特殊コラム
第1回 ガンダムSEED世界における映像表現としての小火器
ザフト軍のライフル。クルーゼ隊がガンダム強奪の際に使用したもの。
 『ガンダムSEED』の世界には、インディビデュアル・ウェポン(個人用携帯火器)としての指向性高エネルギー火器、いわゆるビーム兵器は登場してきません。モビルスーツを実現するような世界の技術水準を考えれば、ハンドブラスターやレーザーガンなどがあってもおかしくはなさそうです。なのにそれが存在しないわけには、大きく分けて三つの理由があります。
 一つ目は、のっけから曖昧ないい方になりますが携帯火器としてのビーム兵器がガンダム系リアルロボットの世界観にそぐわないこと。なんとなく、初代のガンダムからの引き継ぎ(?)で伝統的にコンベンショナルな拳銃やライフルを出した方が「ガンダムらしい」雰囲気が出てしまうのです。現実の戦場でこうしたビーム兵器が実用化されていないためかもしれませんが、そこはかとなく、ハンドガンサイズのビーム兵器ってリアリティがないでしょ? いや、そりゃあ全高20メートルのモビルスーツだって実用化はされていませんが、そんなことを言い出したら……ねぇ。
こちらは連合軍のライフル。
 二つ目の理由は、映像的に小口径ビーム兵器というのは、地味であること。意外に思われるかもしれませんが、映像としての成り立ちを見るとビーム兵器は実体弾を発射する銃ほどの「華」がありません。たとえばレーザーガン。発射トリガーはただのスイッチだし、撃発音もほとんどなし。撃っても反動はないし、ビームは事実上目に見えない。命中した場所にも小さな穴が開くだけです。それに動力源は、おそらくはバッテリー。これでは私の子供が持っているオモチャと変りません。それに引き換え、コンベンショナルな小火器はといえば!
連合軍人が携行する拳銃。コンパクトでカッコいい。
 たとえば代表的な自動拳銃ならば、マガジン(弾倉)にカートリッジ(弾丸)を込め、それを銃に装填する。スライド(遊底)を引いて、初弾をチェンバー(薬室)に送る。同時に、後退するスライドがハンマー(撃鉄)をコックして(起こして)、撃発準備が完了する……とまあ、簡単に書いても、弾を込めて発射準備をととのえるまでにこれだけのアクションがあるわけです。これでトリガー(引き金)を引くと、ハンマーが落ち、轟音と共に銃口(マズル)からブレット(弾丸)が飛び出し、同時に発射ガスの圧力でスライドがリコイル(後座)して空になった薬莢をイジェクション・ポート(排莢口)から蹴り出す。さらにスライドは後退して再びハンマーをコックしたのち今度は前進、次のカートリッジをマガジンからすくいあげチェンバーに装填して次発にそなえる。おおっ、憧れのブローバック!
アスランに銃を向けるカガリ。この雰囲気が“らしい”のです。
 一方、発射されたブレットは標的に命中してその運動エネルギーをぶちまけ破壊している。その直後、蹴り出された空薬莢は地面に落ちて澄んだ金属音を立てる、と……ああ、なんてドラマチックなんだ! これだよこれ、これこそ漢のツールなんですよ、兄貴! ビーム兵器なんか、目じゃねぇんだよぉっ、おれに銃を撃たせてくれよぉっっ!
……で、三つ目の理由ですが、それはこのコラムのきっかけともなった話で、元はといえば24話「二人だけの戦争」アフレコ収録時にアスラン役の石田彰さんが……あっ、もうスペースをオーバーしてるしっ、以下次号!





■著者プロフィール・森田 繁(もりた しげる)■
スタジオぬえ所属。学生時代に『ガンダムセンチュリー』の編集に参加し、そのまま業界入り。『超時空要塞マクロス』を皮切りに様々なアニメーション、実写、ゲームなどの企画に携わる。時には小説も書く。『∀ガンダム』で設定考証、『ガンダムSEED』では特殊設定と脚本を担当。

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