少年事件の実名報道に対する会長声明
 平成23年3月10日、最高裁判所は、犯行時少年であったいわゆる連続リンチ殺傷事件(木曽川・長良川事件)の3人の被告人全員の上告を棄却し、死刑判決を確定することになりました。その報道のなかに、被告人の実名、容ぼうを公表したものがあります。
 これらの実名報道、写真掲載は、少年時代の非行について、氏名、年齢、職業、容ぼう等、本人であるとわかる(推知できる)ような記事または写真の報道を禁止した少年法61条に明らかに違反する行為です。少年法は、成長の途上にあって将来の可能性ある少年について、たとえ大きな過ちがあったときも、その健全な成長を援助することを通じて(少年法1条)、犯罪のくり返しを防ぐことを基本理念としています。それは、憲法13条の個人の尊重、すなわち一人ひとりの「人間の尊厳」を認めあう理念に由来しています。
 国際的にも、国連子どもの権利条約は、罪を問われる子どものプライバシーを尊重される権利を認め(40条2項(b)(F))、少年司法運営に関する国連最低基準規則8条は、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として、少年犯罪者の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないと定めています。また、少年法の精神は、子ども時代に犯した過ちを不当に公表、暴露されることによって、その人格が社会的に否定されることがないような社会環境においてこそ、少年の更生も可能になるという合理的な認識に基づいています。
 今回の実名報道には、以上のような少年非行問題に関する国際規範や少年法の精神に照らすと、何ら合理性も正当性も認められません。
 重大凶悪な少年非行の原因背景には、大人たちの不適切な扱いや虐待、不良な環境の影響等があります。少年時代の非行については、少年の個人責任に帰して済ませるべき問題ではなく、子どもの健全な育ちを保障しなければならない社会全体の責任の問題であると冷静に考えるべきです。
 実名報道の理由として「事件の重大性」、「死刑判決の確定によって被告人の更生の可能性がなくなった」というものがあげられていますが、これらは理由にはなりません。
 前者は、少年法61条が、刑事裁判に公訴を提起される重大な事件を含むことを明記し、事件の重大性を理由とした例外を認めないで一律に実名報道等を禁止していることを見過ごしていますし、後者は、死刑判決を受ける被告人の人格の尊厳まで否定することは許されないという点、死刑囚となっても更生の可能性を失うものではなく、死刑判決によって罪の意味を深く内省することもあり、死刑執行により人生を終える瞬間まで、社会との関わりのなかで深く思索を続け、優れた文学作品を残すほど人格的な成長を遂げた人が数多く存在するという歴史的事実を軽視しています。
 当会は、被告人の実名、容ぼうを公表した報道機関に対し、厳重に抗議するとともに、今後、同様の実名報道、写真掲載等がなされることがないよう、強く要請します。

2011年(平成23年)3月11日

会 長  齋 藤   勉