2005年1月25日最終更新

カセットテープと私   

ざわわ、ざわわ、ざわわ〜  いっなむらっがっさきは今日もあっめ〜  エブリバディみんなで決めるやぁ〜
左より、森山良子「さとうきび畑<特別完全版>」、サザンオールスターズ「君こそスターだ/夢に消えたジュリア」
サザンオールスターズ「愛と欲望の日々」のカセットです。Amazonでの取り扱いはありませんが、
「さとうきび畑」(商品番号MUSD-5001)は、お店になくても注文購入できます!(サザンは、オークションでないと難しいかも。)


<ポップスのカセット発売へ>
2004年の2月、森山良子さんの「さとうきび畑<特別完全版>/涙そうそう」のカセット・テープが
発売されました。既にチャートから随分遠ざかったシングルのカセット版が、発売数ヶ月で
1万本以上のヒットを飛ばし、今でもコンサート会場を中心に確実に売れています。

また、サザンオールスターズの同年7月のシングル「君こそスターだ/夢に消えたジュリア」、そして
11月の「愛と欲望の日々」の限定カセットも、相当な数が発売数日で完売してしまう状況です。

実は、このカセット企画、僭越ながら私の提案がキッカケで発売に至ったのですが、
実際にきちんと音楽ファンの元に届く商品となって嬉しいです。
世間では、ケータイとか音楽ダウンロードとかって、前ばかり見ているけれど、それが、
必ずしも音楽ファンの心に沿うものではない、ということを改めて実感させられました。
(ついでに、赤ちゃんに無理矢理ヘッドホン当てるなんて発想も可笑しすぎ!!(笑))

ここでは、なぜ私がカセットテープを演歌以外のアーティストで、企画しようとしたか、
について、触れておきたいと思います。
<地方のレコード店に教えられたこと>
「私は、90年代後半から全国のCD店を廻るのが好きなんですよ〜。」

こう言うと大抵の人に“変わった奴やなぁ〜”と笑われますね(←まぁ、ツカミOKなので、これも
いいんですけど)。もちろん、毎週のように、とはいきませんけど、年に10回ほどは、
旅行とあわせて、かなりの時間を割いてCD店廻りをしています。レコード会社の人やコンサート
等のイベンターなら全国巡業はあたり前かもしれませんが、まさかCD店まわりまで、
しかも“自費”でなんてしないでしょうから、かなりの変わり者かもしれません。

勉強のために!なんて言うと聞こえはいいですが、実はそもそものキッカケは、地方の中古
CD店でレアなアイテムを探すついでにCD店も見て廻るという程度でした(笑)。しかし、
他のコラムでも書きましたが、音楽チャート分析の連載をしていた時に、

「事件は会議室では起こっているのではない!」

と、まるで机上の空論で仕事をしているように言われたことで強く反発したんですよね。
自分は、地域別のセールスもきちんと見ながら仕事をしている、と。
でも、反発したからには、それに見合う人間にならねば!と思い、2001年頃からは
旅に出るごとに、その町々にある外資系のCDショップ、ローカルで頑張っておられる
CDショップ、書店との複合店、レンタルやゲームとの複合店などをチェックするように
なったのです。

実際に地方を廻ってみると、都市ごとの消費形態の違いから日本の広さを感じますよ〜。
例えば、高校生までの若者が多い街では、軽快なパンク・ロックが流行っている状況が
よく分かり、これは、渋谷でクールなクラブ・ミュージックばかり追っていては絶対に
見れない状況で初めはすっごく驚きました。でも、考えてみたら、この子たちの
多くは、進学や就職などで大都市へ行ってしまう訳なんですね。あと、書店で
CDを売っているお店が多く、そういうお店は元々CD専門のバイヤーではない訳ですから、
仕入れ方も都内の専門店とは、かなり異なっているということも分かりました。
(でも、この為に、地方では「心の通った音楽」ではなく「TVでガンガンかかっている音楽」
ばかりが、売れすぎる状況も見えつつあるので、こういう所への音楽コンサルティングをする
立場の人が必要だな、とも最近思っているんですけどね・・。)


