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キャラクターアニメーションこそインゲームの主役! 『Last Labyrinth』開発陣に聞くアニメーターとリガーの魅力とは

キャラクターアニメーションこそインゲームの主役! 『Last Labyrinth』開発陣に聞くアニメーターとリガーの魅力とは

「CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンス」で高い評価を得た、あまたによるセッション「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」。ゲームキャラクターの魅力をアニメーションで表現するという、ユニークな内容だ。本作のプロデュース&ディレクションを担当した高橋宏典氏と、講演者の福山敦子氏、アレクシス・ブロードヘッド氏にゲーム概要や創作の原点などについて聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」

『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』
ジャンル:VR脱出アドベンチャーゲーム
対応HMD:PlayStation VR、HTC Vive、HTC Vive Pro、HTC Vive Cosmos、Oculus Rift、Oculus Rift S、Oculus Quest、Windows Mixed Reality Headset、Valve Index
対応機種:PS4、上記HMD推奨PC相当(Intel Core i5-4590 / NVIDIA GeForce GTX 1060以上 / OS:Windows 10 (64bit)/ メモリ:8GB以上)
配信ストア:(ダウンロード専用)PlayStation Store、Steam、Oculus Store、Microsoft Store
価格:3,980円(税別)~ ※配信ストアによって異なる
lastlabyrinth.jp
©2016 AMATA K.K. / LL Project

モバイルゲーム中心のスタジオが挑んだハイエンドゲーム開発

CGWORLD(以下、CGW):はじめに『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』の企画の成り立ちについて教えてください。そもそも、なぜVRゲームをつくろうと思われたんですか?

高橋宏典氏(以下、高橋):いくつか理由があります。まずビジネスサイド的なところでいうと、弊社はモバイルゲームのデベロッパーで、2008年に創業以来、おかげさまでトラックレコードがそれなりに貯まってきました。ただ、モバイルゲーム市場が過当競争になるなかで、よりハイエンドなゲーム開発が求められるようになってきました。一方で社内を見渡すとゲーム業界で20年以上のキャリアをもち、コンソールゲームの開発経験もあるベテランが少なからずいました。そこで会社のショウケースとしても、実績づくりとしても、ハイエンドなゲーム開発に挑戦してみたいと考えるようになりました。

もちろん、ただハイエンドなゲームをつくって出すというだけでなくて、ユニークな体験ができるところまで、しっかり提示していきたいとも考えていました。実際、すでにコンソールゲームはインディゲームも含めて、タイトル数が非常に多く、そのまま出しても埋もれてしまうリスクがありました。その一方で自分自身がVRゲームにすごく興味があったのと、VRゲームを制作するには2画面分のレンダリングを行う上で、フレームレートをしっかり保てるように、高度なチューニングが必要になるという技術的特性がありました。それでVRという新しいポテンシャルと、技術のショウケースという二面性で選択しました。

  • 高橋宏典氏
    あまた 代表取締役社長

CGW:企画のスタートはいつ頃でしたか?

高橋:最初に企画を立てたのは2015年の秋です。その頃から、今後はハイエンドゲームもつくっていかないといけないだろうな、と思っていました。また、すでに2016年の春にOculus Rift CV1、秋にPlayStation VRの発売が予定されていました。そこでOculus Rift向けにプロトタイプをつくり始めて、2016年の東京ゲームショウにプレイアブルなものを出展しました。ただし、当初から何かひとつのVRデバイスに特化するのではなく、マルチデバイスで出すことを考えていました。

CGW:数あるVRゲームの中でもかなり尖ったタイトルになりましたね。「キャラクターが1体しか出てこない」、「キャラクターがプレイヤーの指示に従って、環境とパズルをする」、「キャラクターが日本語をしゃべらない」などです。こうしたゲームデザインに至った意図も教えてください。

高橋:やりたいことを逆算しながら考えた結果です。もともと僕自身が初代『どこでもいっしょ』(1999)のディレクターを務めたこともあり、仮想キャラクターとのコミュニケーションをゲームのテーマにしていました。また、弊社のアニメーターである福山が、『ICO』、『ワンダと巨像』でのアニメーター経験があり、繊細なキャラクターアニメーションをつくるスキルがありました。これは他のスタジオと比べても優位性がある部分だと考えました。

そこでモーションによるキャラクター表現とコミュニケーションの組み合わせで、何か尖ったものができるんじゃないかなと。そこから仮想キャラクターとコミュニケーションを取りながら、何かするものが良いだろうと言うことになり、パズルや謎解きをするというふうに固まっていきました。また、当時想定していたスケジュールやバジェット感から、複数のキャラクターを出すのは難しいことが想定されました。そこで、ある程度限られたリソースの中で成立しそうなゲームを考えた結果、このような内容になりました。

CGW:2015年の秋から企画を立てられて、2019年11月に発売されましたが、開発期間は想定通りでしたか?

