平成22年6月特集 ニュータウンと団地の再生

東京・高島平団地

高島平団地の再生プロジェクト

高島平総合研究所事務局長

堀口吉四孝

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高島平団地の変遷

私たちの住む高島平は東京都の北部、板橋区の荒川沿いに位置し、かつては東洋一の規模と言われた巨大な高島平団地のある町である。

昭和四十七年、高島平団地への一斉入居が始まった。当時は庶民の憧れの高層集合住宅である。曜日を問わず、連日、引っ越しのトラックが団地内を走り、廊下を家具や電気製品を運ぶ人々が行き交う日々であったという。

そして、当然のことながら若い夫婦たちの間に子どもが続々と産まれ、まず保育園不足にはじまり、ついで小学校、中学校と、子どもたちの成長とともにインフラの整備が急がれたが、それも焼け石に水のようであったと聞く。

平成三年当時、高島平全体の人口はおよそ五万人。そのうち、団地の人口はおよそ二万五千人。

団地内の商店街はいずれも人でごった返していて、足の踏み場もない状況であった。

しかし、平成六年ごろ、学校や住民の姿が少しずつ変化してきた。学校はしだいに生徒数が減少しだし、商店が閉店や撤退するようになり、シャッター通りが目につくようになってきた。団地の少子高齢化が顕在化してきたのである。

その原因の一つは、この団地の居住空間が狭く、核家族しか対応できないことである。二世代同居が困難なのである。その意味するところは、成長した子どもたちは他に住居を求め、ほとんどが団地から転居せざるを得ない事情がある。

団地が生まれて三十八年を経た現在、高島平団地の賃貸住宅に居住する人は一万九千人ほどで、世帯数は約八千六百所帯、その六六歳以上の高齢化率は三四.三%(高島平新聞調べ、平成二十一年十月)となった。

そして、数年を待たずして、団塊の世代が本格的に高齢者の仲間入りをすることになると高齢化率は一挙に五〇%を超えるとの予想もある。

団地の賃貸に居住する人はおよそ一万九千人ほど、その五〇%であるから、およそ九千五百人が高齢者ということになる。

さらに、そのうちの五千人程度が一人暮らしを余儀なくされるだろうともいわれている。

高島平が誕生し、現在に至るまで自治会活動や地域のNPOがさまざまな地域活動を活発に行ってきた。

いくつかの例を挙げると、自治会では一人暮らしの高齢者を対象にして「助け合いの会」や高島平小地域ネットワークの「学校支援と高齢者の見守り」活動などがそれである。

しかし、対象とする住民はもちろん、活動する主体も同様に高齢化してきているので、老老地域活動の様相を呈している。

とはいえ地域の抱える問題を解決するためには地域住民が主体的な活動を展開しなければ、どうにもならない。だが、一人ひとりの主体性に関わるところであるがゆえの難しさが常につきまとう。それが原因の失敗を何度か経験した。

これを組織的に行おうとするには優れたリーダーと活動をマネージメントできる人が不可欠なのである。

高島平再生プロジェクトと高島平総合研究所

今から遡ること五年前、平成十七年のことであるが、同じ高島平にあるD大学の教員と私を含む地域住民三人によって「地域再生」をテーマに私的な研究会を始めたのであった。

当初、二年間は地域再生のプランやアイディアばかりでそれに基づく活動はほとんどなかったのであるが、その後、「高島平再生プロジェクト」として徐々に型が整い、大学を舞台にして多くの地域住民が参加してくるところとなった。そして、これらの活動をもとに大学は平成十八年度に文部科学省が実施する 「大学生のためのGOOD PRACTICE」、略称「大学GP」にエントリーし採択され、大学として学生と地域住民との活動をはじめ、留学生の団地入居と団地におけるボランティア活動などが展開されることになった。

しかし、前述の地域活動の失敗や挫折を踏まえ、地域住民主体による新しい地域NPOの在り方を求めていた経緯もあり、かねてより地域でともに活動をしてきた住民五人とともに、平成二十一年四月、「高島平総合研究所」(高島平総研)を立ち上げることとなったのである。

中国人看護留学生の団地入居

高島平総研における高島平再生プロジェクトは「心身の健康」を基本テーマに、住み続けることのできるまちづくり活動で、山本孝則氏(元大東文化大学環境創造学部教授)を中心にさまざまな活動を行っているが、ここでは、中国人看護留学生の団地入居について紹介しよう。

まず中国人看護留学生の団地入居の背景を少し述べておきたい。

現在、日本の医療現場は慢性的な看護師不足に陥っていて、この問題を解決すべく日本はフィリピンなどから外国人看護師を受け入れるようになったが、看護師不足を解消するにはいたっていない。

そこで、医療機関は独自に養成プランを策定し、中国人看護師留学生の受け入れの取り組みを行ってきた。

看護留学生は中国国内で看護師免許を有し、現場経験もある。さらに、日本語検定一級合格者であるが、医療現場で充分にコミュニケーションをとるためにはさらにスキルアップする必要があり、日本の看護師国家試験合格を目指し看護学校で学ぶとともに、日本語学校でさらに磨きをかけている。

留学生の基本的な生活は、住まいと看護学校と日本語学校の三ヵ所を巡る生活である。生きた日本語に接する必要があることを痛切に感じていた関係者は看護留学生を高島平に住んでもらい、自治会活動やボランティア活動などを通じて地域と関わること、とくに高齢者との交流を望んでいたのである。

留学生の団地入居の道はすでに開かれていることもあるほか、UR(都市再生機構)など関係機関の理解などにより、本年四月より国書日本語学校に在学する二十人の看護留学生の入居が実現するところとなった。

今後、看護留学生の皆さんと団地の高齢者との交流の場が生まれることであろう。

心身の健康づくり「膝楽体操」

もう一つ、地域再生のための具体的な取り組みをご紹介したい。

元気で健全な地域社会の形成はとりもなおさず、人そのものの「心身の健康」が基本であろう。

そのために「膝楽体操」という高齢者をはじめ、母子を対象とした独自の体操プログラムを創案したことである。

そのきっかけは、リハビリテーションを専門とする整形外科医である福島斉氏の提唱する「膝イタ体操」であった。さらに、地域活動の仲間でもある体操指導者として豊かな経験を持つ石田ゆかり氏がいたことで、これが実現したのである。

高齢者らにとっては、今の健康を保ち続け、社会に関わることができるかが重要なポイントなのである。

そのための活動として、毎週一回、地域の集会所で膝楽体操倶楽部が開催されている。同倶楽部では体操のみならず、ティーパーティ、食事会、高齢者施設訪問、母子支援活動などのボランティア活動なども行っている。

ちなみにメンバーの年齢は六十五歳から九十歳で平均年齢は七十五歳である。

地域の高齢者の抱える問題や母子の抱える問題は、これらを関連づけ複合的に活動を設定すると状況改善に大きな展開を見せることを経験した。今後、多くの事例を集め、可能な限り数値化を図り他の地域でも有用な資料としてお役に立てるよう調えておきたいと思っている。