そんな中で、地方でのカセット・コーナーの大きさに物凄く驚いたんです。
都内では、カセットはそれこそ演歌強力店でしか見かけないですよね。
それが、地方では結構普通に置いてあるんです。
最も衝撃的だったのが、高知のイオンに入っているタワーレコードに、
KinKi Kidsの新譜と、水森かおりの「鳥取砂丘」のカセットと8cmシングルが大量に
お店の入り口に置いてあったことですね〜。そういった陳列が、きちんとお客さんの
心をとらえているんだ!って感動しました。

また、沖縄では、ごく普通にCDの近くにカセットのコーナーに、演歌以外の新民謡の
アーティストやポップス系のアーティストのものがある店が多いんですよ。
東京だったら、大体隅の方に追いやっているかのように寂しげじゃないですか。
でも沖縄では全然そうじゃなくて。
沖縄って、駄菓子屋が今でも残っていて、店員とお客さんとのコミュニケーションが
しっかりしている所も多いんですよね。まぁ、最近嘉手納あたりで大型ショッピングセンターが
出来たりしてますが、それでも店員の気質はあくまでも1対1の対話が基本。
都内みたいに「棚になければ、ありません。」なんてマニュアルの対応は皆無です。
だから沖縄はマーケティングの宝庫ではないか?なんて他の事例でもしばしば
思うのです。


他方、私はドリーミュージックで顧問アドバイザーをやってまして、
森山良子さんのコンサートを見学したところ、中高年の女性が物凄く多いことを、
この目で確かめました。しかも、買った後、CDを買う人の行列が出来るのにも
感心しました。これは、私が個人的にファンでもある中村美律子さんのコンサート
会場でもよくあるパターンで見ていて気持ちがいいんですよ。普段、それほど
ファンでもない人が、感動に任せてCDを買うという光景に、歌力(うたぢから)を
感じるのです。

でも、その売り場を見ていたら、なんか違う・・・って思えてきたんですよね。
だって、良子さんの客層は、新宿コマで見かける方たちとほとんど変わらないのに、
方やカセット商品がゼロなのに、方やカセットが飛ぶように売れているって
変じゃないですか。それで、レコード協会発表のデータをあらためて
見てみると、カセットのセールスは年間1000万本近くもあって、めっちゃ驚きました。
だから、

「もしかすると、この良子さんの販売コーナーにカセットテープがなくて、しぶしぶCDを
買っている、あるいは買うことすら控えている人もいるんじゃないのかなぁ。」

なんて思いました。
さらに、当時勤めていた会社の関連会社がカラオケ団体も持っていたのですが、
そこに「演歌以外も歌いたいんですが、カセットで練習できませんか?」なんて
お声も届いていたんです。カラオケファンは実力が発揮しやすい演歌ばかりではなく、
伸びやかなポップスも楽しみたいんです。しかも、何よりカラオケレッスンには、
テープでの練習が物凄くしやすいんです!
あ、今のフレーズ、歌いなおしたいなとかCDだとしづらいですよね?
そういうレッスンの需要もあるんじゃないか、と思ったんですよね。


といった具合に、地方のレコード店の状況を見たことをキッカケに、
カセット発売の構想がどんどん膨らんできたんです。
<業界の“非常識”なる発売へ>
そこで、ドリーミュージックである会議の時に、この状況をお話しし、
良子さんのカセットを発売すべきではないでしょうか?と提案しました。

すると、案の定
「良子さんは、演歌歌手ではない。」
「カセットなんてどこにも置いてない。売れて200〜300だろう。」

という否定的な意見がありました。確かに、良子さんはナツメロ番組や演歌系番組にも
一切出演されませんし、そういった演歌の匂いをさせないことで、後の大型タイアップが
決まったのかもしれませんし、すごく制作面を尊重したもっともな意見だとも思いました。

しかし、音楽ファンは演歌であろうがポップスであろうが区別なく
“いい歌”を聴きたい、歌いたいと思っているはず、で更に、
“どこにも置いてない”という意見については、これまでの自分の目で見てきた経験を
お話しして語気は穏やかながら、徹底して反論してしまいました。

で、まぁこのままNGになる気配もあったんですが、会社の上役の方が

「うちでは、業界の常識にはないことをしよう」

と、おっしゃって下さって、前へ進むこととなりました。
(こういった不思議なセンスがあったからこそ、
平原綾香の大ヒットもあるんだとと思います。)

