★天界編序奏 アフレコ日記 Vol. 1

2004/1/8(金)

 ついに聖闘士星矢劇場版のアフレコが明後日にせまった。1/10(土)が星矢、沙織、シャシナ、市、邪武、魔鈴、斗馬だけのシーン、1/11(日)には残りのシーン、万一収録し切れなかった場合は予備日の1/12(月)になった。アフレコに向けて、僕は自分なりに準備した。

第一稿のシナリオは二ヶ月前にもらって目を通してあったが、年末にもらった最終第11稿は大分、変更されていたし、話ではさらに変わると聞いていたので、あえて参考にはしなかった。だが、この一ヶ月はずっと今回の劇場作品のことを考えていた。車椅子のペガサス星矢はどう復活するのか?天界編の全体像はどうなるのか・・・・・?
すでに前日の1/9にガンダム関連の仕事の予定があったが、ペガサス星矢の役作りに集中したかったので、急遽、延期して貰った。もちろん他の仕事は入れないようにした。どうしても今年の初仕事にしたかったのだ。お酒も数日前から呑んでいない。筋力トレーニングも再開した。

まずはTVシリーズのDVD、一輝BOXから最終回を含めた数話を見て、15年前の声をチェック、続いて昨年の声、冥王ハーデス十二宮編の最終巻を見る。客観的に観ても感動できた。青銅もアテナも、声はモチロン、熱い演技も、決して変わっていなかった事に改めてホッとする。冥王ハーデス十二宮編は冥界編の途中までなので、続きを原作で読む。星矢はクライマックスでアテナを守るためハーデスに一矢報いながらも、その剣を胸に受け死んでしまう。(と思っていた(^^ゞ)結局、アテナ自らがハーデスを倒して冥界編は終わり、その後から今回の天界編は始まる。

DVDを買ってくれた人の少なくとも10倍の人が映画館に行ってくれなければ、興行的には成り立たない。原作の連載もなければ、TVシリーズもやってないこの状況で、映画をヒットさせるのは奇跡に近い。何で飛び越してこうなったのか?しかも劇場用なのか?ずっと疑問だったが、東映アニメーションのMさんが、みんなが元気なうちに、どうしても聖闘士星矢の劇場作品を作りたい!そして大スクリーンで聖闘士星矢を観たい!と切に願ったと聞いて納得した。18年前、聖闘士星矢をアニメとして世に出したスタッフの一人、そしてハーデス編のアニメ化を実現させたMさん・・・・・。
僕とも何度も一緒にアニメ作品を作ってきたMさんのために、自分に出来ることは全てやろう・・・・・。必死で頑張れば何とか成るかもしれない。古谷徹の名にかけて絶対、ヒットさせてやる!!この作品に関わった他のスタッフもそう思ったに違いない。なお、映画なら天界編という提案をしたのは車田先生だったと後で知る。

アニメでは普通、アフレコの前に練習用ビデオを貰うことはない。しかし、アフレコ台本が遅れていたし、少しでも多くの資料を事前に出演者に渡したかったので、マネージャーを通じてビデオの手配を頼んだ。結局、 アフレコ初日の朝まで編集するとの事で、僕をはじめとする数名の初日出演者には間に合わなかった。残念だが仕方ないだろう。

そこで厚さが6センチほどもある膨大な量の絵コンテを取り寄せ、山内監督の意気込みを感じながら読む。さらにシナリオ、絵コンテ、ようやく届いたアフレコ台本をつき合わせながら、僕なりのイメージや監督に提案する台詞などを書き込んでいく、もちろん自分以外の役の分もだ。誤植や疑問点もチェックする。まだ台詞が書かれていない箇所もあった・・・・・。

星矢以外の青銅聖闘士の出番が最初のシナリオからすると、随分、少なくなっていたのが気になった。どうすれば他の青銅ファンが納得するだろう?その分、ペガサス星矢の台詞がやけに多い。僕にとっては嬉しいが、見せ場になるシーンや熱い台詞が多すぎて、その表現のバランスが難しい。全ての台詞に全力投球してしまうと、結局、何も残らなくなってしまう。カッコいい台詞はなるべく少なく、短いほうが決まる。しかも最初は瀕死の状態・・・・・。次第に回復し、小宇宙を取り戻していく・・・・・。この盛り上げ方も微妙だ。体の痛みの変化を台詞に、呼吸に、うめき声に乗せて表現する必要がある。沙織との贖罪の泉のシーンは、まさにラブシーンだが、心の中では愛を感じつつ、あっさり演じたほうがきっと良くなるだろう・・・・・。考えねばならない事は次々に浮かんでとめどもなかった。

それにしても週に何本もアニメをやっていた頃には考えられない、今だからこそ出来る作品へのアプローチ・・・・・。
今、僕はペガサス星矢を演じられることの幸せを噛みしめている。今後、声優人生の中で、何人のアニメヒーローが演じられることだろう?ロードショー作品の主役なんて、これっきりかもしれない。だからこそ、自分に出来ることは全部やろう!言いたいことは遠慮せずに全部言おう!

そう、声優、古谷徹にとって、今こそ一世一代の大勝負の時なのだから・・・・・。