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女だって性々堂々と ティーンズラブ 脳科学で読み解く

(C)笠倉出版社、蒼乃シュウ 「愛しのKANSAI男子」より

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 オンナだって堂々と“エロ”を楽しみたい! 漫画や小説、アダルトビデオ(AV)…これまで男性向けが主流だったジャンルに、女性向けがめきめきと増えている。のぞいてみると、男性向けとは性表現の仕方が驚くほど違うようだ。作品のつくり手や脳科学者らと、その秘密を探った。(担当・兼村優希)

♂は刺激 ♀はストーリー性

 「ティーンズラブ(TL)」という女性向け漫画をご存じだろうか。ごく普通の女の子が、イケメンに恋をして結ばれる…。ストーリーは、まるで少女漫画。違うのは、作中に赤裸々な性描写も出てくることだ。

 −編集者として働くつぐみは、彼氏を親友に寝取られ、やけくそで見知らぬ男と一晩を共にしてしまう。その男は有名な恋愛小説家の吾妻だった。「君のことを書きたい」と迫る吾妻。先生の作品のため…つぐみは体を許していく−。

 創刊14年目のTL誌「絶対恋愛Sweet」(笠倉出版社)で作品を描き続ける蒼乃シュウさんの最新作「契約恋愛」の一場面だ。

自宅兼作業場で作品を執筆する蒼乃シュウさん=大阪市で

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 ベッドシーンは各話に必ず登場する。でも、性的な行為を単に描写するわけじゃない。つぐみの心のつぶやきが絶えず書き込まれ、徐々に吾妻に心を開いていく様子が伝わってくる。

 「エッチにたどり着くまでの過程が大事。きゅんとした人としかエッチしないのが鉄則です」と蒼乃さん。他の作品でも、相手役はちょっと強引な金持ちだったり、甘えんぼの年下だったり。「女子の妄想の塊です」。もちろん、痴漢やレイプといった女性がつらい思いをする設定は避ける。

 性器を直接的には描かず、背景にトーンで模様をちりばめて華やかな雰囲気を演出する。やたらと胸を誇張した女の子が登場して見た目で興奮をあおったり、性行為の場面がストーリーの大半を占めたりする作品が目立つ男性向けのポルノ漫画とはだいぶ違う。

 ターゲットは若い女性だが、家事の合間に読む主婦も。電子書籍が普及し、多くの女性が読みやすくなったらしい。

 「リアルに近いのは、エッチありの愛。少女漫画では描けない、TLならではの視点から、変わることのない真実の愛に迫りたい」。蒼乃さんの思いは熱い。

     ☆

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 ストーリー性重視の女性向けと、視覚的な刺激が強い男性向け。性表現の違いを、脳科学者の中野信子さん(39)=写真=は「異性に性的興奮を抱くとき、男女の脳では反応する場所が違う。それが好みの差にも出ているのでは」と分析する。

 女性の場合は「帯状回(たいじょうかい)」と呼ばれる領域の一部で、前後の文脈などと矛盾がないかを考える部分が反応する。中野さんは「女性にとって性行為は妊娠や出産など、リスクを伴う活動に直接つながる。だから、慎重に考える領域が発達してきた」とみる。

 一方、男性は視覚をつかさどる「島皮質(とうひしつ)」が活性化。漫画での性表現の傾向とぴったり一致する。「男性は、自分の遺伝子を受け継ぐ子を健康で賢く産んでくれる女性なのかを、非常にシンプルに見た目で選んでいる。ポルノ漫画や官能小説では、刺激が直接的な、わかりやすい表現や構成が好まれるはずです」

 やはり、男女は大きく異なる生きもののようだ。こうした違いを理解すれば、パートナーとの気持ちのすれ違いは起きにくいかも?

「ぬれる」小説が集結

(C)笠倉出版社、蒼乃シュウ 「契約恋愛」より

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 「女性が書く、性をテーマにした小説」と打ち出し、創設された文学賞がある。その名も「女による女のためのR−18文学賞」。14年前の創設以降、応募数は年々伸び、4年前に性表現やジェンダーを扱った作品以外にも対象を拡大。2014年度は、全国から800作が寄せられた。

 事務局は新潮社(東京)。応募者も、選考委員の人気作家も全員女性で、入賞者には賞金と体脂肪計付ヘルスメーターが贈られる。

 創設のきっかけは、男性が書く官能小説についての女性社員の何げない会話だった。レイプされても最後には喜ぶ女性が登場することなどに違和感を覚え、「こんなやり方じゃぬれない」。女性なら同性が納得できるものを書けるのではないかと考えた。

 当時、官能小説は男性向けが主流で、女性が書くには勇気が必要だった。1年目の応募は300作ほど。担当者は「自分の経験を書いている人も多く、性描写も自然な内容。やっぱり女性は心が伴わないとダメなんだろうなと感じた」と振り返る。

 賞の知名度は年々上がり、入賞作品の映画化や人気作家になる人も出てきた。積極的に性を扱う女性作家は増え、事務局は11年、「性がテーマの新人賞は一定の社会的役割を終えた」として、賞の対象を「女性ならではの感性を生かした小説」に広げた。

 「小説を書く上で、性描写はどこかで挑戦しなければならない関門」と担当者。文学賞は、女性作家の表現の幅を広げる機会として、一役買っている。

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エロメンも ラブグッズも

「セックスペディア」著者 三浦ゆえさんに聞く

 女性が性を語るのは、男性よりハードルが高い気がする。でも、これだけ女性が性を楽しむ作品が増えれば、事情は変わっているかも?

 現代女子のリアルな性事情を百科事典風にまとめた「セックスペディア」(文芸春秋)の著者で、富山市出身のフリーライター三浦ゆえさんに聞いてみた。

     ☆

(C)笠倉出版社、蒼乃シュウ 「契約恋愛」より

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 最近、性に積極的な女性が増えました。女性向けAVも生まれ、「エロメン」と呼ばれる人気男優の握手会には全国からファンが集まる。ちょっと前までは考えられなかったですよね。

 要因の一つは、女性の社会進出。女性は生活を男性に頼り、性の現場でも男性に消費される立場に甘んじていた。性欲すらないと考えられた時代もあるくらい。もちろん違います。性犯罪のリスクに注意は必要ですが、女性は自立したことで、性を主体的に楽しむようになってきました。

 もう一つは、インターネットの普及。同じ趣味の仲間とつながり、地域間格差もなくなりました。生まれ育った富山は、国道沿いに怪しい大人のおもちゃの店があるくらいで…とても女子は行けない(笑)。今はネットで気軽にラブグッズも買えますからね。

 この前、飲み会で性をオープンに語ってたら、同席していた男性に「夢を壊すな」と怒られました。“性欲のない女性”像はまだ根強いです。男性も、女性向けのエロコンテンツを見て、こちらの求めていることを知ってほしい。男女が寄り添いながら性を楽しめる世の中になってほしいですね。

 担当・兼村優希

 

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