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C植物との違いCamparison with C3 plants update 2013.9.1

C3植物とC4植物の比較

参考文献 ;「光合成」(朝倉書店), 「光合成と物質生産」1980, 農学大事典(養賢堂)
     Edwards and Walker 1983 C3,C4:mechanism, and cellular and environmental regulation, of photosynthesis

葉の構造の違い

 
C3植物のリョクトウでは、維管束の周りの維管束鞘には、葉緑体がほとんどありませんが、C4植物のソルガムでは、維管束鞘には、発達した葉緑体が見られます。その周囲の葉肉細胞が維管束鞘をぐるりと取り囲み、この2つの細胞の共同作業によってC4光合成が行われます。リョクトウのように細胞間隙が少ないのも特徴です。また、 濃縮したCO2の拡散を防ぐため物理的な障壁(スベリン層、フェノール物質の重合体でワックス中に沈着している)が維管束鞘細胞の細胞壁に存在し(NADP-MEとPCK型のみ)、CO2が葉肉細胞への戻る拡散を防いでいます。その結果、維管束鞘細胞のCO2濃度は大気の4.5(Dai et al.1993)〜18倍(Jenkins et al. 1989)のレベルに保たれています。→このため、光呼吸は低く抑えられ、気孔をめいっぱい開けなくても十分なCO2と取り入れることができます。葉の構造は、種やサブタイプによっても異なります。詳しく知りたい方は、Databaseをご覧ください。

C4植物は、C3植物より最大光合成速度が高く、光飽和点も高い

  C3植物のみかけの光合成速度は、最大日射の1/2〜1/4において光飽和に達するのに対し、C4植物では最大日射あるいはそれ以上にならなければ光飽和に達しない。C4植物は、CO2固定能力がC3植物に比べて高いため、気孔抵抗が多少高くても、光を十分に利用できるからであると説明される。しかしながら、右図のC4植物のデータ(赤線)は2種しかなく、C3植物であるワタやヒマワリにおいても光飽和が起こっていない。より多くのデータが必要であるし(そのうちやりたい)、右図のみでは、単なる種による違いとも言えるかも。(右図は「光合成と物質生産」1980村田・宮地編より)。  

C4植物の量子収率は、C3植物より高い

 ここでの量子収率は、吸収した光強度に対する取り込んだCO2(あるいは放出したO2)の割合を指します。1970、1980年代に出てくる量子収率はほとんどこの量子収率と思ってよいと思います。光呼吸を抑制した条件ではC3植物の量子収率はほとんど一定であること(0.1〜0.11)が知られています(Bjorkman and Demmig 1987)。これに対してC4植物はサブタイプと単子葉か双子葉かによって変異があります。NADP-ME型の植物は同じ分類のNAD-ME型の植物より量子収率が高く、同じサブタイプ内ではイネ科(右図、濃色)のほうが双子葉(右図、淡色)よりも量子収率が高いことがわかっています(Ehleringer and Pearcy 1983)。サブタイプの量子収量の大きな変異が生じる原因ををはっきりさせることはなかなか難しいようです。NADP-ME型とNAD-ME型の植物はPEP(PEPの働きなどは「3つのサブタイプ」を参照)を再生するためにCO2固定あたり2ATPが必要となります(当然その分の光量子が必要)。また、維管束鞘細胞の外に漏れ出したCO2を補うためのポンプを動かす(overcycling)ためのATPも必要です。 PCK型では1ATPと0.5NADPHが必要とされます(Hatch1987)。overcycingがなければ、CO2濃縮回路のために必要なエネルギーにおいて脱炭酸回路の違いはほとんどないはずです。しかし、BSCを囲む細胞壁にはC4酸の輸送のためたくさんの原形質連絡(plasmodesmata)が必要であり、BSCからのCO2の漏れは避けられません(Hatch1987)(←しかし、「光合成」朝倉書店にはCO2に対する機密性を保持したままで有機酸の移動が行われるようになっていると記述がある)。Farquhar(1983)によるとNAD-ME型とPCK型では維管束鞘細胞にPS2が存在し、酸素発生があるので(外に出て行くその酸素の流れがあるはずだから)NADP-ME型に比べ、維管束鞘細胞の細胞壁はガスの透過率が高いはずだそうです。とにかく、C4サブタイプの量子収率の違いは維管束鞘からのCO2の漏れに種間の変異があることを反映しているとされ、この仮説はFarquhar(1983)やFurbankら(1990)によって詳細に議論されています。しかし、Hatchら(1995)が新しいpulse-chase technique を使って漏れ速度を直接測定したところ、CO2の漏れにはスベリン層があるなどの維管束鞘細胞の細胞壁の特性は関係なく、サブタイプ間の量子収率の差異も説明できないそうです。もう一つの可能性として、光吸収効率やBSCとMCの間の光量子の分配の変異によるものではないかとう意見もあります。この説の根拠としては単子葉類にくらべ双子葉類の維管束の配置が最適ではない→だから双子葉の量子収率が低いのではないかという考えがあるため。これはとても興味をそそられる可能性ですが、これからの検証実験を待つしかありません。私個人の意見としては、C4サブタイプ間のBSC内の光呼吸速度の違いのためであると考えてみたいのですが・・・。

