大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件をきっかけに子どもの見守り活動を始めた電器店主が北陸・金沢にいる。子どもの安全を訴え全国を回る遺族に会い、見守り活動を全国に広げようと誓った。誓い通り全国組織を結成し、来年、大阪で全国集会を開く。8日で事件発生から14年。多くのボランティアが遺族の思いを受け継ぎ、街頭に立つ。

■「活動を全国に」遺族に誓う

 「おはよう、行ってらっしゃい」。金沢市木越2丁目の平寿彦(たいらことひこ)さん(68)は、早朝から通学路に立つ。地元の金沢市立大浦小学校の児童を見守るボランティアグループのリーダーだ。約80人のメンバーが、平日の登下校時、約30カ所の街頭に立つ。

 学校内でも交代で常駐する。児童が在校する時間帯、1~2人態勢で校舎の玄関付近に机といすを置き、守衛に就く。「ボランティアがいてくれるだけで安心できる」と北村秀教頭。「頼もしい存在です」

 2001年6月8日、付属池田小に刃物を持った男が侵入し、児童8人が殺害され、教師を含む15人が負傷した。保育園児の孫がいた平さんは衝撃を受け、何かせずにはいられなかった。同年10月、地元の仲間に呼びかけ、大浦小に通う児童らを見守る「スクールサポート隊」を結成した。

 事件で長女の麻希さん(当時7)を亡くした酒井肇さん(53)との出会いは04年5月、金沢市内の酒井さんの講演会だった。講演後、地元で子どもの見守り活動をしていることを告げると、翌年2月に酒井さんに招かれ、付属池田小を訪ねた。亡くなった子どもたちの恐怖と無念を思うといたたまれなかった。「8人の命は決して無駄にしません」と酒井さんに誓った。「必ずこの活動を全国に広めます」

 石川県内の自治体や知り合いにボランティア組織の設立を呼びかけて回った。およそ200の全小学校区に組織ができた。全国に活動を普及させようと自腹で上京して国への陳情を繰り返した。先進事例として国会議員の視察を受け入れ、各地で講演もした。

 12年、「石川県子ども見守りボランティア協議会」を立ち上げ、知り合いのいる全国のボランティア組織に手紙を書いて全国組織の結成を持ちかけた。13年に「全国子ども見守りボランティア協議会」を結成。金沢で開いた初の全国集会には25都府県から約300人が集まった。現在、約500団体が協議会に加わる。

 「こうした取り組みが広がるのは素晴らしい。娘も喜んでくれていると思う」と酒井さん。「平さんは魂を込めて活動していて、頭が下がる思いです」。平さんは「児童8人の死と事件の教訓を決して忘れず、地域が手を取り合って子どもたちの命を守っていきたい」と話す。(吉村治彦)