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日本にフルCGアニメは根付くのか?

識者に聞く、和製3DCGアニメーションの未来

第12回:八木竜一(映画監督・CG ディレクター)

日本におけるフル 3DCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回ご登場いただくのは、映画監督/CGディレクターの八木竜一氏だ。同氏は株式会社 白組において、CM、映画、ゲームムービーなどの 3DCG 制作を長年にわたって手がけてきた。『friends もののけ島のナキ』(2011年)では山崎 貴氏との共同監督に挑戦し、独特の世界観や活き活きとしたキャラクター表現が多くの観客の共感を集めた。あらゆる年齢層の観客が楽しめる CG アニメをつくりたいと語る八木氏に、過去の経験によって培われた制作スタイルや演出時のこだわりを語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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八木竜一ポートレイト(メイン)

Ryuichi Yagi
1964年生まれ。東京都出身。白組所属の映画監督/CGディレクター。1987年、白組に入社。CM・映画などのデジタルマット画やエフェクトアニメーションの制作でキャリアを積み、2000年頃からはゲームムービーの CG ディレクションにも携わる。代表作には『鬼武者2』(CG ディレクター/2002年)、『バイオハザード0』(CG ディレクター/2002年)、『クロックタワー3』(CG ディレクター/2002年)、『鬼武者3』(CG ディレクター/2004年)、『うっかりペネロペ』(演出/2006年)、『もやしもん』 (3DCG 監督/2007年)、『friends もののけ島のナキ』(山崎 貴氏との共同監督/2011年)などがある。『鬼武者3』のオープニングムービーは、SIGGRAPH 2004のElectronic Theaterに入選を果たしている。

最終目標は、誰もが楽しめる CG アニメをつくること

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):八木さんが共同監督をなさった 『friends もののけ島のナキ』(以下、ナキ) は、国産のフル 3DCG アニメ映画としては 抜きんでた興行収入(※1) を誇っておられます。『ナキ』公開後の 2012 年には様々な CG 映画が公開されましたが、いずれも『ナキ』にはおよびませんでした。寂しいことに、国産 CG 映画の成功事例は『ナキ』だけといっても過言ではない状況が続いています。そこでぜひ、単刀直入に『ナキ』の監督に話を伺ってみたいと思い、このインタビューをお願いした次第です。

※1:抜きんでた興行収入
『friends もののけ島のナキ』は、日本での公開日である2011年12月17日からの37日間で、観客動員累計100万人、興行収入約14億円を突破している(最終的な国内興収は14.9億円 ※ 日本映画製作者連盟発表資料より )。さらに韓国でも同年12月29日から公開され、25日間で観客動員累計50万人、興行収入は日本円で約2.6億円を突破した

八木竜一(以下、八木):よろしくお願いします。多くの方から『ナキ』を評価してもらえたのは嬉しいですね。ただ、僕の最終目標は子供からおじいちゃんやおばあちゃんまで誰もが楽しめる CG アニメをつくり、もっと多くの方に観ていただくことなので、まだまだ道半ばではあります(笑)。

野口:確かに『ナキ』は子供から大人まで幅広い年齢層をターゲットにしていて、親子で鑑賞できる映画になっていましたね。八木さんは CG アニメというジャンルが確立する以前から「CG アニメは、まだまだ食べず嫌いの方が多いジャンルです」とおっしゃって、作品をつくってこられた。その点は特に凄いなと感じていました。

八木:海外産の CG アニメのなかにはヒットした作品が沢山ありますよね。CG でつくった映画であっても、感情移入できる作品であれば、日本のお客さんも観てくれると思うのです。だから『ナキ』では企画の初期段階から、できるだけ幅広い年齢層に楽しんでもらえる大衆娯楽に仕上げることを目標にしていました。

野口:『ナキ』の話の前に、ぜひ八木さんの仕事のルーツを伺っておきたいのですが、そもそも何の職種で白組に入社なさったのでしょうか? 当時の映像制作では、まだまだ CG は手軽に使える手段じゃありませんでしたよね。

八木:テクニカル・ディレクターのアシスタントという位置付けでした。今の職種でいえば、特撮監督の助手といった方がイメージしやすいでしょうね。CMや映画向けに色々なアニメーションをつくっていました。アニメーションって、セルアニメ以外にも色々な種類がありますよね。例えば、今だったら CG のパーティクルで表現するような砂嵐を、ひたすら点描を打って表現したりね(笑)。あの時代に幅広い表現手法を経験させてもらいました。

八木竜一ポートレイト1

 

野口:ひょっとして、16ミリフィルムの CM も経験なさっていますか?

八木:やっていますよ。テレビ CM では最初にフィルムを経験して、それから D1 の時代を経て、フルデジタルになりました。フィルムだと、例えば光を 1 個合成するのにも凄く時間がかかっていましたね。光の強さや露出を悩みながらテストピースを撮影して、現像に出して返ってくるまでに 3 日くらいかかる。そのテストピースというのが黒バックに光だけの素材でね、それを見ながら本番の値を決めて合成するのです。その後専用の試写室で確認するわけですが、CM の場合は 2 回くらいしか上映してもらえない。15秒間、もの凄く集中しながら見て、その場で気になった部分を指摘しなければいけない。大変な世界でしたよ(苦笑)。

野口:フルデジタルが当たり前の世代には想像できない世界でしょうね。

八木:だからコンピュータが導入されたときには興奮しましたね。すぐに結果が返ってくる。「これは便利だ、素晴らしい!」と思いました。加えてデジタル化したことで、凄く細かい部分まで確認できるようになりましたからね。

野口:だから、どんどんデジタルにシフトしていったわけですね。

八木:そうです。最初に導入したNEC の PC-98 と Personal LINKS(※2) は難しくて使いこなせなかったのですが、その後に登場した Macintosh と Photoshop 1.0 や After Effects 1.0 は GUI で操作できたのでスタッフの食いつきが良かったですね。当時の白組には僕たちの班とは別に CG 専門班もいて、彼らは Power Animator などのハイエンドの 3DCG ソフトを使って高度な処理をしていたのですが、僕たちも Strata 3D を導入して CM 用の立体文字といった簡単な素材は自前で制作するようになりました。その後は Windows PC に移行し、LightWave 3D を経て、3ds Max を使うようになり今にいたります。段階を踏んで経験していくことで、最初は難しいと感じたポリゴンの概念も理解できるようになりましたね。

※2:Personal LINKS
株式会社トーヨーリンクス(現、株式会社IMAGICA)によって開発された、国産のハイエンド 3DCG ソフト ※ 本連載・第2回記事 もあわせてご参照ください

野口:そして今では 3DCG が八木さんの必須ツールになっている。

八木:ええ。僕のような絵が描けない人でも、3DCG というツールを使えば正確なパースの絵がちゃんと表現できますからね。

野口:絵が描けないというのは意外ですね。過去の作品では、絵コンテを描かれていませんでしたか?

八木:絵コンテくらいしか描けないのですよ(苦笑)。絵の場合「こっちのカメラアングルから見た方が格好良いんじゃない?」って後から思っても遅いですよね。でも CG なら簡単にアングルを変えられる。最初から格好良い絵を描けなきゃいけないという負担が CG にはないのが良いですね。

野口:では八木さんの場合、絵コンテはラフと割りきって、アニマティクスやプレビューでレイアウトを決めるのでしょうか?

八木:そうです。2D アニメでは絵コンテが設計図になる場合が多いと思いますが、僕にとっての設計図はプレビューですね。

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