高橋:2016年の東京ゲームショウで出したプロトタイプ版は、プレイヤーの反応が知りたくて最小限の内容のものをつくったため、厳密な全体構想はありませんでした。そのあと1年以上、本開発の座組がなかなか決まらず、開発が休止していました。その後、映像・音楽ソフトメーカーのVAPさんと製作委員会を組めることになり、2018年の春から本開発が始まりました。そのため、実質的な開発期間は1年半ですね。まあ、想定内だと思います。

CGW:開発チームはどれくらいの規模でしたか?

高橋:コアメンバーが十数名で、開発の終盤はもう少し増えましたね。

アニメーターとリガー、それぞれの原体験

CGW:実際にゲームを遊んだところ、カティアのキャラクターデザインもさることながら、モーション(アニメーション)が非常に重要であることが改めてわかりました。これらは講演で強調されていた点です。実際、一点もののモーションだったり、30秒程度にも達する長尺のモーションだったりが多いですね。

福山敦子氏(以下、福山):細かいものも合わせると、カティアだけで600近くモーションデータがありました。私も講演の準備で数えてみて、改めてびっくりしました。

CGW:こんなふうにモーションが主役になるゲームというのは、これまでのゲームの歴史をふり返ってみても、かなり珍しいんじゃないかと思います。そこで、ここからはアニメーターの福山さんと、テクニカルアーティストのブロードヘッドさんに、簡単にご経歴をふり返ってもらいつつ、それぞれの職業にいたった経緯についてお聞きしたいと思います。

  • 福山敦子氏
    あまた 3Dアニメーター

福山:初めて遊んだゲームは、ファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』(1983)でした。中学生のころ、友達の家に遊びに行って、そこで初めて知ったんです。ボタンを押すとマリオの動きが反応するところに驚きました。ちょうど水中ステージで、マリオがだんだん沈んでいって、ボタンを押すとふわっと上がるところが衝撃的だったんです。当時そんな玩具は他にありませんでしたから。考えてみれば、あれがインゲームのモーションに興味をもったきっかけだったかもしれません。

CGW:そこからゲームにのめりこんだんですか?

福山:すぐに親にファミコンをねだったんですが、『スーパーマリオ』が売り切れで買えなくて、親が買ってきたのが『イー・アル・カンフー』(1985)でした。格闘ゲームの草分け的なゲームで、つまらなくはないんですけど、何かちがうなと。どうしても『スーパーマリオ』が遊びたかったんですが、ちょうど受験生だったこともあり、高校に進学するまでは買うのを禁止されていました。やっと高校に合格して、『スーパーマリオ』を手に入れ、それからはずっと『スーパーマリオ』だけ遊んでいました。

CGW:ブロードヘッドさんは、いつ頃ゲームを始めたんですか?

アレクシス・ブロードヘッド氏(以下ブロードヘッド):子どもの頃からゲームが大好きで、SNES(海外版スーパーファミコン)で『F-ZERO』(1990)をやったり、ゲームセンターで『ストリートファイターII(以下、ストII)』シリーズを遊んだりしていました。そんな風にアニメやゲームにはまっていた、ザ・オタクでした。

  • アレクシス・ジャスミン・ブロードヘッド氏
    あまた 3Dアニメーター兼TA

CGW:モーションに興味をもたれたきっかけはありましたか?

ブロードヘッド:高校生の頃に遊んだ『ファイナルファンタジーX』(2001)でした。主人公のティーダが初めてブリッツボールをプレイするイベントシーンがすごくカッコ良くて。すごい、こんな格好良いシーンがこれまでのゲームにあっただろうかって。それから、こういうシーンってどうやってつくっているんだろう。これを仕事にするには、どうしたら良いのかなと思うようになりました。それまでは学校ではブロードキャストジャーナリズム、平たくいえばテレビのニュース制作に関する授業を取っていたんです。それが、コロッとゲーム開発者志望に変わってしまいました。

CGW:そうだったんですね。

ブロードヘッド:いつか日本でゲームをつくるって、その頃はバカみたいに思っていました。実際、周りから「バカじゃないの」って思われていました。日本語が話せないし、女子だし、アメリカ人だし、無理じゃんって。ブロードキャストジャーナリズムの先生にも叱られましたね。ただ、たまたまそのときにコンピュータアニメーションの授業も少しだけ取っていました。その先生がとても良い人で、フロリダのフルセイル大学の情報を紹介してくれました。当時すでにコンピュータアニメーションの専門コースがあったからです。そこで迷わず進学しました。

フルセイル大学 コンピュータアニメーションコース

CGW:そういう意味では、学生時代に学んだことが今の仕事に直結していますね。一方で福山さんはいかがでしたか? 

