河井案里議員【第25回公判 11月13日】被告人質問1日目

河井案里議員【第25回公判 11月13日】被告人質問1日目
11月13日。案里議員の25回目の裁判は、最大のヤマ場となる被告人質問を迎えました。
これまでの裁判では、案里議員から現金を受け取ったとして証人に呼ばれた地元議員5人が次々と「票の取りまとめの依頼だと思った」などと証言。

買収目的ではなかったとして無罪を主張する案里議員がどのように反論するか注目されました。

黒いスーツに議員バッジを付けて入廷した案里議員は、証言台の前に座り、弁護士からの質問におよそ4時間にわたって答えました。

広島県政で“干された”

最初にテーマとなったのは、参議院選挙に立候補する前の広島県政の状況についてでした。

案里議員は、平成15年に広島県議会の議長選挙をめぐって自民党会派が分裂し、その後、自身は少数会派に所属した経緯を説明したうえで、「本来なら自民党広島県連で女性局長を経験しているはずだったが、私よりも当選回数が少ない人が就任するなど、干されていた」と述べました。

議会の会派分裂は平成21年の広島県知事選挙にも影響を与えました。

自民党の多数会派や当時の民主党、公明党などが現在の湯崎知事を支援した一方、案里議員らの少数会派では「民主党政権が誕生して間もない時期であり、このままでは自民党の党勢が衰えると危惧された」ということです。

そして、知事選挙の候補者として案里議員に白羽の矢が立ち、立候補しましたが落選しました。

その後、案里議員は県議会議員に復帰しましたが、周囲からの厳しい対応が待ち受けていたと言います。

案里議員は「知事選挙で敗れ、発言しても必ずヤジや否定の発言で覆いかぶされるなど、県議会ではつまはじき状態だった」と述べました。

国政への挑戦の後押し

県政で厳しい状況にいた案里議員。

引退も考える中、参議院選挙に立候補しないかと打診があったということです。

誰から打診されたか明言は避けたものの、「平成30年の秋に自民党本部の幹事長室を訪ねた際、二階幹事長から『まずは街頭に立つことから始めなさい』と言われた。自民党本部の重鎮の先生方も『とにかく、のぼりを持って露出を増やすんだよ』と口をそろえて言われた」と、党本部から強い後押しがあったことを明かしました。

また、夫の克行元大臣からも「あなたは“政治の子”。政治を続けなければならない。チャンスがあるなら国政へ」と国政への挑戦を勧められたということです。

自民党広島県連との対立

参議院選挙への立候補が現実味を帯びると、自民党広島県連との対立が深まっていきました。

広島県連は、現職の溝手顕正氏だけを公認するよう求めていました。

これについて案里議員は「党本部は党勢拡大が第一だとして2人の候補者を立てても2議席を獲得できると判断していた。しかし、県連は県政運営を第一として他党の会派とも組み、支援組織の連合とガチャガチャ戦いたくないので、1議席ずつを分け合うことを望んでいた」と振り返りました。

さらに参議院議員で県連会長の宮沢洋一氏が3年後に改選があるとして、「先に参院選で2人当選すると2人通る余地があるじゃないかと、3年後の選挙の時にも自民党から2人出されることを懸念したのではないか」と述べ、県連と党本部でスタンスが分かれた背景について持論を展開しました。

組織選挙は“見栄え”だけ

このあと、被告人質問のテーマは、保守分裂の激しい選挙となった去年の参議院選挙へと移っていきました。

地元の業界団体の多くが現職の溝手氏を支援したことについて、「組織や団体の推薦は末端まで浸透しない。みんな自分の所属している組織が誰を推薦しているのか知らないほど形骸化していると、夫の選挙の手伝いを通じて熟知していた。推薦を得られなかった影響は限定的で、さほど悲観的には捉えていなかった」と述べました。

また、自民党の広島県連や地元議員らから支援が得られなかったことについても、「仮に応援していただいたとしても、経験上、何をしてくれるかと言うと、集会での動員など選挙の見栄えを良くしてくれるが、得票にはつながらないと感じていた。人間性で訴えるしかなく、選挙は要するに候補者次第だ」と述べました。

そのうえで「私が11年前に戦った広島県知事選挙よりも、去年の参議院選挙の方がはるかに戦いやすい選挙だと思っていた。知事選では大変厳しい情勢の中で、20万票を獲得したことが自信になっていた」として、強気の姿勢で選挙に臨んでいたことを明らかにしました。

選挙期間中の選挙運動の状況について弁護士から問われると、「街頭演説を充実させていくスタンスだったので、県連の支援がない方が、私の戦略上、有利に働いた。県連のサポートがあると、幹事長や議長経験者など地方議員の『偉い順』でスケジュールを組まれる」と述べ、県連によるしがらみがなかったことで、多くの場所で戦略的に街頭演説ができたと答えました。

