日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: P2-169c
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富士山亜高山帯林の発達過程
*田中 厚志斉藤 良充山村 靖夫中野 隆志
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抄録

 富士山北斜面の亜高山帯上部は一次遷移の過程にあり、森林限界付近は山頂方向に突き出した半島状の植生が見られる。これらは基質の安定性の違いや撹乱の影響の結果であると考えられる。北斜面の亜高山帯・高山帯の基質は主にスコリアであり、基質の移動が比較的大きく、森林の発達を妨げる要因の一つと考えられる。もう一つの主な要因として雪崩による森林の破壊が考えられる。富士山北斜面の亜高山帯では雪崩が多く、雪崩道上の森林は破壊され、裸地が形成されている。しかしながら、基質の安定性は植生の発達に伴って高まると考えられる。また、雪崩による撹乱は温暖化に伴う積雪量の減少によってその頻度と強度が減少する可能性が考えられる。これらを考慮したとき、亜高山帯林は発達していくと考えられる。我々は半島状植生を横断して裸地に達したトランセクトを設置し、当年生実生を除くトランセクト内に出現した全木本種の位置、樹高、胸高直径(地際径)、樹齢を測定した。本研究は半島状植生の拡大状況を把握し、そのメカニズムを推定することを目的とした。
 カラマツ(Larix kaempferi)の成木は半島状植生の両側の林縁部で優占し、ダケカンバ(Betula ermanii)の成木は半島状植生の中心部で優占した。カラマツの稚樹・実生は半島状植生の両側の裸地で樹齢50年未満の個体が多く出現したが、林床にはあまり出現しなかった。ダケカンバの稚樹・実生は樹齢20年未満の個体が出現し、東側の裸地では多く出現したが、西側の裸地では稀であった。裸地において、この2種の平均成長速度(胸高直径/樹齢、樹高/樹齢)はダケカンバのほうが高かった。これらのことより、半島状植生は拡大している可能性があることがわかった。また、カラマツがダケカンバより先駆的な樹種であり、森林の拡大に伴って林縁部を形成していくことが示唆された。ダケカンバはカラマツの保護下で急速に成長し、森林の発達を助長する可能性が考えられる。

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© 2004 日本生態学会
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