福山:大阪芸術大学で抽象画を学んだんですが、もともと勉強がそんなに好きではなくて、絵を描くことや、手で何かつくること、例えば手芸などが子どもの頃から好きでした。そのため、クリエイティブな方面に漠然とした憧れがありましたが、当時住んでいた高知県の四万十市では、そういった情報に触れる機会がありませんでした。美大に進学するための予備校なども、周りにありませんでしたし。美術の授業でクロッキーはやりましたが、本格的なデッサンをしたこともありませんでした。そもそも、自分が美術大学に進学できると思っていなかったんです。

CGW:それがなぜ大阪芸術大学に?

福山:たまたま高校2年生のときに教育実習でいらした先生が大阪芸術大学の学生だったんです。その先生に勇気を振り絞って受験について聞いてみたら、「大阪芸術大学なんて、願書を書くだけで誰でも受かるから、大丈夫」みたいな、ごく軽い雰囲気で言われて。そうなの? という。それで、ちょっとその気になったというか。

CGW:抽象画を学ばれたのは、どういった理由からでしたか?

福山:大阪芸術大学の芸術学部には美術学科、デザイン学科、建築学科、映像学科など、様々な学科がありましたが、絵を描くなら美術学科だろうと考えて進学しました。その後、3年生からゼミに所属するんですが、リトグラフのゼミに応募したら、志望者が多すぎてあふれてしまって、抽象画のゼミになりました。抽象画のゼミは画材や表現方法に縛りがなく自由なゼミでした。生徒も個性強めの人が多く、それぞれに独自のスタイルがあり、田舎者の私はそこで色んな刺激を受けましたね。今思えばリトグラフのゼミよりこちらの方が自分に合っていたと思います。

CGW:抽象画を学んで、ゲーム業界に入って、アニメーターという経歴がすでに興味深いです。

福山:いつも助けてくれる人や、いいお手本を見せてくれる人が周りに現れるんですね。高校生の時も美大になんて行けるわけがないと思っていたのに、美術の先生が放課後、受験のためのデッサンを教えてくれました。大学卒業後はやりたいこと、やれることもわからず定職につかず、ふらふらしていました。そんな中でもゲーム業界に行った知り合いが何人かいたんですね。余談ですが、大阪芸術大学からゲーム業界に行った同世代のクリエイターに、後に『ICO』、『ワンダと巨像』で同じチームになる、上田文人さんがいます。自分も、そうした知人の1人から紹介してもらって、ゲーム開発会社のユークスでデザイナーとして働くようになりました。

CGW:ブロードヘッドさんの学生時代はどうでしたか? 最初からアニメーター志望でしたか?

ブロードヘッド:はい。フルセイル大学はアメリカでも大学と専門学校の中間みたいな、3DCGの技術を学んで学位も取れるような立ち位置の学校で、モデラー、アニメーション、リガーなどの分野別にコースが分かれていました。私はアニメーションのコースを選択していましたが、当時はゲーム業界志望は少なくて、映像業界に行きたい人が多かったですね。今ではComputer Animation for Gamesという専攻がありますが、当時はありませんでしたし、映画『トイ・ストーリ-』などが人気でしたから。周りで「ゲーム業界に行くぜ!」と言っていたのは私だけでした。

CGW:すでにPlayStation3は発売されていましたか?

ブロードヘッド:はい。あとはWiiですね。ちょうど大学生の頃に発売されて、お店の前に8時間以上並んで買いました。すごく楽しかった思い出です。

CGW:ちょうどインゲームのキャラクターモーションが重要視され始めてきたころですね。

ブロードヘッド:そうですね。ゲームは映像作品とちがって、自分が操作できるところが魅力です。『FF X』のかっこよさという話にもつながるんですが、もともと格闘ゲームとアクションゲームが大好きでした。中でも『Devil May Cry』など、スタイリッシュなモーションのゲームが好きなんです。操作することで、自分の中で気持ちが高まっていく点が、映像作品とちがう点です。キャラクターが自分の分身になるところが面白くて、自分でもつくってみたいなと思っていました。

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大学と企業、それぞれでモーション制作を学ぶ

Profileプロフィール

あまた株式会社

あまた株式会社

右から、高橋宏典氏(代表取締役社長)、福山敦子氏(3Dアニメーター)、アレクシス・ジャスミン・ブロードヘッド氏(3Dアニメーター兼TA)
amata.co.jp

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