早発乳房 premature thelarche


 乳幼児のお乳が一時的に大きくなるもので、それ以外には他の性早熟徴候が見られないものをこのように呼びます。(思春期前乳房隆起 premature thelarche)。10万人あたり40人くらいということですが、めずらしいというほどではありません。.

症状
お乳が大きくなるのが唯一の症状です。乳腺と乳房が軽度大きくなります。異常に大きくなることはありません。ほとんどが両側 性ですが、片側だけのものもあります。ほとんどは60〜85%が2歳以下の発症です。

診断
血液中の(※)LH、FSHやLH-RHというホルモンを測定します。その他、身長や骨年齢を測ります。
思春期早発症と区別するのが非常に大切です。(FSHの基礎値,LH−RHに対する反応性が高い)
思春期早発症と異なるのは進行しないことです。

治療
特に治療はありません。数ヶ月から3年以内に自然に触れなくなります。

その他の注意
直径25ミリ以上のもの、身長増加速度が異常に高かったり、骨年齢が異常に進む子どもたちには要注意です。経過中に思春期早発症が発症してくることもありますので、定期的なフォローが必要です。内分泌の所見に異常がでてくる場合には早発乳房ではなく、思春期早発症の可能性があり、脳に過誤腫やのう胞のような良性の腫瘍ができていることがあります。この場合頭部MRIや骨盤腔超音波、MRIの検査が必要です。
                                                        
(2001.9)

 (文献 25)
★思春期前期の男女に片則あるいは両側にわたり、一過性の硬結のある直径2.5〜5センチの腫瘤を乳輪後部に触知することがあります。疼痛があり、初乳様の分泌物が出ることがあります。
男児の場合、30〜65%に見られるとされ、正確な原因は不明ですが、アロマターゼ変換酵素活性の亢進により、男性ホルモンに比して相対的に女性ホルモンが上昇する(E2/テストステロン比の上昇)ことなどが推測されています。
治療は必要なく、様子を見ていると消失してきます。発赤が強くなったり、膿が出たり、より大きくなる場合には検査を受ける必要があります。

※より詳細に
乳房の発達には女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が作用するため乳房腫大が認められるときには何らかの形でエストロゲンが関与していると考えられる。
エストロゲンは主に卵巣から分泌され、その分泌は視床下部-下垂体卵巣系(Hypothalamus-pituitary-gonadal axis:HPG axis)により調節されている。
乳房腫大の評価はTanner分類によって評価する。視床下部からの黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)分泌は新生児〜乳児期前半にかけて盛んであるが、その後は思春期を迎えるまで抑制されている。 早発乳房の原因と考えられているのはHPG axisの一時的な活動亢進により卵胞刺激ホルモンが増加し、卵巣からエストロゲンが微量に分泌される可能性を指摘されている。エストラジオールの軽度上昇が確認されている。
また、エストロゲン受容体遺伝子の多形により乳性のエストロゲンに対する感受性が亢進している可能性などが指摘されている。

※男児の思春期乳腺腫大の鑑別診断として、Klinefelter 症候群、副腎腫瘍、精巣腫瘍、肝機能障害、甲状腺機能低下症、スピロノラクトン(アルダクトン)など女性ホルモン作用を持つ薬剤の使用など考慮しておく。
(文献 50)

LH(Lutenizing Hormone):黄体化(黄体刺激)ホルモン
卵巣に存在する卵胞(卵を取り囲んで卵の発育を補助する胞状体)を刺激して発育を促す働きを持つ。卵胞が発育することによって卵が成熟し、同時に卵胞ホルモン(エストロゲン)も増量する。
FSH(Follicle Stimulating Hormone):卵胞(濾胞)刺激ホルモン
成熟した卵胞(グラーフ卵胞)に対して排卵を促す作用と、排卵後の卵胞に対して黄体化を促す作用とを持つ。黄体化が起こることによって、卵胞ホルモン(エストロゲン)に加えて、妊娠維持に必要なホルモンである黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるようになる。卵胞発育に対してはLHの補助的役割を担うと考えられている。
LH-RH(LH-releasing hormone:LH放出ホルモン)
間脳から脳下垂体へLH、FSHの分泌を調整するために出るホルモン。
LH、FSHは脳下垂体前葉から分泌されるホルモンで、どちらも卵巣を刺激するように働くホルモンである。LH、FSHは脳下垂体という部位から放出され、卵巣を刺激する働きを持っている。これらのホルモンの働きによって卵巣には周期的変化が生まれ、この結果卵胞・黄体どちらからも放出されるエストロゲンと、黄体からのみ放出されるプロゲステロンの2種類の女性ホルモンが周期性変化を示すようになる。  この2種類の女性ホルモン量は、常に脳の中の間脳という部位でチェックされていて、ホルモン量が少なければLH、FSHを増量するように、多すぎるならばLH、FSHを減量するようにという命令を脳下垂体に向かって出すという形で調節を行っている。これをフィードバック機構と呼ぶ。
 卵巣の機能は脳下垂体とその上部にある間脳(視床下部)によって調節を受けており、卵巣の機能も間脳に影響される。不摂生、ストレス、睡眠不足などがあると、これらの事柄は間脳の調節機構を介して卵巣機能にも直接影響する。
hCG
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(ヒトじゅうもうせいゴナドトロピン、英語: Human chorionic gonadotropin、略称: hCG)
妊娠中に産生されるホルモンである。
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