『ICO PlayStation 2 the BEST』再発売御礼
『ICO』を振り返る。
日本と海外の「ICO」の違い

――『BEST』再発売おめでとうございます。

上田
海道 ありがとうございます。

――第一弾となったアメリカ版の発売から2年9ヶ月ですか。ワールドワイドでの売れ行きはどんな感じですか?

海道 おおよそですがアメリカ版が25万本、日本版が16万本、欧州版が20万本、アジア版が4万本ですね。(※1)

――ということはトータルで約65万本ですか!数的にはいかがですか?満足してます?(笑)

上田
 いやそれはもうすごい満足しています。だって東京ドームを10回満員にするよりも多いんですもんね。(笑) 本当に感謝してます。

――日本人クリエイターによる日本発のゲームが、むしろ海外で売れているわけですが、このあたりはどういうことなんでしょうか?

海道 日本と海外とでは評価のされ方が微妙に違うんですね。日本だと、儚さとか切なさとか世界とか雰囲気とかそういった部分で気に入っていただける方が多いんですが、海外での評価は少し違ってですね。

――ほう。

海道 海外でもその儚さなどの世界観についてももちろん評価されているんですが、それに加えて、「非常にinnovativeなゲームだ」と。「革新的」ということなんですけど、つまりゲーム性の部分をむしろ評価していただいていて。その分で、日本以上に多くの人に受け入れられたようですね。

――GDCA(Game Developers Choice Awards)でも「Game Innovation Spotloght(イノヴェーティヴゲーム賞)」等を受賞されてました。(※2)


上田
 日本だと今でもファンの人たちがネット上で語ってくださってたり、売れ方も結構口コミ的にじわじわと売れたんですよね。それも嬉しかったですね。(※3)
――ゲームの仕様的な違いってあるんですか?

上田
 細かいところでいろいろあるんですけどね。例えばアメリカ版ではヨルダはヒントを出さないとか、カメラを動かせないとか、R1ボタンの使い方が違うとか。あと「影」がヨルダを連れて行く場所も違うんですよね。アメリカ版だと近場の決められたところに引きずり込もうとするんですけど、日本版だと一番遠いところに移動してから引きずり込むんです。だから日本版の方がフィールドを大きく使う感じになってます。(※4)ま、とはいえ本質的には同じですね。
オリジナルを大事にしてくださった宮部さんの小説

――そういえば日本での受け取られ方という意味では、あの宮部みゆきさん(※5)小説化してくださったのも象徴的ですね。

上田
 そうですね。ありがたいですね。

――そもそもあれってどういういきさつだったんですか!?

海道 ご存知の方も多いと思いますが、宮部さんって自他ともに認める大のゲーム好きなんですね。全ハードを所有されているという。それでたまたま「ICO」の体験版をプレイされたそうなんですけど、一目で気に入っていただけたそうで。

――ほー。

海道 それで「このゲームを小説化したい!」と思われたそうで、もともと決まりかけていた別のアイデアをキャンセルして、「ICO」をやりたいと週刊現代の編集部の方に直接かけあってくださったんですよ。それで僕らの元に話が来たときには、もうすっかり「ぜひ!」って感じで。

――光栄な話ですね…。で、打ち合わせとかはどんな感じでしたか?

海道 それがですね…、ほとんど打ち合わせってしてないんですよ。(笑) 最初に一回お会いして、ゲーム制作した時に使ったコンテやビデオをお渡しして、イメージとかコンセプトとかをお話したくらいで…。本当は細かい設定とかもあるんですけど、そのあたりはもう、自由にふくらませてくださいって、完全にお任せしました。

上田
 小説のあとがきで宮部さんも書かれてるんですけど、一番気を使ったのが「それぞれのファンが持っている『ICO』を壊さないように」ってことなんだそうですね。なので途中からの展開はもちろん小説独自の内容ですけど、コンセプトなどはほぼゲームに沿ってくださってるんですよ。執筆中も「ICO」のサントラを聞いてゲーム画面を思い出しながら書かれたんだそうです。僕らとしてはもっと自由にやっていただいても全然よかったんですけど、苦労されたんだろうなーと思いますね。先日来社されたときも(※6)、しきりに心配されてましたね。

――ゲームファンらしい心遣いですね。

上田
 そうですね。オリジナルのゲームを大事にしてくださって、本当に感謝しています。あとはこの小説がきっかけで、あまりゲームをしない人にも知ってもらえると嬉しいですね。
作りたかったのは「ゲームじゃないもの」

――ところであらためてお聞きしますけど、『ICO』の制作コンセプトってどういうところだったんでしょうか?