票の取りまとめ目的を全面否定

そして、最大の争点となっている地元議員への現金の供与の趣旨に関する質問に進んでいきました。

起訴内容で「票の取りまとめ」の目的があったとされていることについて、弁護士が尋ねると、案里議員がはっきりとした口調で検察に対する反論を展開しました。

案里議員は「経験上、『票のとりまとめ』は世の中に存在しないと考えています。人間と人間の信頼関係の上でしか票は入らず、投票とは尊く、神聖で、わざわざ休みの日に投票所に行って河井案里と書いてもらうのは面倒な行為でもあります。投票してもらうには誠意が必要で、有権者1人1人との絆だと思っている」と述べました。

現金を渡した意図について案里議員は「私自身は票をお金で買うという発想自体がない。決して当選のためとか、票の取りまとめという趣旨ではない。
私が現金をあげた相手は極めて限定された人で、県議に復帰した際に迎え入れてくれた方で、大変感謝している。これまでのお礼や頑張ってほしいという気持ちを込めた当選祝いや陣中見舞いだった」と述べ、買収には当たらないと主張しました。

岡崎哲夫広島県議への現金供与

弁護士は、案里議員が現金を渡した際の状況について詳細に尋ねていきました。

1人目は岡崎哲夫県議会議員への30万円で、案里議員は「私が県議会議員に当選して以来、指導していただいた先輩で、政治的なセンスもあり、多くのことを教えていただいた。今後の活躍をお祈りするとともに、『ありがとう』という気持ちを込めて、30万円を当選祝いとして渡しました。金額については初当選のころに当選祝いとして複数の議員からいただいたのが30万円で、通例かと思っていた」と述べました。

現金を渡した状況については、「県議会選挙で無投票当選をしたので『祝 当選』という“ため書き”を選挙事務所に持って行った。ため書きを渡して、カバンの中に持っていたお祝い金を取り出して『当選祝いです』と言って渡しました。岡崎議員は『おお、案里ちゃん、ありがとう』と言って受け取った後、近くにいた秘書に『案里ちゃんから当選祝い』と言って渡していました」と証言しました。

岡崎議員は10月2日に証人として出廷した際、「『二階幹事長から』と言って渡されたが、ジョークだと思った」と証言していました。

これについて弁護士が尋ねると、「記憶にありませんが、岡崎議員とは冗談ばかり言い合う仲なので、私なら言いかねないかなと思います。でも冗談です」と笑いながら述べて、二階幹事長の関わりを否定しました。

平本徹広島県議への現金供与

2人目は平本徹県議会議員への30万円についてです。

案里議員は「平本議員の個人演説会に応援弁士として行きましたが、後輩の応援に手ぶらで行くのはありえない。まだまだ未熟さもありますが勝ち抜いてほしいと思い、陣中見舞いとして送りました」と述べました。

現金を渡したときの状況については、「演説会の後、帰ろうとする人がいる中で、平本議員の奥さんに『大変ですけど、あとちょっとだから頑張って。
陣中見舞いです』と言って渡しましたが、奥さんは「いえいえ」と言いながら両手を出して受け取りを拒否しました。でも最後には受け取りました」と証言しました。

平本議員の妻は9月18日に証人に呼ばれた際、「案里議員に『人目があるから早く納めて』と言われた」と証言しました。

これについて問われると、「こちらとしては通常の陣中見舞いとして渡していたので、多くの人がいるところで渡した。しかし私の経験上、特に選挙中の演説会には、ほかの陣営からスパイ、スパイという言い方はふさわしくないが、間諜が様子を見に来ることがある。あらぬうわさを立てられると平本議員らに迷惑をかけるので、お金の受け渡しでドタバタしたくなかった」と説明しました。

また、平本議員は証人尋問で「去年12月ごろ、案里議員から電話がかかってきて、『例のあれもらってないことでいいよね?』と言われた」と証言しました。

これについて案里議員は「まず、電話に関してはおそらくかけたと思います。当時、週刊誌でウグイス嬢の報酬の件で騒がせていたので、広島の関係者にご迷惑をおかけしたという電話をしていた。当時はウグイス嬢のことばかり考えていて、陣中見舞いについては取りざたされていないし、問題ないと思っていた。平本議員に現金を渡したことも当時は記憶に無かったと思う」と述べ、平本議員の証言に反論しました。

下原康充広島県議への現金供与

3人目は下原康充県議会議員への50万円についてでした。

案里議員はこれについては、現金を渡したこと自体、覚えていないとして、供与そのものを否定しました。

弁護士が「仮に渡していたとしたら理由は」と尋ねると、「当選の期が近く、ざっくばらんに話をでき、奥さんにもよくしてもらっていた。これまでお世話になったお礼の意味を込めて、陣中見舞いとして渡したと思う」と述べました。

起訴された内容によると、下原議員には50万円を渡したとされていて、ほかの議員と比べて金額が高いことについて問われると、家族への病気見舞いの気持ちがあったと説明しました。

被告人質問 次回も

案里議員の被告人質問は次回の11月17日と20日にも行われる予定です。

残る2人の議員への現金供与の状況についてだけでなく、地元の議員に配った現金をどうやって工面したのか、案里議員本人がどのように説明するのか、注目されます。