海の研究
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2014年度日本海洋学会賞受賞記念論文
海洋における植物プランクトンの生理生態と物質循環における役割に関する研究
古谷 研
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2015 年 24 巻 2 号 p. 63-76

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抄録

海洋環境の変動に応じてプランクトン群集がどのような応答をするか,またその結果として物質循環過程がどのように変動するかを解明することは生物海洋学の重要な課題である。環境が変化すると,まず群集内の各種個体群が生理的に応答し,増殖を経てやがて群集構造が変化する。生理的応答は種によって異なるので,群集の種組成によって環境変化と群集応答の関係は変化に富んだものになる。筆者はこの観点から,植物プランクトンの生態研究に取り組んできた。重点をおいたのは,分類学的帰属が不明な種が多く含まれるピコ・ナノプランクトンの組成解明と生物量把握,種あるいはグループ特性に着目した生理活性の把握である。本稿では,これまでの研究から,貧栄養海域に形成される亜表層クロロフィル極大における植物プランクトンの群集動態の解明,分類群毎の基礎生産および呼吸の把握,窒素固定生物の生態研究について得られた成果をまとめた。これらの研究に共通するのは,個生態学的な知見と現場における実験・観測を結合した生理生態学的アプローチである。生理生態学は,生物の生理学的・形態学的な機能に着目して生態学的な現象を理解しようとする分野であるが,現在,全球的な規模で進行している海洋環境の変化に対してプランクトン群集とその物質循環,そしてその結果もたらされる生態系サービスがどのように変化するかを予測する役割が加わった。

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© 2015 日本海洋学会
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