C4植物の光合成速度の最適温度は、C3植物より高い

 右図を見ると、確かにC3植物の光合成速度の最適温度は、15〜30℃くらいの範囲にあり、C4植物の光合成速度の最適温度は35℃くらいであるようです。このことは、一般の教科書でも乗っている内容で、C4植物がC3植物より高温乾燥地域で繁栄している生態学的な説明をしていると考えられますが、最適温度が異なる生化学的な理由は、ちまたの文献には、見つけることができませんでした。
 私なりに理由を考えてみると、カルビン回路は、C3、C4植物ともに存在しているので、やはりCO2濃縮機構がその差を生んでいると考えるのが自然です。Yamori&Caemmerer(2009)によるとタバコ(C3)のRubisCOの活性は、約25℃において最大となり、光合成速度の低下要因の一つとなっているようです。しかしながら、上記論文によると、葉緑体のCO2濃度(Cc)のCO2濃度が高ければ、RubisCO活性は低下していません。すなわち、C3植物では、温度の上昇にともってRubisCO活性が低下し、光合成速度も低下するが、C4植物では、維管束鞘細胞のCO2の濃度が高いため、RubisCO活性が低下せず、炭酸固定能力は高く維持されると考えるのが妥当と思います。
 余談ですが、カリフォルニア州のデスバレーに生育するヒユ科のC4植物、Tidestromia oblongifoliaの光合成の適温は約47度であり、個体全体の平均で58rCO2/dm2/時という高いみかけの光合成を行うことが報告されています(Bjorkman et al. 1972)。また、同じデスバレーのオアシスのアシ(C3)は、さかんに蒸散を行うことで、葉温を気温より8℃低くして、40℃を超す気温の中で盛んな光合成を行っているそうです(Pearcy et al.a 1974)。いろんな戦略があって、植物は面白いです。

C4植物は窒素をうまく使っている

RubisCOは、炭酸固定を行う酵素であり、地球上で最も多いタンパク質と考えられています。RubisCO は、CO2と結合すれは、カルビン回路が働きますが、O2と結合すると光呼吸回路が働きます(右図)。C3植物では、光合成で吸収するCO2の1/3ほどを光呼吸で吐き出していると考えられています。C4植物では、RubisCOは維管束鞘細胞に存在し、この細胞中のCO2濃度が大気の4.5〜18倍(Daiら1993, Jenkinsら1989)であるため、光呼吸回路は働かず、主にカルビン回路が働きます。よって、同じ光合成速度を保つためのRubisCOは少なくてよいはずで、実際、葉の窒素含量あたりのRubisCO含量はC3植物では20-30%に対して、C4植物では、5-9%と少ない。カルビン回路では、RuBPを再生しているため、その再生産速度に制限を受ける場合がありますが、C4植物では残りの窒素をRuBP再生用に使える分、C4光合成は高いというのが牧野先生(PCP44: 952-956)の論文です。また、タンパク質あたりの比活性(Specific activity)はその名のとおり酵素タンパク質あたりどれだけRubisCOの活性があるかを示す値ですが、Seemannら(PlantPhysiol.74: 791-794)はC4植物の酵素タンパク質あたりの比活性がC3植物より大きいこと(C3植物で14.2〜23molCO2/mol・s at 30℃、C4植物では24.3〜43.2molCO2/mol・s at 30℃)を示しています。すなわち、C4植物は、C3植物よりタンパク質あたりのRubisCO活性が高いことに加えRuBPの再生に窒素を効率的に使うことで、高い光合成能力を保っていると考えられます。 

炭素同位体分別(δ13C)値が異なる 

 C3植物とC4植物の識別法の一つとして、植物体を構成している炭素成分中の安定同位元素(13C)の含量から判定する方法が知られている。大気CO2中には約1%の割合で13Cを含む分子量45の重いCO2(通常は分子量44)が含まれているが、C3植物の炭酸固定酵素RubiscoはCO2‐酵素複合体を生成する際に分子量44のCO2を選択する傾向がある。その結果、C3植物体構成炭素中の13C比率は大気組成より若干低くなり、精密な質量分析計によりこの差を検出することができる。一方、C4植物の炭酸固定酵素PEPcは13C分別作用を示さないのでC4植物体中の13C含量はC3植物に対して大気中(-8〜-7‰)に近くなる。左図はSmith and Brown (1973)からです。δ13C(%)は次の式で計算されます。
δ13C=([(試料中の13C/12C)/(標準化石中の13C/12C)]‐1)*1000
δ13C値で表すとC3植物は-35〜-24‰で、C4植物では-17〜-11‰に分布する。さらにδ13CはC4サブタイプ間において有意な差異があり、ナミビア(南アフリカ)において調査したSchulze et al.(1996)の論文ではNADP-ME型で-11.7‰、PCK型で-12.5‰、NAD-ME型で-13.4‰であった。Hattersley(1982)やOhsugi et al.(1988)のデータも同程度である。著者らはこのサブタイプ間の差異は(濃縮したCO2の維管束鞘からの)漏れと気孔開度の差異から生じているのではないかと推測している。
気孔開度とδ13Cが関係している手がかりはC3植物で確かめられており、水ストレスをかけた植物体や乾燥地帯の植物では約-20‰の値が得られる(Eleringer 1993)。逆にδ13Cの値から水ストレス時の光合成の状態などがわかるのでしょうかねえ(独り言)。
また、この方法は試料約3mg(乾燥重)で測定可能なので未知試料の代謝型の判定には最も有効な方法とされる。実際、クランツ構造をもたないC4植物の最初の発見はこの方法によっている(Freitag and Stichler 2000)。最近ではδ13C値は食品加工の工程を経ても維持される場合が多いので加工食品中の炭素成分がC3由来かC4由来かを判定する場合に用いられる。例えば砂糖はサトウダイコン(C3)由来かサトウキビ(C4)が作ったものかを判定できる。

C4植物は転流速度も大きい

光合成で生産されたでんぷんをいかに早く葉から持ち去るかも、光合成速度を高く保つための重要な要因です。でんぷんが葉にたまってくると光合成速度がおちることがわかっています。C4植物は、C3植物に比べ維管束密度が高く、でんぷんの輸送機能も高いと考えられています(Kawamitsu et al. 1993, 2002).