ナックルカーブ=「揺れながら曲がる変化球」ではない

ソフトバンクのバンデンハークをはじめ、最近NPBでナックルカーブという変化球を操る投手が多い。「ナックル」というと、ほとんど回転せず不規則に揺れながら落ちる変化をする球種のことだ。そして「カーブ」とは、スピンをかけて斜めに曲がる球種のことである。2つの球種名が合体した「ナックルカーブ」とは、一体どういう変化球なのだろうか。

球種名だけを聞くと「揺れながら曲がるのでは？」と考える方は多いだろう。しかしその認識は間違いである。ナックルカーブの変化の仕方としては、斜めにスピンがかかり、普通のカーブと同じように斜めもしくは縦に曲がる。揺れながら落ちるナックルの要素は全くない。

ナックルカーブの握り方とスピンのかけ方

変化の仕方にナックルの要素が全くないのにもかかわらず、なぜ球種名にナックルとつくのかというと、ナックルと同じように指を立ててボールを握るからだ。普通のカーブは人差し指と中指の2本、またはどちらかの指を縫い目に沿わせて握るのが一般的である。

対して、ナックルカーブは中指のみを縫い目に沿わせ、人差し指はナックルの握りのように関節を折りたたんでしまう。また、最も基本的なナックルカーブの握りはこの形だが、人差し指と中指の両方を折りたたむ握りの投手も存在する。

スピンのかけ方としては、立てた人差し指でボールを弾きながら、縫い目に沿わせた中指で横回転をかける。スピンをかける中指（力点）に対して、立てた人差し指が支点のように働き、強いスピンをかけることができる。

このナックルのような人差し指の使い方が簡単ではなく、習得には難易度が高い球種とされる。ナックル同様に、指の長さと握力の強さが必要になる。自然、日本よりメジャーの方が盛んな球種で、NPBでナックルカーブを投げる選手も外国人投手の割合が多い。

ナックルカーブの変化の特徴

普通のカーブは手首を深く曲げて、肘で手首に角度をつけながら、リリースは抜く感覚でスピンをかける変化球である。大きな変化をかける分、腕の振りがどうしても緩んでしまい、投げ方がストレートと大きく変わってしまいやすい弱点がある。

対して、ナックルカーブは人差し指を立てて握っているため、強く腕を振ってもボールを抜いてリリースしやすい。ストレートに近い腕の振りでカーブを投げることができるのはナックルカーブのメリットのひとつだ。また、球速は普通のカーブよりも速くなる。普通のカーブは100キロから120キロくらいの球速が一般的だが、ナックルカーブは120キロ後半から130キロ台をマークする投手もいる。

ボールの軌道としては、普通のカーブが一旦上に浮いてから緩やかな軌道で曲がってくるのに対して、腕を強く振ってリリースされるナックルカーブはストレートに近い軌道から鋭く曲がる。速いスピードで大きく曲がるため打者に対応する時間を与えず、空振りを奪いやすいというのが変化の特徴だ。

普通のカーブは肘と手首の使い方でボールを抜く変化球だが、ナックルカーブはチェンジアップやフォークと同じように、指の握りでボールを抜く。抜きながら強いスピンをかける、これがナックルカーブという変化球の正体である。

強力なナックルカーブを操る現役4選手

バンデンハーク（ソフトバンク）

今季は7試合に登板してすでに4勝、防御率は2.32と好調のバンデンハークは、198センチの長身から繰り出す最速150キロ中盤のストレートを最大の武器に、130キロ中盤のスライダー、130キロ台のチェンジアップ、そして緩急として110～120キロほどナックルカーブも操る。長身ということもありナックルカーブは非常に落差が大きく、ストレートとのコンビネーションで打者にとってはやっかいな球種となっている。

ディクソン（オリックス）

ディクソンも今季は7試合で4勝、防御率は2.85と好調だ。平均140キロ前半のツーシーム系の動くボールを軸に、ナックルカーブは120～130キロも記録する。球速が特徴的なナックルカーブだ。ボールの軌道としてはあまり上に浮かず、低い軌道から大きく縦方向に曲がる。フォークのような使い方で空振りを奪っている。

ジョンソン（広島）

昨季沢村賞のジョンソンもナックルカーブの使い手だ。最速152キロのストレート、140キロ中盤のツーシーム、130キロ台のカットボールとチェンジアップ、そして120キロ台のナックルカーブという球種のそれぞれを抜群のキレで、コントロールよく制球する。ジョンソンのナックルカーブは先ほどのディクソンとは異なり、斜め方向に鋭く曲がる。このタイプのカーブはナックルカーブの中でも「スパイクカーブ」と呼ばれている。

五十嵐亮太（ソフトバンク）

日本人選手では五十嵐がナックルカーブの代表的な使い手である。
以前本人が「あれはナックルカーブではない」と衝撃の告白をしたこともあったが、日本人選手では五十嵐がナックルカーブの特徴である人差し指を立てる握り方で放るカーブを使う。

メジャー挑戦を経て現在37歳になる五十嵐は、かつて150キロ後半を計測したストレートも140キロ後半に落ち着いてしまったが、120キロ台のナックルカーブとストレート上手く組み合わせ、現在もNPBの第一線で活躍を続けている。五十嵐のナックルカーブは鋭く大きく曲がる軌道が特徴。さらに、カウントを取るボール、空振りを奪うボール、小さな変化のボールと同じナックルカーブでも何種類かを使い分けている。

著者プロフィール BBCrix編集部