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世界最大の難民キャンプはなぜ閉鎖に追い込まれたのか

世界最大の難民キャンプはなぜ閉鎖に追い込まれたのか

2017年11月17日

戦後最大の難民危機にさらされる世界。紛争・暴力・迫害によって強制移動させられた人たちは、世界で約6,800万人に上る。その3分の1を占めるアフリカでいま、異変が起きている。舞台は、世界有数の難民受け入れ国ケニア。世界最大の難民キャンプを支援半ばで閉鎖すると発表したのだ。難民支援の現場で何が起きているのか。

24万人の難民キャンプが閉鎖へ 支援も縮小

26年の人生のほとんどをキャンプで過ごしてきたファトゥマ・アリ・アブディさんは、キャンプの閉鎖が決まり途方に暮れていた。3人の子供を育てているが、閉鎖決定以降、支援物資が減り、子供の健康状態は悪化。1か月前には、1歳半の息子を亡くしていた。

「最近、食料が足りず、子どもたちの健康状態もよくありません。」(ソマリア難民 ファトゥマ・アリ・アブディさん)

ファトゥマさんがいるケニアのダダーブ難民キャンプ。24万人が身を寄せる。世界最大であり、最も長期化した難民キャンプの一つだ。

キャンプ設置は1991年、隣国ソマリアでの内戦がきっかけだった。ソマリアでは当時の政権が崩壊し内戦状態に突入。国際社会が介入したが、その後、長年にわたり混乱は収まっていない。多くの難民が発生し、今も100万人以上が国外へ逃れている。

キャンプ閉鎖に、支援団体も危機感を感じている。2012年からキャンプで活動してきた日本のNGO「ピース・ウィンズ・ジャパン」。これまでに、約13000件のシェルターを作ってきた。ソマリアの内戦が収まらないなか、長期化する生活にとって安定した住居は欠かせない。しかし、閉鎖の発表を受け、団体への寄付は縮小。今年度の計画を見直さざるを得なかった。

(NGO「ピース・ウィンズ・ジャパン」が作ってきたシェルター)

「ダダーブで生まれ育った子供達もたくさんいます。難民の方は今からソマリアに帰れと言われてもって、不安な思いでケニア政府の発表を聞かれたと思う。不安を払拭したいですが、減らされた予算の中でどうしたらいいんだろうと。」(ナイロビ事務所所長 谷本明美さん)

“キャンプはテロの温床になっている” 閉鎖の理由

ケニア政府が、ダダーブ難民キャンプの閉鎖に踏み切った大きな理由は、相次ぐテロだ。2013年の首都ナイロビで起きたショッピングモールのテロでは67人が死亡。さらに、2015年には、ダダーブに近いガリッサ大学でテロが起き、147人が犠牲となった。ケニア政府は“難民キャンプがテロの温床になっている”と見ているのだ。テロ組織のメンバーがキャンプに紛れ込み、支援物資をかすめ取って資金源にしているという。

相次ぐテロに打つ手がなく、難民キャンプ閉鎖に踏み切ったケニア政府。難民問題の責任者は、国際的な非難の高まりに対し“先進国も安全保障上の理由から難民を制限している”と反論した。

「“難民のふりをした者”が脅威となるなら、対処するしかありません。ヨーロッパで国を守るために難民を受け入れなかったことと同じです。」(内務省 難民問題責任者 ムウェンダ・ジョカ氏)

一方、国連は、難民キャンプとテロ組織との関係を否定。国連としてもテロリストが紛れ込まないよう対策をとってきた。支援半ばでの閉鎖は、これまでの難民支援の重大な岐路だととらえていた。

「ケニア政府に難民キャンプの閉鎖を考え直すよう依頼しましたが、まだ結論が出ていません。今の時点では(ソマリアは)多くの難民が帰れるような状態ではないのです。」
(国連 ソマリア難民問題特別大使 モハメド・アブディ・アフィ氏)

(閉鎖されたキャンプ場)

行き場に苦慮する難民たち 危険な祖国への“帰還”

ケニア政府が閉鎖を撤回しないなか、今、国連は難民キャンプからソマリアへの自発的な帰還を支援している。

帰還の意思を何度も確認した上で当面の生活資金として、およそ2万8,000円を支給。更に安全な帰還のため、飛行機を用意している。

9月中旬、人生の大半をキャンプで過ごしてきたファトゥマさんの姿があった。3人の子どもを育てるため、キャンプが完全に閉鎖される前に帰還を決断したと言う。生まれてすぐに祖国を離れたファトゥマさんにとって26年ぶりの帰郷だ。

「帰ったあとのことは、何も分かりません。(子どもたちの)生活が少しでも良くなれば、と思ったんです。」(ソマリア難民 ファトゥマ・アリ・アブディさん)
難民たちの祖国ソマリアでは、今も内戦が続く。これまでにソマリアに戻った難民は7万人。国連が比較的安全だとしているソマリア南部の町キスマヨを訪ねた。

ファトゥマさんは、国連の支援を受け、部屋を借りて生活を始めていた。長引く内戦で、町には学校や病院さえほとんど整っていない。水や食糧が不足した状態も続いている。
ファトゥマさんは、祖国に帰れたこと自体は「幸せだ」としつつ、生活への不安、治安への懸念が増すばかりだった。

「まだ難民キャンプに残っている人に言いたいことはありますか?」

「まだキャンプを出ない方がいいと思います。」(ソマリア難民 ファトゥマ・アリ・アブディさん)

「どうして?」

「ソマリアに帰ると、支援は受けられません。彼らに、このつらさを味わってほしくないですから。」(ソマリア難民 ファトゥマ・アリ・アブディさん)

難民たちの行き先には、先進国が受け入れる第三国定住がある。しかし、世界で最も難民を受け入れていたアメリカは、入国禁止令を出し、難民の受け入れを制限している。ソマリア難民で見てみても、年間約1万人を受けいれてきたが、今年は千人にも満たない。ダダーブでも、先進国でしか受けられない医療や政治的な保護を希望しながら、今も待たされている人は少なくない。

世界の多くの難民問題は長期化し、その解決はますます難しくなっている。しかし、戦後最大の難民危機とも言われるいま、難民の自由を確保するための門戸を閉じてはなるまい。一部の国々に押し付けてきた難民政策の見直しが急務だ。また、難民を生み出す根本的な原因を断つ対策も必要ではないだろうか。そして何より、この問題に世界が関心を向けることが求められている。

この記事は2017年10月10日に放送した「テロ組織が難民支援をねらう!? ~世界最大キャンプ閉鎖の裏で~」を元に制作しています。

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