アパガードは元来通信販売の商品でした。１９９３年、その有効成分が薬用成分「薬用ハイドロキシアパタイト」＜ｍＨＡＰ＞として認可されたときから、サンギは広告活動を始め、本格的な自社通信販売システムを導入しました。新聞の５段とか雑誌の１頁などで製品を紹介し、サンプル（８ｇ×５本）を１、０００円でお試しいただき、納得した方が、大サイズ（１２０ｇ×２本）を５、０００円でファックスや葉書でご注文いただくというシステムでした。現在のサンギのコンピュータシステム担当者を中心に、女性５人が受注、発注、配送、入金などの運営をしていました。 ＴＶＣＭの最初の出番は、薬効成分の認可を機会に１９９４年のことでした。予算は通販システム開発とほぼ同じ1億円くらいで、当時の年商（１０億円前後）の約１０％でした。東ちづるさんと石田純一さんを起用し、「白い歯が好き」というキャッチコピーで作ったＣＭで、最後の画面に注文用のフリーダイヤル番号を紹介したものでした。 当時のサンギは、商品の高級品としての性質と会社の力から言って、一般の流通に流すのは無理だろうとの判断から、通信販売に特化し、次々と開発製品を流していく方針でした。 そして薬用成分の認可とＴＶＣＭの影響で、ほどほどながら売上も今までにない上昇を見せたのです。 そこへ、１９９５年に、大変な情報がサンギに飛び込んできました。ある大手歯みがきメーカーが、一般の店頭で大々的にアパタイト歯みがきを売る準備をしている、という噂です。もちろん、そのアパタイトは、アパガードの薬用成分＜ｍＨＡＰ＞と全く違うし、むし歯予防という効能効果はうたえないものですが、一般の人には同じだと思われてしまい、サンギの長年の研究成果だけが競争相手にとられてしまうことになります。そこで、サンギの社長は思い切って方針を変え、第２回目のＴＶＣＭに踏み切ったのです。 アパガードは、一般の流通では大手に抑えられ、相手にされません。そこで社長が考えたのが、昔マーケティングをした「Ｉ」という化粧品会社の戦略です。それはＴＶＣＭの大量出稿により、消費者に直接訴えるという戦略なのです。消費者が店頭で「ないかないか」と聞かれると、店では商品をそろえざるを得ません。そこで、流通問屋も扱わざるを得なくなるという順序です。ただしリスクも大きく、資金もありません。サンギの年商はまだ２０億円弱。しかし社長は、親に泣きつき、親族も巻き込むなどあらゆる手を打って、担保を整え、銀行から大量資金の借り入れに成功しました。なにしろ、年商２０億円に満たない会社が、１０億円以上のＴＶＣＭを出すというのです。 その後のことは日本の広告の歴史に残っていますが、その裏話はあまり知られていないでしょう。 当時営業担当の福田（現サンギ専務）は、販売に２つのキーワードがあることに気付きました。一つは「美白」、もう一つは「芸能人」です。もともと＜ｍＨＡＰ＞配合のアパガードは、歯のミネラル欠損部を修復してむし歯を食い止めるために作られた歯みがきでした。　しかし「むし歯予防」という切り口は消極的で暗いイメージがあるのに対し、エナメル質の修復により二次効果として生じる「歯の白さの回復」は、積極的で明るいイメージなのです。またアパガードは多くの芸能人に使われていたのは事実で、そのことを示唆すると売上の上昇につながった経験がありました。 福田が全責任を負って作ったコピーは「芸能人は歯が白い」。これをもって、今回東幹久さんと高岡早紀さんを起用して、１５秒のコンテと１５秒の＜ｍＨＡＰ＞の作用機序の説明を入れ、電通に製作をお願いしました。しかし東京都の薬事監視指導を受けたところ、「芸能人だって、歯が白くない方もいるし、これは正確な表現ではないのでは？」と係官に言われたのです。福田がとっさに考え、「では「芸能人は歯が命」なら？」と答えたのがあの有名なコピーの誕生です。「それなら、歯が大切なものだということでしょうから問題ないだろう」と言われたのです。 １９９５年夏から放映されたあのＴＶＣＭは、社長も福田もこんな大騒ぎになるとは思ってもいませんでした。社長は流通向けに４０ｇ９８０円の小サイズのアパガードを３０万本用意したのですが、経理の岩崎部長（現監査役）から「それは１年分の在庫だよ」と、文句を言われました。（月間３万本が当時の売上でした。）しかしＴＶＣＭを放映して１週間で３０万本は売り切れてしまい、今度は流通から文句と問い合わせが殺到し、収拾がつかなくなりました。放映中、海外出張にでかけていた福田に社長が電話報告したところ、福田は冗談だとばかり思ったそうです。 こうして、てんやわんやで「美白歯みがき」の市場が誕生したのです。

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