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ホンダ シビック新車試乗記(第143回)

Honda Civic



2000年10月13日

 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

20世紀の記念碑的大衆車が、21世紀に向けてイメージをガラリと一新

'72年に生まれながらのワールドカーとしてデビューしたシビックは、世界で初めてマスキー法をクリアした初代をはじめ、現在ホンダのウリであるVTECを初搭載するなど、常にその時代に新しい考え方や新技術を提案してきた。しかしここ最近は、基軸車種でありながら、RVブームの陰に隠れ、販売面、注目面でもやや存在が薄れてきたようだ。

そんな中でフルモデルチェンジとなった今回の新型は、21世紀への展望を持つ、転換期となるモデルだ。「スマートコンパクト」というコンセプトのもと、従来と異なる戦略をとったのが新型の最大の特徴だ。まず、これまでの“顔”あった3ドアハッチバックを捨てた。理由はひとつ、もはや売れないから。代わりに5ドア・ハッチバック前面に押し出し、本命という位置づけで革新をアピールする。一方、北米市場でベストセラーの4ドアセダン「フェリオ」は保険的意味合いで継続。旧型にあったスポーティーなイメージを受け継いでいる。

なお、搭載されるエンジンは1.5と1.7リッターの全4タイプで、ギアボックスは4AT/HMM(ホンダマルチマチックと呼ばれるCVT)/5MT。駆動方式はFFと4WD。乗車定員はシビック、シビック・フェリオともに5名となる。

価格帯&グレード展開

価格帯は5ドアハッチが134.8~182.2万円、4ドアセダンが126.8~170.7万円

ボディタイプは5ドアハッチバックの「シビック」と、4ドアセダンの「シビック・フェリオ」の2タイプ。グレードは、まず5ドアハッチバックが「B(134.8万円)」「G(144.8万円)」「iE(154.8万円)」「X(164.8万円)」の4本立てで、「G」と「X」にはFFの他に4WD(18万円高)の「G4」「X4」が用意される。

グレードによって、全て搭載されるパワートレーンは異なり、それぞれ順に105馬力1.5リッター+4AT、115馬力1.5リッター+4AT、105馬力リーンバーン仕様1.5リッター+HMM、130馬力1.7リッター+HMMが搭載される。

グレードによる装備の差は「B」を除いて、大きく違いはない。目に付くところといえば、エアコンが「B」「G」はマニュアルで、「iE」「X」がオート。

15インチタイヤ、グリーンプライバシーガラス、リアアームレスト、リクライニングシート、マップランプなどの小物系は、「G」「iE」にセットオプションで用意され、「X」は全て標準装備となる。

4ドアセダンはFFが「B(134.8万円)」「iE(151.8万円)」「RS(169.8万円)」、4WDは「B4(154.8万円)」「L4(170.7万円)」の計5本立て。「B」「iE」「B4」のパワートレーン、装備はほぼ5ドアハッチバックに準じているが、5MT(FFのおよそ8万円安)が全グレードに用意されているのセダンの特徴だ(「iE」を除く)。

セダン専用となる「RS」は「X」と同じ130馬力1.7リッターエンジンが搭載され、ホワイトメーター、カーボン調パネル、グレープライバシーガラス、ロアスカートなどが追加されて、スポーティ色が強調される。

パッケージング&スタイル

日本では売れないといわれてきた5ドアハッチバックをあえて全面に押し出す

5ドアハッチバックのボディサイズは全長4285mm×全幅1695mm×全高1495mm。旧型比では全長が+100mm、全高で+120mm。ホイールベースは60mm長い2680mm。

そのデザインはヘンに高級感をアピールしようとしてコテコテしておらず、身上わきまえたシンプルかつクリーンなもの。背が高く、ホイールベースの長い特徴的なワンフォルムシルエットは、スペース効率を最優先させた結果だ。ハッチバックというよりもミニバン、いや、ミニ・アヴァンシアといったところか。

