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iPS臨床研究 再生医療の実用化に近付くか(6月28日付・読売社説)

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った再生医療の実施に向けて、大きな一歩を踏み出すことになった。

 厚生労働省の審査委員会は、目の難病である「加齢黄斑変性」をiPS細胞で治療する理化学研究所(神戸市)などの臨床研究を承認した。

 来年夏にも始まる世界初の臨床研究では、有効性と安全性をしっかりと見極めてもらいたい。

 加齢黄斑変性は、老化に伴って発病する。目の奥にある網膜細胞の一部に障害が生じて、視界がゆがみ、失明の原因にもなる。

 臨床研究では、患者の皮膚からiPS細胞を作り、シート状に培養して網膜に貼り付ける。既存の薬物治療などでは効果がない6人の患者が対象だ。

 約70万人とされる国内の患者にとっては期待が高まるだろう。

 ただ、臨床研究から治験を経て一般の患者が治療を受けられるまでには、5年以上を要する。

 特に問題となるのは、iPS細胞が、がん化する可能性があることだ。細胞を作製する際に、がんを引き起こす恐れのある遺伝子を使うのが原因とされる。

 その遺伝子が移植時には残らないようにすることを条件に、審査委員会が臨床研究を承認したのは適切な判断だろう。

 目はがんになりにくいとされるが、実際に細胞シートを患者に移植した後、どのような変化が起きるか完全には予測できない。がん化のほか、未知のリスクにも細心の注意を払う必要がある。

 再生医療への信頼を得るためには安全性の確立が欠かせない。

 iPS細胞は、重い心臓病や交通事故による脊髄損傷などへの応用が計画されている。各国が研究開発にしのぎを削っている。

 日本は基礎研究分野で世界のトップクラスにいるが、実用化でも先陣を切ってもらいたい。産学官が協力し、着実に研究開発を進めることが大切だ。

 研究開発を支援するための環境整備も重要である。

 政府は、iPS細胞による再生医療を成長戦略の一つに位置付け、今後10年間で1100億円を助成する方針だ。実用化を促すための再生医療推進法が4月に成立したのも後押しとなる。

 一方で、再生医療製品の審査手続きを簡素化し、早期承認を目指す薬事法の改正法案や、問題のある治療を規制する再生医療安全性確保法案は継続審議となった。

 秋の臨時国会で議論を尽くし、成立を図りたい。

2013年6月28日01時27分  読売新聞)
東京本社発行の最終版から掲載しています。

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