上田
 ひとことで言うと、「ゲームじゃないものを作りたかった」ということなんですね。

――ほう。

上田
 というのは、勝ち負けがあったりとかパラメータがあったりとか、そういうのがおもしろいっていうゲーム然としたものじゃなくて、…もちろんそういうのも好きなんですけどね。で、美しい世界があって、その世界の中にいることを実感できるような、そういう新しいコンピュータエンタテインメントを作りたかったんです。

――なるほど。

海道 だから例えば、体力ゲージだったり派手な記号的エフェクトだったり音楽で高揚させる演出みたいなものは極力無くしていって、キャラクターの仕草のディテールだとか環境音だとか、そういった世界を表現するものにものすごく注力していったんですよ。

――そんな中で、「少年と少女が手をつないで逃げていく」という素材を選ばれたのは?

上田
 「中にいることを実感できる世界」という部分の説明にもなるんですけど、僕はゲームを買うときまず考えるのが、「このゲームを買ったら、僕はこの世界の中でヒーローになれるんだろうか?」ということなんですね。そういうゲームが好きなんです。それが前提としてあって、次にはもうビジュアルイメージでした。少年が少女の手を取ってリードしながら運命と戦うというのは、そういうことなんです。

――なるほど。

上田
 ですから最初はイメージCGを作るところからスタートしたんですね。プレゼンのためにも、チームのみんなの目標をひとつにするためにも。同じイメージをみんなでちゃんと共有したかったんです。

海道 途中、「PS」で作っていたものを「PS2」に移行したりといろいろありましたが、その中でも目標を見失うことなく作業を進められたのは、その部分を共有できてたからだと思います。
チームの近況と今後

――そうして「ICO」が完成し、世界中でとても高い評価を得ました。さて、気になるのはその世界的に注目されているチームがその後なにをしてるんだ?というところなわけですが。

海道 さすがに何もしてないワケはないです。ヨーロッパ版の移植が終わってからでも2年以上ですからね。(笑)

上田
 「ICO」の開発チームで新しいプロジェクトが始動していることは、どこかのインタビューでお話したことがあると思います。今はそのプロジェクトが進行中ですね。

――おおっ!な、内容は!?進捗は!?

海道 そうですね、なるべく早い時期に。(笑)

上田
 発表できるように頑張ります。(笑)

――くーっ!わかりました!期待しています!今日はどうもありがとうございました!

海道上田 ありがとうございました!
上田文人(Fumito Ueda)
ICO ディレクター/ゲームデザイナー/アートディレクター
70年生まれ。兵庫県出身。大阪芸大油絵科で現代美術を専攻。
卒業後、コンピューターグラフィックスの表現力に可能性に強い興味と意欲を抱き、独力でそのスキルを身につける。95年、ゲーム業界にスカウトされ転身し、CGアニメーターとして才能を発揮。
97年SCE入社。ICOのオリジナルアイデアを携え、ディレクターとして陣頭指揮を執る。
海道賢仁(Kenji Kaido)
ICO プロデューサー
69年生まれ。石川県金沢市出身。
生来のゲーム好きが高じ、87年に大手ゲームメーカーに入社。ゲームデザイナー/ディレクターとしてアーケードゲームを中心に数々のゲーム制作に携わる。
97年SCE入社。PSソフト「サルゲッチュ」の制作に参加した後、ICOではプロデューサーとしてチームマネジメントを務める。











※1 各エリアでの発売日と発売本数は以下のとおり。

2001.09.26 アメリカ 約25万本
2001.12.06 日本 約16万本
2002.03.20 欧州 約20万本
2002.01.13 アジア地域 約2万本
2002.02.22 韓国 約2万本
2004.01 中国 未公表

