米で同性婚を法制化、「結婚尊重法案」が可決 バイデン大統領が署名へ

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アメリカ連邦議会の下院は8日、同性婚を最高裁判例だけでなく立法で明確に合法化する結婚尊重法案を可決した。同法は同性婚に加え、これまで連邦法で合法化されていなかった異人種同士の結婚も正式に合法にする。ジョー・バイデン大統領が近く法案に署名し、連邦法として成立させる。

下院は賛成258、反対169で、法案を可決した。上院は11月29日に賛成61、反対36で可決していた。

同法案は、同性婚や異人種間の結婚など含み、すべての州で合法に行われたあらゆる結婚について、連邦政府がその有効性を認めるよう定めた。法案はさらに、他の州で合法的に行われた結婚の有効性を、他の州も認めるよう義務付けた。

下院のナンシー・ペロシ議長(民主党)は法案可決を受けて、「本日私たちは、大多数のアメリカ人が大切に思う価値観をかなえるために立ち上がった。2人の人間を結びつけるほど強力な愛を絶えず尊重し、すべての人の尊厳と美しさと神性を信じるという、大切な価値観のために」と述べた。

同性婚や異人種同士の結婚が連邦法で合法化されることによって、仮に最高裁が今後、それと異なる判決を下したとしても、当事者は自分たちの権利を争うことができるようになる。その場合、最終的な判断は個別の州にゆだねられる可能性もある。

新法の成立によって、1996年の結婚防衛法は正式に廃止される。婚姻は男性と女性の間のものと限定的に定義していた同法は、2013年に連邦最高裁によって違憲とされていた。

今年7月のギャラップ社調査によると、アメリカでは71%の人が同性婚を支持していた。

最高裁の人工中絶反対が契機に

今年6月に連邦最高裁が、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の判決を覆す判断を示したことが、結婚尊重法案を大きく推進させた。

中絶権の合憲性を否定した最高裁判事の1人、クラレンス・トーマス判事は賛成意見として、「将来的には、この法廷のこれまでの実体的適正手続きの先例をすべて再検討すべきだ。これには、グリスウォルド、ローレンス、オバージフェルも含まれる」と書いていた。グリスウォルド、ローレンス、オバージフェルとは、3つの画期的な判例の名前で、避妊の権利の保障、ソドミー(肛門性交)禁止の撤廃、同性婚の合法化に、それぞれつながった。

このことからLGBT活動家たちは、中絶権と同様に判例で合法とされているだけで、個別の連邦法で認められているわけではない同性婚や同性愛行為が、中絶権と同じように保守派多数の現在の最高裁によって違法化されると懸念。結婚尊重法の成立を強力に求めるようになった。

上院では、宗教的自由の尊重を認める条項を追加した上で、共和党の議員も12人が同法案を支持した。

上院通過の際には、民主党のチャック・シューマー上院院内総務が、「この法案可決によって上院は、すべてのアメリカ人が聞くべきメッセージを発した。つまり、あなたがだれでだれを愛するかを問わず、あなたも法の下で尊厳をもって平等に扱われる資格があるということだ」と述べていた。

人種間の結婚も立法で合法に

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「結婚尊重法案」は、州政府が合法と認めるすべての結婚を連邦政府や他の州も合法と認めるよう定めている。その中には、同性婚のほか、異人種同士の結婚も含まれる。

連邦最高裁は1967年の「ラヴィング対ヴァージニア州」判決で初めて、アメリカ全土で異人種間の結婚を合法と定めたが、これまでは連邦法で法制化されていなかった。

2021年のギャラップ社調査によると、少なくとも94%のアメリカ人が異人種同士の結婚を支持している。同社が1958年に同じ内容の調査を開始した当時は、支持率はわずか4%だった。

上述のように、最高裁のトーマス判事が人工中絶をめぐる判決で、過去に最高裁判例が認めたいくつかの権利の検討を呼びかけたことが、同性婚の法制化推進のきっかけとなった。

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画像説明, クラレンス・トーマス最高裁判事と妻ジニさん

そのトーマス判事は黒人で、妻ジニさんは白人。それだけに、トーマス判事が避妊や同性愛に関する過去の判例の再検討を提案しながら、白人と黒人の結婚を合法としたラヴィング判決には言及しなかったことについて、「偽善的」「利己的」との批判が、一部のリベラルから出た。他方で、トーマス判事夫妻がいるからこそ、最高裁が異人種同士の結婚を脅かすことはあり得ないという保守派の主張もあった。

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画像説明, リチャードとミルドレッド・ラヴィング夫妻

1967年の「ラヴィング対ヴァージニア州」判決では、リチャードとミルドレッド・ラヴィング夫妻が、ヴァージニア州が自分たちに結婚許可証を発行しなかったことが、不当な差別だとして、州政府を訴えた。当時のアメリカでは16州で、異人種同士の結婚を禁止する州法が存続していた。

米ピュー研究所の2019年調査によると、アメリカの既婚者の11%が、自分とは異なる人種の人と結婚していた。さらに同年に新婚となった人の19%が、異人種同士の結婚をしていた。