国や大阪府、大阪市の補助金計約1億7千万円をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われた学校法人「森友学園」(大阪市)の前理事長、籠池泰典被告(67)と妻の諄子被告(63)の判決公判が19日、大阪地裁で開かれた。野口卓志裁判長は「虚偽の契約書を作成するなど手口は巧妙で大胆だ」として、泰典被告に懲役5年(求刑懲役7年)、諄子被告に懲役3年、執行猶予5年(同)を言い渡した。
諄子被告については、起訴内容のうち府・市の補助金詐取は無罪とした。
地裁はこの日、検察側主張に誤りがあるとする被告側の申し立てを受け、職権で弁論を再開。被告側は、府・市から詐取したとされる補助金のうち計約90万円分はすでに弁済したなどとし、論告求刑をやり直すべきだとした。検察側は改めて論告し、従前通り両被告にいずれも懲役7年を求刑した。
両被告は公判で「補助金詐取の共謀や故意はなかった」として詐欺罪の成立を否定し、諄子被告は全面無罪を主張した。籠池被告は府・市の補助金について「一部は不正な手段を用いた受給であることは否定できない」としたものの、詐欺より量刑の軽い補助金適正化法違反にとどまると訴えた。
検察側は2019年10月の論告で、両被告について「詐欺の意思は明らかだった」と指摘。諄子被告は籠池被告と詐取の意思を共有し、共謀が成立するとした。その上で「税金でまかなわれる補助金をむさぼる犯行で、反省の情も認められない」などと批判した。
起訴状によると、両被告は学園が大阪府豊中市に開校を計画していた小学校の建設を巡り、虚偽の契約書を提出し、国の補助金5600万円余を詐取。また、11~16年度、幼稚園の運営に当たり、専任で勤務する教職員や「要支援児」の人数を偽り、府と市の補助金約1億2千万円をだまし取ったとされる。
学園を巡っては17年2月、小学校新設のために取得した国有地が8億円余り値引きされたことが発覚し、財務省が学園を巡る決裁文書を改ざんしていたことも判明した。
大阪地検特捜部は18年5月、背任や虚偽有印公文書作成などの疑いで告発された当時の同省幹部ら38人全員を不起訴処分とした。市民団体などの不服申し立てを受け、大阪第1検察審査会が計10人について「不起訴不当」と議決したが、再捜査した特捜部は19年8月に再び不起訴とした。
■「国策捜査」批判繰り返す 諄子被告は涙、一時休廷
黒のスーツに赤のネクタイ姿の籠池泰典被告(67)は19日午前10時、落ち着いた表情で入廷した。上下黒の洋服に身を包み、やや緊張した面持ちの諄子被告(63)が後に続き、それぞれ裁判長に一礼して着席した。
補助金の返還を巡り弁論が再開されてしばらくすると、諄子被告が弁護人の腕にすがりついて何かを主張。感情を抑えきれなくなった様子で、休廷した。
20分余りで再び開廷し、検察側は従前通り2人に懲役7年を求刑して結審した。籠池被告は最終意見陳述で「国策捜査の上、私たちを罪人に陥れて詐欺師として葬るつもりだ」と検察を改めて批判。諄子被告は「補助金目当てで小学校を建てたことはない。私も主人も無実です」と涙声で話した。
同11時15分すぎ、裁判長が主文を読み上げると、両被告は真っすぐに前を見つめて聞き入った。諄子被告に対し、一部無罪とするとの内容を裁判長が簡潔に説明すると、両被告は理解した様子でうなずいた。
籠池夫妻は2017年6月、大阪府豊中市の自宅などの家宅捜索を受け、翌7月に国の補助金をだまし取った詐欺容疑で大阪地検特捜部に逮捕された。勾留は約10カ月に及んだが、18年5月に保釈された際には2人そろって記者会見。籠池被告は「国策勾留だ。妻は全くの冤罪(えんざい)で人権じゅうりん」と強い口調で訴えた。
独特の「籠池節」は公判でも健在だった。「国策捜査、国策逮捕だ」「官邸の意向と忖度(そんたく)で財務省が動いた重大事件から、国民の目をそらせるための別件逮捕だ」。19年3月の初公判では、自作の句を交えながら約10分間にわたって罪状認否で意見陳述し、途中で検察側が抗議する場面もあった。
公判中の19年8月には、背任や決裁文書改ざんなどの疑いで告発された財務省職員らの不起訴が確定した。籠池被告は結審した19年10月の公判で「国の役人の責任が不問に付され、森友問題の幕引きが図られた」と主張。諄子被告が安倍昭恵首相夫人と交流があったことにも触れ「口封じのために共犯者に仕立て上げた」と、改めて捜査批判を繰り返した。