梅雨の明けた真夏の夕方、西日のきつい東映大泉撮影所に、ジーパン姿で颯爽と現れた男性。
ちゃぶ台をひっくり返したり、地球を征服しようとしたり、ましてやブルドーザーに変型するなんてことは・・・ない。
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“加藤精三”という名前を見て、ピンと来る人は、そう多くはないだろう。しかしその声を聴けば、誰もがすぐに分かるはず。『巨人の星』の主人公・星飛雄馬のとうちゃん、星一徹の声を演じた声優さんだ。東映作品では『仮面ライダーBLACK RX』ジャーク将軍、『電撃戦隊チェンジマン』星王バズー、『特救指令ソルブレイン』ソルドーザー、『光戦隊マスクマン』地帝王ゼーバ等々、出演作は枚挙にいとまがない。さらにこの夏に公開の映画『劇場版 仮面ライダーファイズ パラダイス・ロスト』にも出演。東映特撮ファンならば、重要人物としてチェックしておかなければならないだろう。
東映ヒーローネット(以下、THN):俳協のホームページにあるプロフィールには和服姿のお写真がアップされていたので、何となく和服のイメージがあったのですが・・・。
加藤精三氏(以下、加藤):僕は汗っかきだから夏は着物は着ないですね。夏物ってのは高いから1枚もないんです(笑)。昔、ガマ親分っていうのを演るようになったら、汗をかく体質になっちゃったんですね。
THN:『おはよう!こどもショー』のガマ親分ですね。
加藤:あの中に僕自身が入って演ってたんですよ。
THN:声だけではなかったのですか。
加藤:あれはね、着ぐるみの中に小さなマイクが仕込んであって、自分で声を出せるようになっているんです。だから動きも思うようにつけられたんですよ。最初の半年ぐらいは生放送だったので、毎朝5時に行って準備していたんです。早起きが大変でしてね。その後、1週間分をため撮りするようになったんだけれど、今度はいっぺんに何本も撮るもんだから汗をかいちゃってね。着替えのシャツを5〜6枚持っていってたなぁ。それで汗腺開いちゃって、汗をかく体質になったんです。
THN:子供の頃は毎日観ていました。ところで加藤さんが声優におなりになったきっかけというのは?
加藤:そんなにハッキリとしたきっかけはないんです。昔はまだ声優なんて言葉もありませんでしたしね。僕が初めて吹き替えをやったのは昭和33年ですから、当時は生(放送)なんですよ。映像を見て役者が口を動かしたらしゃべるみたいな感じでしてね。極めてアナログ的な危なっかしさがありましたね(笑)。機材の数もないのでヘッドフォンをつけてやるようなこともなかったしね。「あっ、あっ・・・」なんて言っているうちにどんどんドラマは進んじゃってね。一応、リハーサルもあるんですけれど、何せ生でしたからねぇ(笑)。
THN:では、加藤さんもそういった失敗を?
加藤:そうですねぇ。まぁ本当にドキドキもんでしたよ。
THN:でも確認をしようにも、録音されていないわけだから証拠は残りませんね(笑)。具体的にはどんな作品だったのですか?
加藤:洋画だったんですが、まだ洋画全盛になる前のテストのようなものだったんでしょうね、シリーズ物ではなかったですから。それからしばらく間があるんです。その間は顔出しの時代劇や『月光仮面』だとか、そういうものに出てましたから。僕がアテレコでレギュラーをもらったのは昭和35年の『探偵マイケル』という作品ですね。とにかく間違いなく言うのが精一杯でした。全然余裕なんかなくて、今聞いたら聞くに堪えないようなセリフだったんじゃないでしょうかね。そのころはもう録画になってましたが、声優という言葉はやはりまだなかったですね。38年頃からアテレコの仕事の方が徐々に多くなってきたんですよ。シリーズ物がどーっと入ってきましたから。『拳銃無宿』とか『ローンレンジャー』とか西部劇がたくさんねぇ。 |
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加藤精三氏が声を演じた代表的なキャラクターたち。上から『仮面ライダーBLACK RX』ジャーク将軍、『電撃戦隊チェンジマン』星王バズー、『光戦隊マスクマン』地帝王ゼーバ。
こうして普通にお話をされているときの声は、どのキャラクターとも違う。しかし張りのある声は圧倒的な存在感。 |