難民認定の裁判前に強制送還は違憲 原告弁護団「裁判所が鉄槌」

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村上友里 津田六平 伊藤和也 榎本瑞希 河原田慎一
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 難民不認定の処分を通知された翌日に強制送還されたため、処分取り消しを求める訴訟が起こせなかったとして、スリランカ国籍の男性2人が1千万円の賠償を国に求めた訴訟の控訴審判決が22日、東京高裁(平田豊裁判長)であった。判決は出入国在留管理庁側の対応について「司法審査の機会を奪った。憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害した」と認め、計60万円の支払いを命じた。

 原告側によると、外国人の送還手続きをめぐり違憲判断が出るのは初めて。一審・東京地裁判決は2人の請求を棄却しており、原告の逆転勝訴となった。

 難民不認定の処分に対しては、国に異議(審査)を申し立てることが可能で、申し立て中は送還されない。申し立てが棄却されても司法の判断を求めて訴訟を起こすことができる。

 判決によると、2人は2014年12月、収容を一時停止する「仮放免」の継続を東京入国管理局に求めたが、認められずに収容。難民不認定への異議申し立てが棄却されたと知らされ、提訴に向け弁護士に連絡したいなどと訴えたが、翌日に強制送還された。

「司法審査の機会、奪うことは許されない」

 判決は、国が定めた「難民異議申立事務取扱要領」では、申し立て結果は速やかに知らせることになっていると指摘。今回の棄却決定は2人に知らせる40日以上前に出たことをふまえ、「訴訟の提起前に送還するため、意図的に棄却の告知を送還直前まで遅らせた」と認めた。一審判決は「原告の提訴を妨害する不当な目的はない」としていた。

 また高裁判決は、事前に知らせると逃亡され送還が妨害される可能性があるとの国の主張に対し、「抽象的な可能性にとどまる。送還直前の告知に合理性はない」と説明。原告の難民認定手続きが濫用(らんよう)的だとする国の訴えについても、「申請が濫用的か否かも含めて司法審査の対象とされるべきだ」と退けた。

 そのうえで、「訴訟を起こすことを検討する時間的猶予を与えなかった。司法審査の機会を実質的に奪うことは許されない」と入管の対応を批判した。

 名古屋高裁では1月、スリランカ国籍の別の男性に難民認定の裁判を起こす機会を与えずに送還した入管の対応について違法性を認めたが、違憲とは判断しなかった。

 入管庁は判決後「判決内容を精査し対応したい」とコメントした。(村上友里)

働く外国人の権利「保障する法律必要」

 「日本は難民申請者に対して極めて残酷な扱いをしてきた。裁判所が違憲だという鉄槌(てっつい)を下したことに大きな意味がある」

 原告弁護団の駒井知会(ちえ)弁護士は会見で、判決をこう評価した。難民不認定に対する異議申し立ての棄却が告知された直後に送還されたケースは、原告以外の難民申請者にも多くあるという。

 指宿昭一弁護士も「入管の対応をめぐる訴訟で憲法違反に踏み込んだ判決は極めて少ない」と指摘。「入管の考え方がおかしいと判断された。同様の実務は今後できなくなり、強制送還に影響を与える」と話した。

 スリランカに送還された原告の男性(50)は政治的な理由で迫害を受け、身を隠して転々とする生活を余儀なくされているという。弁護団を通じ、「今までとても苦しく大変だった。とてもうれしい」と述べた。

 外国人政策に詳しい国士舘大の鈴木江理子教授は「難民申請を認められなかった人の権利侵害まで踏み込んだ画期的な判決だ」と話す。今回の判決は、難民不認定の異議申し立ての棄却を告知された翌日に強制送還されたスリランカ人の男性2人について、憲法が保障する裁判を受ける権利を侵害したと判断した。

 「過去の同様の訴訟では入管行政にお墨付きを与える判決ばかりだった。そういう意味で今回は司法の独立性を示したまっとうな判決だと言える」と評価した。

 入管行政については「在留資…

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2021年9月22日22時50分 投稿

    【視点】「迫害の危険がある国へ難民を送還してはならない」。 この「ノン・ルフールマン原則」は、難民保護手続きの大原則であり、難民認定を受けた人だけでなく、難民申請手続き中の人にも該当します。他国で難民申請を行うこと自体が、国家への裏切り行為とみな