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コラム
2012年7月5日12時28分
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千本ノック 根性か理論か〈白球文化を科学する・東京〉

 ぶっ倒れるまで繰り返し捕球させる「千本ノック」。「スポ根」の代名詞にもなっている厳しい練習だが、ほんとうに1千もの打球を浴びせるのだろうか。

 

 八王子市の明治大学付属中野八王子高校のグラウンドに今月20日朝、バットで球を打つ野球部員の声が響いた。

 「もっと前に出ろよ」

 20メートル先の守備の部員が呼吸を乱しながら、ボールに飛びついた。勝敗の分かれ目になることがある失策。その芽を未然に摘んでおこうとするノック練習だ。

 打ってからグラブで捕球するまで2秒、送球動作を終えるまで1秒、守備位置に戻るまで1秒。これで1本のノックが完結する。

 この4秒を1千倍すると、1時間6分40秒。「千本ノック」を一気にやれば、それぐらいかかる。

 だが、実際は打つ側と捕る側が50本で入れ替わり、その間、数分休む。部員約70人が一斉に取り組むと、打撃や走塁の練習時間がなくなる。そのため平日5日間で合計1千本になるよう、早朝や授業の合間の休み時間、放課後に球を追う。

 内野の守りの要、生山太智遊撃手(2年)は「量より質とよく言われるけど、自分はどちらも追求したい」と意欲を見せる。

■「巨人の星」影響

 石田高志監督(48)は幼いころ、テレビアニメ「巨人の星」を見ながら「野球といえばスポ根。スポ根といえば千本ノック」という強烈な印象を受けた。今、土壇場で強い精神力を発揮する「くそ根性野球」を掲げている。

 少年誌で1966年から5年間連載された原作を調べた。確かに主人公・星飛雄馬が少年時代、毎晩のように近所の公園で父の一徹から「月夜の千本ノック」を受ける場面がある。飛雄馬は小さな体に球をくらいながら、最後は立ち上がれなくなっていた。

■PCで動き分析

 ノックの量よりも質を重視するチームもある。都立福生は部員1人あたり毎回5球をめどに、状況に応じたノックをしている。

 練習はそれで終わらない。湯原功久監督(49)が動画を使い、「クリニック」と呼ぶ講座を月に数回開く。守備と打撃のフォームを3秒間ずつ撮影。その動画をノートパソコンに移し、3秒間を300コマに分割して部員に見せる。

 グラブとボールの位置関係、体の前面の筋肉の動き、足さばき……。日本体育大学でスポーツ科学を研究し、都スキー連盟でも重心移動や運動技術論を学んだ知識を生かし、修正点を伝える。たとえば「ステップの順番が違う」。すぐにグラウンドで、その感覚を体に覚え込ませる。

 湯原監督は言う。

 「選手は理屈を知ることで、主体的に練習し、スランプから脱出することさえできるんです」

 朝日新聞などは東・西東京大会に出場する265校にアンケートをした。昨年8月以降の1試合平均の失策数を聞いたところ、回答した234校の平均値は2.74個。最高は13個で、4個や5個としたチームも少なくない中、明大中野八王子は3個、都福生は2個と答えた。(高浜行人)

■先読む力 不可欠

 産業事故を防ぐためヒューマンエラーを研究する小松原明哲・早稲田大学教授(人間生活工学) エラーを起こしにくい動作を身につけるには、千本ノックのような基礎訓練の反復が重要。しかし漫然とやると悪い癖がつき、練習以外のパターンに対応できない恐れがある。過剰に訓練しても一定以上のスキルは身につかない。エラーの原因は所作の不完全さに加え、不適切な判断や状況認識の不足などさまざまだ。基本動作の習得だけでなく、全体の流れをつかみ、状況を察知して先を読む判断力を養うことが不可欠だ。

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キーワード:
星飛雄馬
日本体育大学
スランプ
野球部
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