開業 中国、インフラ輸出加速 「一帯一路」の資金源
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が16日、開業した。中国は、これをテコにインフラ輸出を加速させ、アジアでの影響力の拡大と、余剰供給能力の解消につなげたい考えだ。【和田憲二、北京・井出晋平、ワシントン清水憲司、ロンドン坂井隆之】
「中国は、より多くの国際的な責任を負う」。北京で開かれた開業式典。習近平国家主席が、参加国のインフラ整備を目的にAIIBが設置する基金への5000万ドル(約59億円)の拠出を表明すると、列席した参加57カ国の財務相らは拍手で応えた。
AIIBへの期待は、資金不足の途上国ほど大きい。初代総裁に就任した金立群・元中国財政次官は昨夏以降、アジア各国を訪問して需要を探った。バングラデシュのメディアによると、同国の鉄道と電力関連のプロジェクトへの融資が検討され、案件第1号になる可能性がある。パキスタン政府とも融資案件の選定を行っている模様だ。バングラデシュのムヒト財務相は「持続的な成長にはAIIBが必要だ」と話す。
問題は、26%超の議決権を持ち、重要案件で拒否権を握る中国が、公正で透明性の高い運営をできるかだ。中国は、自国中心の経済圏「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想の資金源としてAIIBを位置付けている。途上国のインフラ整備を手助けすることで、影響力を高めるとともに、国内でだぶつく鉄鋼製品などの輸出を増やそうという思惑が透けて見える。
AIIBは、業務を監督する理事が北京の本部に常駐しない。融資案件の選定などで中国の都合が優先されれば、参加国の期待は失望に変わる。
主要国では日米が参加を見送ったが、中国との間に外交や安全保障上の緊張を抱えない英国やドイツ、フランスなど欧州連合(EU)の10カ国以上が加わった。融資案件や資金調達、監査業務の受注など、実利を優先した形だ。ドイツのショイブレ財務相は「主要7カ国(G7)で異なる立場があるのは事実だが、最高水準の(内部管理や融資審査の)基準を求めることでは完全に一致している」と強調。内側から健全な運営を働きかける考えを示している。
日米、存在感維持狙う アジア開発銀との協調求め
AIIBに参加していない日米は、両国が主導するアジア開発銀行(ADB)とAIIBの協調関係を築くことでアジアでの存在感を維持する考えだ。
アジアの開発投融資は従来、ADBや、米国主導の世界銀行が担ってきた。米国にとってAIIBは「既存の国際秩序への対抗」に見える。中国の台頭を警戒する共和党が議会の過半数を占め、加盟を検討しようにも資金の拠出を「議会が認めない」(元ホワイトハウス高官)事情もあり、参加は見送った。米国は「新たな国際金融機関は、既存機関の高い環境基準や統治構造に沿って運営されるべきだ」と主張し、世銀並みの厳格な融資基準などを求める構えだ。
日本には「AIIBは中国の政策を反映する投資銀行だ」(国際金融筋)との警戒感が根強い。AIIBの投融資能力はADBの1割程度に過ぎないが、中国の国益にかなう開発案件なら、環境や人権面で問題があっても進め、支援される側の支持を集めようとする可能性がある。
日本は、ADBがAIIBとの協調融資などの形で案件選びに関与することで、融資に関する規律を維持するとともに、AIIBの台頭を一定程度抑えたい考え。
日本出身の中尾武彦・ADB総裁は「AIIBの最初の案件はぜひ協調融資に」と呼びかける。