【朝鮮半島ウオッチ】
北朝鮮の金正恩第一書記が、朝鮮戦争休戦60周年に中国の李源潮・国家副主席の招聘(しょうへい)で、内外に向け失地回復の宣伝に躍起だ。金正恩氏はこの日、李副主席とお立ち台に並び中朝の「血盟関係」をアピールし閲兵式や軍事パレードに臨む。一方、米韓両国も27日、最大級の休戦60周年式典を開く。ワシントンの式典にはオバマ氏が米大統領としては異例の出席をする。中朝VS米韓、休戦から60年が経ても同じ構図の朝鮮半島。だが、3代目、金正恩氏は、中国の後ろ盾なくしては「米中韓」の包囲網という厳しい現状も思い知っただろう。(久保田るり子)
■「誰が来てくれる…」やきもきしていた金正恩氏
閲兵式に中国から誰を呼べるのか。金正恩体制の世界に向けたメンツにかかわる重大問題で北朝鮮は中国側に数カ月前から要請をしていたもようだ。ところが中国側はなかなか回答をせず、「北朝鮮側をやきもきさせた」(朝鮮半島筋)という。
北朝鮮は5月下旬から要人を頻繁に訪中させた。軍トップの崔龍海・総政治局長が金正恩氏の親書を持って訪中したのが5月22日。6月19日からは金桂寛第一外務次官らが訪中して初の中朝戦略対話を開催。その後も党幹部を訪中させている。一連の中朝対話で中国側は北朝鮮を対話路線への転換に誘導、北朝鮮の6カ国協議再開に前向き姿勢を明言させてきた。
このなかで北朝鮮側が最も固執したのが「戦勝節」への要人の訪朝要請。中国側の発表は訪朝前日の24日だったが、「少なくとも前週まで回答がなかったようだ」(同)という。
李源潮副主席は中国最高指導部の党政治局常務委員ではないが、25人の政治局員の一人で次期党大会(2017年)で常務委員入りが有力視されている人物。国家副主席という重要ポストで北朝鮮のメンツを立て、国際社会には「最高位ではないといい訳の利く」とのギリギリの人選だったようだ。
一方、中国は「歴史認識」で北朝鮮と一線を画した。北朝鮮は朝鮮戦争休戦60周年を対米戦争に勝利した「戦勝節」と呼び、故金日成主席の偉業とたたえている。だが、今回の李国家副主席訪朝に関して中国外務省は「朝鮮戦争休戦60周年記念行事に参加のため」と発表し、北朝鮮のいう「戦勝節」には乗らず、客観的な立場を明確にした。
ともあれ、北朝鮮側はホッしたであろう。26日には金正恩氏、李源潮氏の会談が行われ、金氏は「朝鮮戦争時の中国の支援を中国人民支援軍の勇士が参戦して打ち立てた遺訓を北朝鮮は永遠に忘れない」と述べ、李氏は「血で結ばれた中朝の軍隊と人民間の親善を引き継ぎ、固守し輝かせるという使命を帯び訪朝した」と語った。
■米韓でも大々的な行事。中国では行事なし
朴槿恵韓国大統領は5月の訪米で、演説した米議会に朝鮮戦争に参加した退役軍人家族を招待して感謝の言葉を述べた。6月の訪中では、習近平国家主席から「北朝鮮の核保有を容認せず」との言質を取った。金正恩体制下の強硬路線が今春の第3回核実験で決定的となり、韓国は米中との連携で対北包囲網の外交攻勢をかけ成果をあげた。