レディー・ガガも悩んだ摂食障害 背後に潜む「自己肯定感の低さ」

聞き手・山内深紗子
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 「やせたら、かわいくなるかも――」と、ダイエットをきっかけに、摂食障害に陥る女性は少なくない。6月5日は世界摂食障害アクションデイ。歌手のレディー・ガガテイラー・スウィフトといった有名人も、10代で悩んだことを告白している。病気の背後には「自信がない」「人に弱みを見せられない」といった、生きづらさがあるという。日本摂食障害協会理事長で医師の鈴木眞理さんに、この病との向き合い方を聞いた。

 ――どんな病気ですか?

 他の日常生活は送れるのに、食に関してだけ異常行動を依存的に繰り返す心の病です。低い自己肯定感から太ることを極端に恐れるようになります。

 患者の9割が女性です。国内では、医療機関にかかる人が年間約21万人います。ただこの数は、氷山の一角です。

 自分が病気であるという自覚が薄いほか、偏見を恐れてSOSを出しにくいので、実際に悩んでいる方はかなりの数にのぼります。

 大きく分類すると、明らかな低体重でも本人にその認識がなく、食事量を制限しようとする「神経性やせ症」、大量にむちゃ食いしては、体重増加を抑えるために吐いたり下剤を乱用したりする「神経性過食症」、過食はするが吐いたり下剤を使ったりしない「過食性障害」に分けられます。

 1980年ごろは15歳以降の発症が多かったのですが、最近は低年齢化して小学生で発症する子もいます。

 今の子どもたちは「やせ神話」や、見た目や容姿で人を判断し偏見を持ってしまう「ルッキズム」のメッセージを幼い頃から浴び続けています。そこに「スクールカースト」が拍車をかけています。

 同級生を容姿や成績などでシビアに選別して序列をつくる。こんな環境で、子どもたちや若者が困難に直面して自己肯定感が低くなっていると、「やせて可愛いという武器」で自分を守ろうとします。

 完璧主義のような強迫性、ストレスの多い環境、ストレス対処能力の未熟さを背景に持つ子どもが摂食障害を発症しやすいと言えます。

 ――治りにくいのですか?

 この病の本質は「生きづらさからの逃避」です。拒食や過食・嘔吐(おうと)は、その患者さんが生き延びるために必要な支えになっています。「生きたい」ともがいている末の行動です。

 生きづらさの原因は、過去のトラウマ経験や愛着障害、怖がりなど本人の持って生まれた特性、家族や周囲の適切なサポートのなさなど様々で、決してひとつではありません。

 治療はまず、生命維持に危機があるほどの状況であれば、入院するなどして体重を増やすことを優先します。

 大切なのは、逃避の原因である「生きづらさ」を探り、患者さんや、ご家族がそれを自覚して、対処できる力を身につけてもらうことです。早い段階で受診して、この過程をたどることができれば、回復します。

 ――治療の体制は?

 国は、「摂食障害治療支援センター」を設け、全国からの相談業務などを担っています。都道府県と連携して治療・支援、地域の医療連携に取り組む「摂食障害支援拠点病院」を宮城、千葉、静岡、福岡の4県に置いています。

 この4県では早期の相談や受診ができるようになり、診療する医療機関も増えています。ただ、財源を都道府県も負担するなどの条件があり、国も全都道府県への設置を目指していますが、なかなか増えません。

 ――社会の理解は?

 「自分の意志で過食している」「母親の育て方が原因」など誤った認識や偏見があります。でも最近は、著名人がカミングアウトして、SOSを出しやすくするよう社会に働きかける動きもでてきました。

 学校現場でも、今年度から高校の保健体育の授業で、精神疾患のひとつとして「摂食障害」について学ぶ時間が設けられました。画期的だと思っています。学校現場から医療につながる流れが加速するのではと期待しています。

 多くは5年以内に回復されますが、長くつきあうことになる方もいらっしゃいます。仮に、過食・嘔吐が1週間に1度あっても、歯や臨床検査で異常がなく、本人が希望する生活が送れていれば、それも「回復」です。

 摂食障害は、その人が生きるために頼っている支えになっているということを理解して、どっしりと温かく向き合っていけるような社会に変わっていくことを願っています。(聞き手・山内深紗子)

     ◇

 すずき・まり 内科医。ストレスと脳内ホルモンに興味を持ち、摂食障害の臨床研究と診療を行いながら、家族会も主催。2019年から日本摂食障害協会理事長。政策研究大学院大学名誉教授、跡見学園女子大学心理学部特任教授。

摂食障害とは

《病気のサイン》

 ・やせ、女性なら無月経、動き過ぎ(神経性やせ症)

 ・食事は炭水化物や脂質を避けて、厳密に計算して低カロリーにする

 ・興味や行動が食べ物のことばかりになる

 ・考え方や行動が過剰に体形や体重の影響を受けている

 ・人と食事するのを避ける

 ・特に、夜間、むちゃ食いをしている

 ・むちゃ食いのあと、吐いたり、下剤を使ったりする(神経性過食症)

 ・ほおやあご周辺が不自然に腫れている(嘔吐(おうと)が頻繁な場合)

 ・頭の中が体形や体重、食べ物のことでいっぱいになる

 ・集中力や判断力が落ちる

 

《家族や周囲はどうする?》

 ・無理やり食べさせない(例外は低血糖時や生命危機が考えられる場合)

 ・過食や排出行為に気づいていることを伝え、責めない

 ・心身の無理をしていなかったか気遣って、本人の気持ちを聞く

 ・家庭を安心して過ごせる環境にする、いさかいはしない

 ・まず、健康チェック体調改善のための受診を勧める、脅かさない

 ・家族だけでも摂食障害の情報を得て、専門家に相談する

                (鈴木眞理医師への取材により作製)

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    おおたとしまさ
    (教育ジャーナリスト)
    2022年6月5日15時45分 投稿
    【視点】

    「やせすぎではかわいくない」「そんなにやせてどうしたいの?」「メディアのなかの美しさは偽物」「食べなきゃダメ」みたいな「正論」は、この病に苦しむひとを救わないということはもっと世の中に認知されるといいと思います。 私は医師ではないので知っ

    …続きを読む