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永久気管孔(永久気管瘻)
更新日:2004年12月02日 掲載日:1995年06月21日
1.永久気管孔とは
永久気管孔の解説図
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永久気管孔とは、のど*(咽頭、喉頭)やその近くに病気があって、治療のため喉頭をとり除かなければならない時、呼吸のためにあける穴のことです。首のつけ根の前の部分に丸い穴があき、気管の出口が縫いつけられ、ここから呼吸をするようになります。
咽頭、喉頭の働き
ふだん、私たちが呼吸をする時、空気は鼻または口から入り、咽頭、喉頭、気管、気管支を通って肺に運ばれます。また、食事をする時は食べ物や飲み物は口から入り、咽頭、食道を通って胃へと運ばれます。呼吸による空気の入口と、食事による食べ物の入口の2つの入口の部分がのど(咽頭、喉頭)です。のどのうち空気の通り道としての喉頭には、声帯を震わせて声を出す働きと、食事の時に食べ物や飲み物が気管に入らないようにする働きがあります。飲み込みに失敗したり、食べている時に笑い出してむせたことがあるかと思いますが、この部分がうまく働かないと食べたり飲んだりした物が気管に入ってむせたり、大量に入れば呼吸ができなくなってしまいます。
永久気管孔
手術で喉頭を全部とった場合には、新しく呼吸のための出入口をつくらなければ呼吸ができなくなり、また、そのままでは何も食べたり飲んだりすることができなくなってしまいます。そのため、気管を前のほうに出して首の皮膚に縫いつけ呼吸をする入口をつくり、食事の通り道と分けてしまいます。この呼吸のためにあけた穴を永久気管孔といい、一生ふさがらないようになっています。永久気管孔をつくれば喉頭を全部とった後も呼吸ができ、食事もできるようになりますが、声は出なくなり、首に穴があいたままになります。
2.永久気管孔をつくった場合の変化
- 首に穴があいたままになります。
- 空気が直接、気管、気管支、肺に入ります。
鼻や口で補われていた湿度が不足し、痰がかたくなります。
空気を直接吸い込むため、ごみが入りやすくなります。
乾燥した空気やごみの刺激のため、痰の量が多くなります。
- 気管孔から水が入ると直接肺に入ってしまいます。
大量に入ると溺れた時と同じ状態になってしまいます。
お風呂に肩までつかれなかったり、水泳ができなくなります。
- 声帯がないので声が出せなくなります。
- 鼻や口から呼吸をすることができなくなるので食生活が変化します。
嗅覚がほとんどなくなり、においをかぐことができなくなります。
熱い物に息を吹きかけて冷ますことができなくなります。
すすり込んで食べたり飲んだりすることができなくなります。
- その他におきること
鼻や口を閉じて力むことができなくなります。
鼻がかめなくなります。
3.永久気管孔をつくった時の注意
1)エプロンの使用と服装について
普段から永久気管孔の前にマスクの役割をする小さなエプロンをかけて、冷たい空気や乾いた空気、ごみが直接入らないようにします。
※エプロンは15×15cmくらいのガーゼ地の布を重ねて縫い、上側に紐をつけてもつくることができます。ガーゼ地のハンカチなどを使ってもよいでしょう。
- 既製品(ウインプロン)もあります(問い合わせ先 銀鈴会TEL:03-3436-1820)。
- 冬など乾燥しやすい季節にはガーゼを厚めにし、加湿器などを利用して室内の湿度を補いましょう。
- エプロンはこまめに取りかえ、いつも清潔にしておきましょう。
- 服装は気管孔を圧迫しないよう襟元のゆったりしたものを着用しましょう。
- 男性の場合はエプロンをつけた上からYシャツのボタンをかけ、ネクタイをゆるめに締めれば呼吸も苦しくなくエプロンも見えません。
- 女性ではスカーフや大きめのハンカチを襟元に巻いている方も多いようです。
2)痰の出し方、とり方について
- 永久気管孔にティッシュペーパーなどをあて、咳をする要領で痰を出して下さい。
- 痰に血が混じる場合もありますが、少しなら心配はいりません。
- 痰がかたくて出にくい場合は、加湿器や蒸気を利用して室内を十分加湿しましょう。
また、気管孔にも蒸気をあてて水分を与え、痰をやわらかくして下さい。
お茶やお湯など水分を多めにとると痰がやわらかくなり出しやすくなります。
- 永久気管孔の周りについた痰は、濡れガーゼなどで湿り気を与えてふきとるか、鏡を見ながらピンセットでとり除いて下さい(ピンセットは薬局で購入できます)。
- 永久気管孔は空気の出入口で大切な部分です。朝夕1回は鏡で見ていつもきれいにしておきましょう。
3)入浴や洗髪について
- 永久気管孔に水やお湯が入らないように注意することはとても大切です。
気管に水やお湯が入れば咳き込みむせてしまいますし、大量に入ると溺れてしまいます。
- エプロンをつけていると、多少の水しぶきは吸いとられ気管に入ることが防げます。