更に、その時に、
「良子さんが、コンサートで大事に歌っている「あなたが好きで」も
ボーナス・トラックで入れよう」

となったのも、その方のアイデアです。この歌は毎回コンサートの終盤で歌われ、
感動で涙している人も多く、実際、04年の紅白で歌われて、翌週1万以上の追加注文が
あったことからも、流石、ベテラン制作マンのアイデアだなぁ〜とつくづく感心しました。


で、A面に「さとうきび畑」「涙そうそう」「あなたが好きで」の歌入りを、
B面にそのカラオケを収録したカセットが\1,400で発売されることとなりました。
それにあたっては、カセット側面の文字を、大きく書くこと、ジャケット写真を載せること、
歌詞カードに楽譜を載せること、そして「オリジナル・カラオケ付き」と分かりやすく記すこと、
などと、いろいろと細かいアドバイスを私からしました。
<♪ざわわ、ざわわ・・と1万本!>
そうして発売を迎えたのですが、既にCDの発売から2年以上たったCDの再発版カセット
にも関わらず、数週間でなんと数千本もの追加注文があって、
これは、販売担当の方だけではなく、実は私も驚きました。あぁ、やっぱり
この歌って、バックグラウンドミュージックではなく、ソングなんだな、って思いました。
また、カップリングの「涙そうそう」のカラオケ需要が多いことも発売してよく分かりました。
もちろん、「涙そうそう」のCDで一番売れているのは、ご存知、夏川りみさんなんですが、
りみさんのカセットは発売していないんですよね。(前述の演歌的な見え方を回避してる
と以前おっしゃっていました。)→その後、04年12月に夏川りみカセット「涙そうそう/童神」
も発売されました。予想通りよく売れています。


そういうこともあって、「「涙そうそう」をカラオケで練習したいので、購入します!」という
問い合わせもかなりあって、数ヵ月後にはなんと1万本を超える売上となったのです。

ミリオンという数字に慣れている人にとっては、1万本という数字が小さく見えるかも
しれませんが、通常、PVの撮影、TV出演時のミュージシャンの手配、取材時の
スタイリストの手配、地方巡業、そして広告出稿などでかかるコスト(数千万円)を
ほとんど追加で出すことなく、1万本以上が売れている訳ですから、利益としては、
通常シングルの5〜6万枚相当のヒットとなったので侮れません。


その後、こういった面白い出来事を、私がレギュラー的にユーザー分析をさせて
いただいているサザンオールスターズの担当の方にお話ししたら、物凄く
興味を持ってくださったんですね。
現に、サザンのファン層って、音楽評論家がまるで自明の解のように
「30代・40代に強い支持がある」なんておっしゃっていますが、実際は10代のファンが
めちゃくちゃ多いし、それこそカセット層である50代以上のファンも多いんですよね。
(だって、そういう人にも良い音楽を届けるよう、日々分析をしているんだもん!(微笑))

で、カセットの発売がなんとトップ・アーティストのサザンチームでも検討されたんですが、
やはりそこは常に斬新なアイデアを乗せるアーティスト及び制作陣のアイデアで、
カセット限定の特典も付けちゃおう!ってことで、金メダル型に縮小したタオルもつけ、
その結果、即日完売してしまう大ヒットとなり、他のメディアへの波及も大きかったです。
この場合はカセット層の発掘というより、コレクター・ファンのニーズにささった感も
強いんですが、まぁキッカケは何であれ、ちゃんとヒットに繋がったのが良かったです。


以上、カセット・テープの商品化にまつわるお話を載せてみました。

マーケティングっていうと、ついつい難しい言葉で最先端の方法で、
音楽性を無視しているって思われがちですけど、
私は、単に音楽ファンの声をきちんと商品に反映させたいという思いだけで、
仕事をしていますので、どうぞご安心ください。(微笑)

今後とも、何かご不満があれば、何なりとおっしゃって下さい。
出来る範囲で頑張らせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
答はいつだって、音楽ファンの中にある。
私はそう確信しています。(←ちょっと真似てみました。(笑))


2005年1月 臼井 孝 (音楽マーケティング・アナリスト)

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