やばいネタ篇
脚本という作業は比較的早い段階で動いている。つまり、一般視聴者がその番組の存在自体を知らないころから動いている。おおむね決定稿が出てから4ヶ月で一本の番組になる。中には1年近く作業を進め、放映時には脚本が最終回まですべて決定稿になる番組もある。脚本家というものは本放送のとき、ああ、そういやあこんな作品書いたなという気分になる。ところがSEEDデスティニーは違う。ついこのあいだ決定稿が出たものが、もう放送されていたりする。だからものすごく新鮮な気分で見ることができる。さすがはサンライズだ。
無難編(いや、無難じゃないかも)
天才はいる。だいたい天才というものは性格破綻者が多い。人当たりのいい天才というのはあまり聞いたことがない。ニュートンだって相当意地が悪い。ウソだと思うなら、評伝を読んでみればいい。それに急に思いついて、周囲をうろたえさせる。凡人たちはその思いつきに反対するが、天才はそれを押し切るだけの確信と自信がある。世間は凡人の凡庸な考えより天才の革新的な考えを支持する。凡人たちはただへこむだけだ。飲んでぶつくさ愚痴をいうだけである。……そして、SEEDの福田監督は天才である。
無難篇2
SEED脚本の、おれの分担は終わった。いやあ、気が楽だ。数ある脚本の仕事の中でもSEEDはつらい仕事の部類に入る。なにしろ登場人物が多い。登場メカも多い。ストーリーも複雑である。以前、ほかの脚本家のト書きで「ブロブロと飛んでくる」というのがあって、「ブロブロってメカはなんだ?」としばらく悩んだ。結局、それは擬音語だった。それくらいカタカナが出てくると悩む。こいつだれだっけ? このメカどんなメカだっけ? 他の人の脚本を読むたびに、おれは自分がSEED世界を理解していないんだなあと思う。そんなアホ脚本家の書いたものなのに、放送されるときはちゃんとしている。これもひとえにスタッフのみなさまのおかげだ。ほんとSEEDは(おれは除いて)すばらしいスタッフにめぐまれてると思う。
会長篇
知ってる人は知ってるが、知らない人は知らない(あたりまえ)ことだが、おれは娘の学校のPTA会長をやっている。つまり娘はPTA会長の娘である。PTA会長の娘といえば、一昔前のアニメでは二言目には「パパに言いつけてやる」が口癖のいじわるキャラだ。アニメ関係者としてはやはりそう育てねばならないだろう。就任の前から手に竹刀を持ち「パパに言いつけてやる」を練習させた。泣きながら「できない」という娘をしかりつけ、「呪うなら、父を呪え」と叱咤した。おかげで最近はかなり「パパに言いつけてやる」も板についてきたと思う。ただ問題なのは、父親のほうがそれほどの権力を手にしていないことだ。お飾りの会長だから。
■著者プロフィール「大野木寛」■
「超時空要塞マクロス」で脚本家デビュー、以来20数年アニメ一筋のバカであ
る。
「機動戦士ガンダムSEED」、「マクロスゼロ」、現在は「剣聖のアクエリオ ン」のシリーズ構成を務め、「交響詩篇エウレカセブン」、「あたしンち」、
「ドラえもん」などに関わる。
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