合同自主トレでイチロー(右)のバッティングを見つめる川崎
他人に分からない微妙な空気が、2人の間にあった。頭から靴下まで同じような服装で現れたイチローと川崎。ウオーミングアップ、キャッチボール、打撃練習、クールダウン…。午後5時から約100分の合同練習は順調に進んだが、ロッカー室から出たイチローがその内情を明かした。
イチロー「北京の予選だか本戦だか分からないけど、その後だったんでね。ちょっと説教しましたよ。気になるところがあって…。それが解消しないと、福岡まで送り返そうと思ってた」
問題の場面は韓国戦の初回だ。前日のフィリピン戦で負傷した井端に代わり2番に入った川崎は初回1死、遊ゴロに必死の一塁ヘッドスライディング。はた目には気迫の表れにも見えるが、これがイチローイズムに反した。「1回からヘッドスライディングなんてバカげたことをやりやがって」「カッコ悪いでしょ? 日本のオールスターだよ。アマチュアじゃない」。怒りを通り越し、あきれた口調でまくし立てた。
内野安打の多さで知られるイチローだが、ヘッドスライディングはしない。塁に早く到達できる根拠はなく、故障のリスクも伴う。日本では士気を高揚する行為として称賛の対象ともなるが、高い走塁技術を誇るイチローには見るに耐えない“愚行”だったようだ。
「気にしていたから、また残念だった」。五輪不参加の立場だが、アジア最終予選はテレビ観戦こそしなくとも、周囲の人間やインターネットを通じて「個人的な興味」から見守ったという。
イチロー「ヘッドスライディングしたやつがいるって聞いたから誰だろうと思ってたら、宗の写真がドーンと出てて。もう1人いるって、聞けば青木(ヤクルト)。宗と青木だぁ―!? WBCで僕の近くにいて、何を見てきたんかと…」
台湾戦初回の青木の走塁にも憤慨したイチローは前日25日、川崎に直接「どうしてだと事情聴取した」。そこでの説明に「同情するところもあって大目に見た」ため、合同練習は予定通り決行となったが、川崎の釈明については「言えない。宗にも聞かないでおいてほしい」とフタをした。
もっとも本大会でのまな弟子の活躍は願う。「カッコ悪いことはするな、夢を壊すなということ。ぜひ勝ってほしいね。僕を失望させないでほしい」。来年8月の北京、際どいタイミングで川崎が取る行動は-。日本列島とイチローの視線を、川崎が一身に集める。 (森 淳)
=2007/12/27付 西日本スポーツ=