シンガポール、同性愛行為を禁じる刑法条項を撤廃へ

Supporters attend the annual "Pink Dot" event in a public show of support for the LGBT community at Hong Lim Park in Singapore on June 18, 2022.

画像提供, Getty Images

シンガポールのリー・シェンロン首相は21日、同性愛行為を犯罪とする刑法の条項を近く廃止すると表明した。これにより、実質的に同性愛が合法化される。

シンガポールの刑法377A条は、男性間の性行為について、最長2年の禁錮刑に処すことができるとするもの。ここ数年、この条項をめぐる訴訟や撤廃を求める声が相次いでいた。

同国のLGBTQ(性的マイノリティー)権利活動家らは、政府の決定を「人道の勝利」だと歓迎している。

アジアでは2018年にインドが同性愛行為を合法化台湾は2019年に同性婚を認めたほか、タイも2021年に同性婚を事実上認めるなど、LGBTの権利を認める動きが高まっている。

一方でシンガポール政府は、同性婚は認めない方針を示している。

「現在の社会規範を反映」

政府はこれまで刑法377A条を保持する一方で、実際にはこの条項を適用しないと約束していた。

しかしシェンロン首相は21日に国営テレビで行った演説で、同条の撤廃が「正しいことであり、ほとんどのシンガポール国民が受け入れてくれるだろう」と話した。

また、「同性愛者の人々は現在、さらに受け入れられるように」なっていると説明。377A条を無くすことでシンガポールの法体系が「現在の社会規範を反映するものになり、シンガポールの同性愛者の人々に安心を与えられると願っている」と述べた。

権利活動家のジョンソン・オンさんはBBCの取材で、「ついにこの差別的で古臭い条文をやっと法律書から消し去れることがうれしい。少し時間がかかりすぎた気もするが、いつかはこうなるべきだった。私たちは今日とても、とても幸せだ」と語った。

LGBT権利グループの連合組織は、「必死に手に入れた勝利であり、愛が恐怖に勝った結果だ」と称賛。完全な平等への最初の一歩だと述べた。

同性婚は認めない方針

一方で、シェンロン首相が同じ演説で語った内容に懸念を示す声もある。

首相は今回、結婚は男性と女性が行うものだという定義への法的保護を充実させると述べた。これにより、シンガポールでの同性婚成立が難しくなるとみられている。

シェンロン首相は、シンガポールはなお、家族や社会常識を維持しようとする伝統的な社会だと述べた。

LGBT活動家らはこの発言に「失望した」と述べ、社会での差別をさらに確固にするだけだと警告した。

一方、保守派グループ「プロテクト・シンガポール」は、「包括的な保護措置」が確立される前に刑法377A条の撤廃が決まったことに「深く失望している」と述べた。

同グループは、異性婚の定義を憲法で明確に示すことや、未成年への「LGBT促進」を禁止することなどを求めている。

LGBTへの支援高まる

シンガポールは1965年にイギリスから独立した後も、植民地時代に導入された刑法377A条を維持することを選んだ。

同法は男性の同性愛行為を違法とするものだが、実際には同性愛そのものを禁止するものとみられている。

しかし、ゲイのナイトクラブがオープンするなど国内でLGBTの存在が高まり、ここ数年はこの法律が適用されることはなかった。

それでもLGBT活動家は長年、刑法377A条は同性愛者に社会的な烙印(らくいん)を押しており、差別を禁止する憲法にも違反しているとして、撤廃を求めてきた。また、同条の存在が生活の他の部分にも影響を及ぼしていると指摘していた。

たとえば、シンガポールのテレビでは「同性愛を促進する」とみられるコンテンツは全て放送が禁止されている。これまで、そうした内容のテレビ番組や映画は検閲を受けてきた。

また、この法律が、シンガポールはオープンで多様性のある国際金融ハブだというイメージに反するとの指摘もある。シンガポールを拠点とする多国籍企業は、377A条が才能のある人の雇用を妨げる一因になると述べていた。

賛否の活動が活発化

同国では多くの国民が377A条の維持を支持している一方、世論調査などではLGBTの権利への理解が高まっており、ここ数年で撤廃を求める声が増えていた。

こうした中、LGBT活動家や、宗教団体を主体とする多くの保守派も、この問題をめぐって活発に活動していた。

シンガポールでは抗議デモや政治集会が厳しく規制されているが、LGBT活動家らは毎年数万人が参加する、「ピンク・ドット」と呼ばれる国内最大の市民行進を開催している。

一方の保守派は、ソーシャルメディアでのキャンペーンやイベントで、伝統的価値観の保護を訴えているほか、一部の教会は性的指向を変えられるとする「転向プログラム」を行っている。転向療法をめぐっては近年、ヨーロッパを中心に禁止論が高まっている。

シェンロン首相は演説で双方に理解を求め、「すべての派閥が自制するべきだ。それが、国家として共に前進する唯一の方法だ」と述べた。

Attendees form the characters Repeal 377A in a call to repeal Section 377A of Singapore's Penal Code which criminalises sex between men during the Pink Dot event held at the Speaker's Corner in Hong Lim Park on June 29, 2019 in Singapore.

画像提供, Getty Images

画像説明, 2019年の「ピンク・ドット」で刑法377A条の撤廃を求める参加者

イギリス植民地時代の遺物

イギリスが植民地に敷いた同性愛を規制する法律は、シンガポールだけなく、多くのアジアやアフリカ、オセアニアの国々で現在も適用されている。

イギリスのインド植民地政府は19世紀、「あらゆる男性、女性、あるいは動物に対する、自然の秩序に反する性行為」を禁止。この刑法を他の支配地域にも適用した。そのため、ケニアやマレーシア、ミャンマーといった旧植民地国では、現在もシンガポールの刑法377A条と同じ内容の条項が存在している。

こうした中、2018年にインドの最高裁判所が同性同士の性行為を合法化。他の旧植民地国でも同様の動きが始まっている。

また、台湾やタイなど、同性婚を認める段階に進んだ国もある。

(英語記事 Singapore to end ban on gay sex