日本のファンの間で、ある意味話題になったUS版「ICO」のジャケット



※2 ICOの受賞履歴は以下のとおり。

5th AIAS Achievement Awards 2部門受賞
  Outstanding Achievement in Art Direction (アートディレクション賞)
  Outstanding Achievement in Character or Story Design (キャラクター/ストーリー賞)
  米国 AIAS(The Academy of Interactive Arts and Sciences)が主催する5th AIAS Achievement Awardsで8部門でノミネートされ、最終的に2部門で受賞しました。AIAS Achievement Awardsはゲームのアカデミー賞と見なされている権威ある賞です。
 
第2回 Geme Developpers Choice Awards 3部門受賞
  Excellence in Level Design(ステージデザイン賞)
  Excellence in Visual Arts(ビジュアルアート賞)
  Game Innovation Spotlights(イノベーティブゲーム賞)
  The International Game Developers Association(国際ゲーム制作者団体)が主催する 第2回 Geme Developpers Choice Awards では6部門でノミネートされ、3部門で受賞しました。GDCアワードは世界各国のゲーム制作者たちが選ぶ賞で、ICOはゲームを作るプロからも絶大な支持を受けていることがわかります。
 
ECTS 2002 The Edge Award受賞
  The Edge Award for Excellence in Development (EDGEアワード)
  ECTSは欧州最大のゲームショーで、EDGEアワードは英国EDGE誌が選ぶ部門賞です。EDGE誌は英国で最も権威あるとされるゲーム専門誌。数あるゲーム誌の中で最も洗練された誌面デザインと、率直かつ公平な批評を掲載することで知られています。そのEDGE誌が、年間に発売されたゲームソフトの中から、ゲームのあるべき姿として最も優れた1本を選定し授与されるのがこのEDGEアワードです。
 
第6回 CESA GAME AWARDS受賞
  特別賞
  CESA GAME AWARDSは日本のゲーム業界団体である COMPUTER ENTERTAINMENT SUPPLIER'S ASSOCIATION (CESA)が毎年開催しているアワードです。ICOはその年を代表するイノベーティブなゲームとして高い評価を受け、特別賞(審査員特別賞)に選出されました。

その他、世界各国のゲーム専門誌やゲーム情報ウェブサイトにて多数のアワードを受賞しています。



※3 ユーザーアンケートで多数の温かいご意見が寄せられ、上田・海道はじめ、全スタッフに大きな力を与えてくれました。中でも最も制作スタッフが感動したご意見を、いいところのみの抜粋ながらここに紹介させていただきます。

既存の和製ゲームにはない個性が最高に素晴らしい!文句無し!感動!(27歳・男性)

このゲームの雰囲気が本当に好きです。もっと長くこのゲームを遊んでいたいと思いました。(18歳・女性)

ずっと持っていたいと思わせる素晴らしい作品でした。(24歳・男性)

イコが少女を守ってやるように、私はイコを守ってあげた。中盤、明らかに少女はイコを守っているんだと実感したとき、泣いた。(29歳・女性)

ユーザーの男女比は男6:女4。「とても大切なソフト。だからこそ『2』は出さないで!」という意見がとても多いのが特徴的でした。



※4 先行したアメリカ版と日本版の主な違いは以下のとおり。

ヨルダが謎解きのヒントを示さない。
デモ中にカメラを動かせない。
水車ステージの「ピストンジャンプ」のしかけがない。
「影」は特定の穴にヨルダを引きずり込もうとする。
「2周目のオマケ」がない。
手つなぎ操作がR1ボタンを1度押せば手をつなぎ、もう一度押すと手を離す方式。

その他、小さな変更点が多数あります。



※5 「模倣犯」「クロスファイア」「ブレイブ・ストーリー」などでお馴染みの人気小説家。一年に360日コントローラを握るんだそうです…。

http://www.osawa-office.co.jp/m/m_top.html



※6 単行本発売の際にわざわざご挨拶に来てくださった際の貴重なショット↓

進行中のプロジェクトの映像をご覧いただいたあと、スタッフ全員が単行本にサインをいただきました。
お忙しいところありがとうございました!

 
ICO(イコ)
PlayStation 2 the Best

ジャンル:アドベンチャーゲーム
発売日:2004年8月5日
希望小売価格:1,714円(税込価格1,800円)
発売元:Sony Computer Entertainment Inc.

旧譜のジャケットはこちら
(c) 2001 Sony Computer Entertainment Inc.