無駄を排除した「新世代スペーステクノロジー」

また、スペース効率を徹底的に高めるため、ハードそのものを根本的に見直されているのも注目すべきところ。例えばフロントのショートノーズ化のために、エンジンをモジュール化。電動パワステをはじめとする駆動系のコンパクト化。さらにショートノーズでの衝突安全性を確保するために、高剛性フロントアームを新開発するなど、数々の新技術が盛り込まれている。

「人のためにスペースは最大限に、メカを最小に」という思想から作り上げられたショートノーズ&低床・フルフラットフロアパッケージングによる室内も、これまた、アヴァンシア同様。インパネシフト、足踏み式パーキングブレーキの採用で、前後左右のウォークスルーを可能としている。

室内長1885mmの居住空間は、文句なしの広さ。特に室内高なんて、オデッセイ1215mmを凌ぐ1230mm! 後席の広さはもちろん、ラゲッジ容量だって370~730リッターと同クラスをリードする。

質感はクラスや値段を考えると妥当な作り。丁寧な作り込みで勝負するクラスを超えたカローラに対して、シビックはカジュアルなデザインで「安っぽさ」を隠している。淡いグリーンやブルーの室内色もその好例。清潔感と開放感に溢れているがつまりはクラス並。それ以上でも以下でもない。

時代、時代に常に新しい提案をしてきたシビックの個性は、今回もハードからパッケージングまで十分感じられる。際立って目立たないもの明らかに「新しい」雰囲気をもっている。セダンとワゴンというオーソドックスなボディに最高の品質でカローラが20世紀最後の完成品を目指したとすれば、シビックはまったく今までとは違う21世紀型の大衆車の姿を提案したクルマで、その意味ではホンダらしい冒険作といえるだろう。

フェリオはミニ・アコード。セダンのデザインに新しい提案はなし

photo_3.jpg一方、フェリオはキープコンセプト。スポーティなイメージから脱却してタウンカーに特化した3ドアとは対照的に、旧型のイメージを引き継いだデザインで、若干シャープになったかなといった程度。そう、ミニ・アコードともいえるコンサバ路線だ。このクラスは営業車需要もバカにならないから、これはこれで正解だろう。

なお、ボディサイズは、全長4285mm×全幅1695mm×全高1495mm。旧型比では全長が-15mmと、ちょっとだけダウンサイジング。ホイールベースは3ドアより60mm短い2620mmとなる。

室内も冒険なし。5ドアのインパネシフトは採用されず、旧型とほぼ同じレイアウトとなるインパネ造形、フロアシフトを採用する。北米市場での好調な売れ行きを思えば、ホンダが冒険したくないというのも当然だろう。

基本性能&ドライブフィール

一に環境、二に環境。DOHC、リッター100馬力オーバーのスポーツエンジンは今のところなし

エンジンは1.5リッター直4と1.7リッター直4。その中で1.5リッターにはSOHCで105馬力/13.8kgm、SOHC・VTECで115馬力/14.2kgm、SOHC・VTECのリーンバーン仕様で105馬力/14.2kgmという3タイプ。1.7リッターはSOHC・VTECで130馬力/15.8kgmとなり、全部で4タイプが用意される。旧型までの馬力追求型のエンジンは用意されていない。ギアボックスは5ドアがホンダ・マルチマチック(HMM)と呼ばれる油圧クラッチ+CVTと4速AT。フェリオは、これに加えて5MTも用意される。

足回りはプラットフォームの変更により新設計となる。型式自体も長年使われてきた4輪ダブルウィッシュボーンではなく、フロントは一般的なストラット式に変更されている。これは先述した「メカを最小に」という理由から。コンパクト&軽量化が図られる上、コストも低減できたはずだ。リアはフロアへの張り出しを最小限に抑えた新タイプのダブルウィッシュボーンが採用される。

全車、環境★2つを取得。速いシビックから優しいシビックへ

日常の足として使われることがほとんどのこのクラスでは、動力性能や走りの楽しさもさることながら、経済性や環境性といった地味なテーマこそ重要な部分となる。シビックはそこにトコトンこだわった。最重要ポイントは、リッター100馬力オーバー(旧型の売り)よりもエネルギー効率や環境適合性だ。

