第4部 識者に聞く (2)中川 大氏(富山大都市デザイン学部教授)

リニアの方に優位性/40年で整備費上回る便益

中川 大氏
 政財界を中心に導入の機運が高まる半面、多くの課題を抱える山陰両県への新幹線計画。そんな中、別の選択肢としてリニアモーターカー導入の優位性を挙げるのが富山大都市デザイン学部の中川大教授(61)だ。整備後40年間で整備費を上回る便益があるとの試算をまとめ、「リニアは夢ではない。山陰にとって事業化の可能性が高いのは新幹線よりリニア」と提唱する。

 -2015年3月に開業した北陸新幹線の利用が好調だ。この勢いを受け、山陰両県でも新幹線導入を求める声が広がっている。

 「かつて新幹線は無駄な公共事業と言われてきたが、(11年3月に)九州新幹線が全線開業した頃から評価され、非常に優秀な社会資本だと再認識された。だが、以前から整備効果は高かった。先行する東北や上越新幹線の沿線自治体に野球やサッカーのプロチームがあるのも、交通インフラが整っているからだ」

 -山陰新幹線(大阪-下関)の実現を目指し、島根、鳥取など7府県の52市町村長らでつくる「山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議」の顧問を務める。3年前には、山陰両県を経由し関西と九州を結ぶ超高速鉄道の整備費と費用便益比について、新幹線、リニアの双方で試算した。

 「山陰新幹線がもたらす効果の範囲は山陰が中心になるが、リニアならば日本全体に効果が及ぶ。将来有望なのはリニアではないか。整備費と、整備後40年間の便益とを比較した費用便益比の試算でも、山陰新幹線の1・09に対し、リニアは1・41だった」

 -リニア中央新幹線は、27年に東京-名古屋間で開業し、その後、大阪まで延伸する計画だ。

 「果たして大阪止まりでよいのか。もっと西へ延ばせば、九州へ往来する人も多く使う。国土の危機管理の視点からも、日本海側に新たな交通インフラが必要。山陰はリニアのルートとして将来的に選択肢になるはずだ」

 -整備費の試算では、3兆910億円の山陰新幹線に対し、リニアは13兆3537億円。新幹線以上にハードルは高そうだが。

 「リニア中央新幹線は、整備新幹線事業の順番を飛ばして着工している。新幹線ならば、従来の枠組みにのっとる必要があり、建設は50年以上先になる。(政府はリニア整備に力を入れており)リニアの方が開通が早くなるのではないか」

 -新幹線は厳しいか。

 「北陸新幹線の延伸で、敦賀-新大阪間を約2兆円もの建設費がかかるルートで結ぶことになった。この影響で、現状の財源規模では他の新幹線の整備が何十年も遅れるのは確実だ」

 「国の新幹線の予算は年間700億円台と、信じられないほど少ない。道路予算と比べて2桁違う。鉄道政策がマイナーであってよいはずがない。全体の整備のルールを変えて圧倒的に予算を増やし、貧困な鉄道政策に変革をもたらさなければならない。そのためには世論喚起も必要だろう」

 なかがわ・だい 京都大大学院工学研究科修士課程修了。1981年、建設省(現国土交通省)入省。京大工学部助手、同大大学院教授などを経て、富山大副学長。一畑電車のあり方検討委員会の座長も務めた。富山市在住。

2018年10月4日 無断転載禁止