」はスポンサー企業に対する裏切り行為。マスコミを連日騒がせた、97年最大級のCM事件。
2 椎名桔平のオールヌードに大騒ぎ!
椎名桔平が裸でラーメンをすする姿に賛否両論が寄せられた(日清食品「日清ラ王」)。この騒ぎ、朝日新聞の投書欄で作家・内田康夫氏が抗議したのがきっかけ。最近作では、椎名桔平が「もう脱がないぞぉ」と服を来たまま温泉に沈み、この騒動を茶化してみせた。
3 有森裕子選手「私だってCMに出たい」
陸上選手・有森裕子さんは、現役のままでの自由なタレント活動を希望し、5月より新聞広告、CM出演に踏み切った。これは、日本オリンピック委員会などが、競技以外のタレント活動などを厳しく制限している、現在のアマチュア規定に一石を投じるもの。
4 「CMはトレイタイム」で乱一世が降板
『トゥナイト2』(テレビ朝日)で、タレントの乱一世がCMの直前に、視聴者にトイレに行くように勧める発言を。これに対して局側は、乱一世には当分出演を控えるように勧告。さらに担当の取締役ら5人も減棒、減給、けん責という処分が下った。口は災いの元?
5 個人視聴率調査で広告主はニッコリ
4月、テレビの個人視聴率調査が本格的に開始された。従来の視聴率調査では、一世帯の中で誰がテレビを見ていたのか不明だったが、個人視聴率調査では、時間、性別、年齢まではっきりデータとして分かる。スポンサー企業には「CM戦略が立てやすい」と好評。
6 夜ふかしの子供が増え、タバコCMが消滅へ
97年4月から、メーカー側の自主規制によりタバコCMがなくなることに。これまで深夜にオンエアしていたが、深夜帯の未成年のテレビ視聴者が増えたため、今回の措置となった。ただし、投げ捨て禁止などのマナー広告や企業PR用のCMはそのまま残るという。
7 視聴者の抗議にCM差し替えが頻発
「写ルンです」シリーズで、沢口靖子が火星人に言う「長男じゃないわよね」のセリフが差し替え、萩原健一出演のNTTパーソナルで「私のおじさん」というセリフが援助交際を思わせると差し替えになるなど、視聴者からのクレームも妙に細かくなってきた。
8 フジテレビ、CM外してW杯を完全中継
サッカーW杯最終予選「日本対カザフスタン戦」の中継でフジは、試合中CMを一切入れずノーカット放映に踏み切った。スポンサーを説得してのCMカット放送は画期的なこと。視聴者はトイレにも行かずに熱中?したためか、37.2%の高視聴率を記録した。
9 ライバル会社へCMタレントの移籍相次ぐ
所ジョージがファミリア(マツダ)のCMからキャバリエ(トヨタ自動車)に。とんねるずがサッポロビールのCMからモルツ(サントリー)のCMになど、ライベル会社へのタレント移籍が目立った。仁義なきCM界にしたのはタレント?それとも広告主?
10 人気タレント出演の金融CM、不祥事で自粛
竹野内豊をキャラクターに起用していた山一証券は、事実上の倒産によってCMも中止に。利益供与事件で問題の野村証券にはSMAPの草弓剪剛、第一勧銀には西田ひかるがCM出演していたが、自粛によって見かけなくなってしまった。タレントにとっては迷惑?



カップ麺、宝石、消費者金融どうして深夜にCM流すの?

昔はラブホテルや静止画CMばかりだったクズ時間帯が、今や大人気


 深夜のCM枠は、業界用語でM(male)1、F(female)1と呼ばれる20〜34歳の若い男女や、さらにもっと若い10代の低年齢層がターゲットだ。日清食品やレコード会社のエイベックスが、この深夜帯に大量のCMをオンエア。カップ麺や小室ファミリーのCDを次々とヒットさせたことで、深夜帯の広告主が一気に増えた。

 一方、深夜にしか見かけないCMといえば、アコムや武富士といった消費者金融が代表的。東京、大阪、名古屋地区のキー局では、ゴールデンタイムはオンエアは出来ず、放映時間は深夜24時から。ただしフジテレビ系、TBS系ではいまだ放映が許可されていない。

 また、関東地区では宝石店「じゅわいよくちゅーるマキ」(三貴)のCMも深夜のおなじみ。スーパーモデルを起用し、タイアップ曲を華原朋美やhitomiが歌う豪華なCMだ。

 「マキ」が24時から25時の深夜帯にCMを集中的にオンエアし始めたのは、20年近くも前。当時の深夜枠は、宣伝効果がないとされる不人気の時間帯。しかし、宝石の大きな購買層、水商売のお姉さんたちがテレビを見てくれる時間帯だったのだ。

 現在も、深夜の媒体費はゴールデンに比べると割安だが、その宣伝効果が認知され、CM枠を確保するのが大変になってきた。かつては、「クズ時間帯」と言われ、さげすまされていた深夜枠も、今や消費の牽引役なのだ。
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