SDGs@大学

次世代医療の切り札となる「人工血液」 中央大学・小松晃之研究室

2022.12.14

author
岡田 慶子
Main Image

◇小松晃之教授/中央大学理工学部応用化学科

少子高齢化が進む日本。経済を始め、さまざまな面での影響が懸念されているが、そのひとつに輸血液の不足がある。未来の医療に大きく貢献する可能性があるのが、「人工血液」だ。写真は小松晃之教授(写真中央)と研究室のメンバーたち。JAXAを始めとする団体や企業、他学部との共同研究も多い(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)

世界最高レベルの献血・輸血システムを備えると言われる日本。その輸血用血液製剤の原料血液は100%が献血で賄われている。

「日々の献血活動によって血液が確保されていますが、コロナ禍で献血者数が激減し、血液不足が懸念されました。今後、輸血者層である若い世代の人口が減少すると安定した輸血液の供給が難しくなり、2025年には年間約65万人分の血液が不足する試算もあります。また、地震や台風など大規模な自然災害時の輸血対策についても課題があります」(小松晃之教授)

そこで期待されているのが、献血に頼らない「人工血液」の開発・実用化だ。小松研究室では血液の主成分である赤血球からヘモグロビンを取り出し、アルブミンというたんぱく質で包み、人工的に血液を作った。これが人工血液・HemoAct(ヘモアクト)だ。シンプルながらも誰もやったことのなかったアイデアが製剤化の成功へとつながった。ヘモアクトには血液型がないという特長がある。誰にでも投与が可能で、凍結乾燥した粉末は2年間保存可能。軽くて輸送コストが抑えられるメリットもある。

2022年は半年ほどドイツで研究を進めていた小松晃之教授。学生からの信頼も厚く、この日も研究室は終始、和やかな雰囲気だった(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)
2022年は半年ほどドイツで研究を進めていた小松晃之教授。学生からの信頼も厚く、この日も研究室は終始、和やかな雰囲気だった(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)

現在、ヘモアクトは各方面から高い注目を集めている。例えばJAXA(宇宙航空研究開発機構)も本研究に着目し、共同プロジェクトが立ち上がった。15年からISS(国際宇宙ステーション)の実験に参画し、宇宙という特殊な環境でたんぱく質の結晶構造解析が行われている。他大学の医学部や薬学部との共同研究では臓器の保存液やがん治療への応用など、血液代替以外の活用についての研究も進められている。さらに獣医学の分野からは、ペット用人工血液への熱い期待が寄せられている。動物には人間のような献血制度がないため、現状では輸血を伴う手術や治療は難しい。開発に成功すれば救える命も格段に増え、動物医療の現場に大きな革命をもたらすことだろう。

修士2年の吉田瑠佳さんは、赤血球をそのまま使用した人工血液の開発に取り組んでいる。ヘモアクトとは異なる新しいアプローチでの挑戦だ。

「ヘモアクトとは扱い方が全く異なり手探り状態ですが、毎日朝から夕方まで研究に没頭しています。学部生の頃は教員を目指していましたが、研究の面白さに気づき、民間企業の研究員になることに決めました。小松先生は学生一人ひとりを細かく指導してくださいます。手厚いフォローは本当にありがたく、さまざまな研究に携われたことは、私の大きな財産になりました」(吉田さん)

「実用性の高い研究に携わりたいと思い、この研究室を選びました」と語る吉田瑠佳さん(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)
「実用性の高い研究に携わりたいと思い、この研究室を選びました」と語る吉田瑠佳さん(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)

人工血液の研究は1980年代ごろから世界中で取り組まれてきた。小松教授自身も学生時代からこの研究に取り組み、今ようやく実用化まであと一歩というところまできた。

「人工血液の需要はまったなしですから、課題を解決し、実用化をかなえたい。これまで存在しなかったものを作って、世の中に貢献できればうれしく思います。『世界中の人々の役に立つもの』を追いかける研究は、やりがいがあります。学生たちにも大きな夢を持って前進してもらいたいですね」(小松教授)

学会発表などにも積極的に取り組む同研究室。海外の著名な科学雑誌に投稿した論文が、その表紙を飾ることもたびたびある(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)
学会発表などにも積極的に取り組む同研究室。海外の著名な科学雑誌に投稿した論文が、その表紙を飾ることもたびたびある(写真/朝日新聞出版・加藤夏子)

【大学メモ】

中央大学 1885年の「英吉利法律学校」を起源とする。学部・大学院生数は2万7117人(2022年5月1日現在)。23年度に茗荷谷キャンパスを開設し、法学部が移転予定。

バックナンバー
新着記事
新着一覧
新着一覧

ページトップ