- 湯船に入る時は十分注意し、肩までつからないようにして下さい。
特に湯舟の中で滑ったりすると危険ですので、慣れるまでは家の人と一緒に入るか、側にいてもらうようにしましょう。
- 冬などで肩が冷える時は、タオルをかけたり小さな肩掛けを使うとよいでしょう。
- 洗髪の場合は腰を直角に曲げ、永久気管孔が真下を向くようにしてお湯をかけます。
この場合も慣れるまでは家の人に手伝ってもらうか、美容院や理髪店でしてもらうのがよいでしょう。
- 水泳や潜水はできません。
4)発声法について
今まで普通にしていた「話す」ということができなくなることは大変な問題ですが、いろいろな方法で代用することができます。
(1)筆談やジェスチャー
- 声のかわりに文字や身ぶり手ぶりで意志を伝える方法です。
文章を書くのに時間がかかったり、複雑なことが伝わりにくいなどの問題がありますが、社会復帰の第一歩ですので頑張って下さい。
- お願いや挨拶などのよく使う言葉はカードをつくっておくと便利です。
- NTTの窓口では街角で電話をしたい時、側にいる人にかわりに話してもらうようお願いするためのオレンジカードを配布しています。
- 家族やいつも会う人には合図を決めておくといいでしょう。
(2)電気発声法
- エレクトロラリンクス、ネオボックス、ゼルボックスなどの器械を使って発声する方法です。
だれかに聞いてもらいながらの練習でも1〜3週間で習熟できます。
ただ、話をする時は器械を持つので片手がふさがってしまいます。
- 器械は高価な物ですが、身体障害者に認定されると補助金が出ます。
- 器械の購入方法については病院でお尋ね下さい。
(3)食道発声法
- 口や鼻から空気を食道に入れ、それを吐き出して発声する方法で、道具の必要もなく大変便利です。
また、この方法を修得すると嗅覚も戻り、すすり込みや鼻をかんだりできるようにもなります。
- 日本全国にこの方法を教える発声教室があります。
日本喉頭摘出者連合会(TEL:03-3436-1820 FAX:03-3436-3497)で各地の教室のリストが分かります。
(2)、(3)については「発声障害(失声)」で詳しく説明されていますが、電話なども普通にできるようになり、働いている方も大勢います。
5)食事について
何を食べても差しつかえありませんが、次のことに注意して下さい。
- 手術によって食道の一部が少し狭くなっているため、大きなかたまりはつかえることがあります。食事はよくかんで食べましょう。
※肉や刺身、特にたこやいかなどかみ切りにくいものはつかえやすいようです。
- においをかぐことができないので腐った物など食べないよう気をつけて下さい。
- 熱い物に息を吹きかけて冷ますことができないので気をつけて下さい。
- 麺類などすすり込んで食べたり飲んだりすることができなくなります。
しかし、食道発声法を修得すると、鼻に空気を吸い込めるようになり、嗅覚も戻り、すすり込みもできるようになります。
- 味つけなどは自由ですので、工夫をして食生活を楽しみましょう。
6)その他の日常生活について
- 嗅覚がほとんどなくなりますので、ガス漏れや腐敗物に注意しましょう。
- 力むことができなくなりますので、便秘にならないように食生活に注意しましょう。
- 永久気管孔がだんだん小さくなることがありますが、その場合には担当医に相談しましょう。
1)身体障害者手帳の交付について
喉頭全摘出術を受けられた方は3級に認定されます。
住んでいる市町村役場の福祉係の窓口で、手続きの方法や申請できる条件、優遇措置の内容などを聞きましょう(各自治体によって多少の違いがあります)。
役場の書式の診断書に病院で記入後、写真や他の書類を添え役場に提出します。
認定まで申請後2ヶ月くらいかかりますので、手続きは早目にしましょう。
2)障害年金について
国民年金や厚生年金の掛け金を納めている期間に、この手術を受けた場合に支給されますが、加入期間などの規定があります。
国民年金の場合は市町村役場、厚生年金の場合は社会保険事務所の窓口で手続きの方法や支給される条件を聞きましょう。
5年以内に請求しないと時効になります。
3)生命保険、簡易保険、特約つき保険などの支払いについて
契約している保険会社の窓口で、手続きや支払い条件など詳しく説明してくれます。
手続きに時効があるので早目に窓口に行きましょう。
4)人工喉頭(電気発声器)の無償交付について
所得制限があります。各市町村の福祉係の窓口でご相談下さい。
5)その他
旅客運賃の割引(JR、民営、航空機)、税の減免、障害者世帯向住宅、更生資金の貸付などの優遇措置が受けられます。
詳しい内容や手続きについてはそれぞれの窓口でお聞き下さい。
各地の発声教室でも優遇措置などの情報を得ることができます(「日本喉摘者団体連合会名簿」を参照して下さい)。
注* 永久気管瘻は日本医学会の用語、耳鼻科では永久気管孔を使うことが多い
日本語の「のど」は一般的には頸部、咽頭、喉頭の意味を持つ