まず、全タイプ、平成排出ガス基準値を50%以上下回る「優-低排出ガス(★2つ)」認定を取得。さらに1.5リッターのリーンバーン仕様ではHMMとの組み合わせにより、10・15モード燃費20.0km/リットル(フェリオ)という常識はずれの高燃費を達成する。これ、22.5km/リットルを謳う1.0のヴィッツに肉薄する数値。60kg軽いカローラでさえ16.6km/l。CVTとATの違いはあるけれど、ホンダにエンジン作らせると、やっぱりスゴイ。

低燃費だからといって実際の走り自体は、おろそかにされていないのもホンダ流。低回転から高回転まで軽く吹きがるエンジンは、いかにもホンダ印。加速は過不足のないもので、排気量の小さいクルマにありがちな、通常のキックダウン→騒々しさといった安っぽさはなく、滑らかな変速フィーリングが印象的だ。その上で財布にも環境にも優しいとあれば、シビックの技術的な先進性は間違いなくライバルをリードしている。乗り心地はソフトで、コンフォータブル。ハンドリングはホンダらしく軽快感のある性格が与えられているが、フットワークも穏やかな傾向だ。

とはいえ、今回、3ドアの1.5リッター・4AT車を試乗したわけだが、実用上十分なパフォーマンスを持つけど、それ以上でもそれ以下でもないというのが本音。カローラのように質感のある作りでもないし、それほど静粛性に優れているわけでもない。ハンドリングも軽快感はあるが、タイヤがプアなことも有り、楽しいコーナリングというわけにはいかない。高速でもなにも不満がないが、印象も薄い。走ってごくごくフツーのクルマである。おそらくリーンバーンとCVTの組み合わせではもうすこし印象が異なると思う。いずれ乗って報告したい。

ここがイイ

さすがにホンダらしい提案型のモデルだ。5ドアハッチバック一本という姿勢は見事。スペース効率は最高で室内は広く、各座席にカップホルダーもあり、乗車している人全員が等しく快適だ。インパネシフトは確かに使いやすいし、ウォークスルー可能なフラットフロア、たためばミニバン並に詰めるラゲッジなど、これ一台で全てこなせる理想のコンパクトカー。それでいて、燃費、環境面、そして衝突安全性で素晴らしいとくれば、もうほとんど言うことなし。

ここがダメ

インパネシフトはいいが、インパネはあたりまえすぎる。特にカーナビディスプレイを置く位置がはっきりしていないのは21世紀カーとして問題。オートエアコンは空調ツマミが縦に並びディスプレイを上の方に持って行けるが、マニュアルエアコンでは2DINの上にツマミが並び、とてもじゃま。どうしてこうなってしまったのか。

またせっかくのウォークスルーをだいなしにしているのが、大きな回転式アームレスト。これのおかげで実質ウォークスルーがムリに。せめて取り外し可能にして欲しいところ。

総合評価

photo_2.jpg三代目シビックにはシャトルという評価だけは高かった5ドアハイトハッチバックがあったが、あれがついによみがえったという感じだ。当時からこのかたちがコンパクトクラスにはもっとも合理的、という考えがホンダにはあったはずだが、それを21世紀のベーシックカーのスタンダードにしてしまえ、という今回の大英断には大拍手を送りたい。そして走りや質感などにもベーシックカーはこういうものだという提案があり、過度に華美になっていないことは、たいへん好感が持てるところ。

ただ、カローラはそれに真っ向から対抗して、クラスを超えた質感を訴えてきており、商売的にはウマイ。消費者はついカローラになびいてしまうだろう。そこが厳しいところで、いいもの出しても解かってもらうのはなかなか簡単ではない。今後ミニバンからクーペまで様々なバリエーションが登場するはずなので、それらが出て初めてシビックの本当の姿が見えて来るだろう。いまのところは、カローラさえなければ、というのが本音だ。

公式サイト http://www.honda.co.jp/CIVIC/

 
 
 
 
 
 
 

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