四、16歳の少女を手駒にする方法 | 木の葉が沈み石がうく

 家出中の聡香から、母の携帯電話にメールが送られてきたのは、2006年12月13日、午前7時34分のことだった。聡香がまだ16歳のときのことである。

「2006年2月13日 07:34
私情報売った。ごめんね。10もらえた。これで1ヶ月くらい生き延びられる。私幸せ。家にいても飢え死にしてしまうから、出た。今飢え死にしない。生きられる。情報売ったから」

 飢え死にしそうだったというのは、もちろん嘘だ。彼女は家で供される食事を食べず、スナックやジャンクフードばかり食べていた。しかし太ることを気にした彼女は浴室で使うサウナスーツを購入。ダイエットに励んでいたのである。
 母がその点を指摘すると、

「14:01
だから何? 別にいくら言い訳って(原文ママ)無駄だよ。もう売っちゃったし、私はどっちでもいいね。困るのはお母さん達じゃない。私は家の恩と情報料を考えて、売ったから、お母さんがどう思っていようと私には食べられない環境だったから。別に売ったことを申し開きするつもりもないし。それだけ」

 と、論理をすり替え、「飢え死に」を何としても押し通そうとした。

 わたしはこの聡香の様子を見ると、このメールのやり取りを見る第三者がいた可能性を、否定できずにいる。もしかしたら、金と引き替えに、母にメールを送るよう要請もあったのかもしれない。

 このメールの中に出てくる「10」が、「10万」以上であることは明らかである。10円では「飢え死に」は避けられない。

 そこで疑問が生じる。

 16歳の少女に行政的救済手段――たとえば生活保護や、施設への入居ではなく、10万もの大金を渡して飼い慣らそうとしたのは誰であろうか。

 働かずとも大金を得られ、しかも意のままにならなかった家族に復讐ができる。その「誰か」の命ずるまま、何でもさえずるだろう。しかも本人曰く、重度の精神疾患を患っていた。

 わたしは思う。
  
 聡香は今までずっと、「金」「物」「人」を武器に、他者を傷つけてきた。だから、聡香には、自身の「金」「物」「人」について、明らかにする義務があると思う。

 彼女は誰と接触し、誰から物と金をもらったのか。今、どうやって生活をしているのか。収入はいくらあるのか。

 それが、「金」「物」「人」を他者攻撃の武器にする者の、義務と責任だと、わたしは思う。