フォークソングのスピード感を出すため、吉田拓郎がよく使っていた16分音符の並ぶメロディーを聞いた父親が、「こんなもの歌じゃない」と言っていたのを、僕は思いだしていた。
若い人の音楽は、年配者には違和感として聞こえる。過去の音楽が脳に染みついて、受け入れなくなっている。僕もそれだけ年を取り、感覚がずれてきたのかもしれないと素直に思ったのだ。
椎名林檎の個性を生かすには、自由にやってもらうしかない。僕は、アレンジャーとしてベーシストの亀田誠治を紹介して2人の作業に委ねた。旧来のディレクションでは事が進まないことを、僕は自覚させられた。
1998年、「幸福論」でデビュー。99年の第3弾「ここでキスして。」のころから、ラジオ局が注目し、パワープレーに選ばれるようになった。ジワジワと大波が迫ってくる気配が漂ってきた。
その後の椎名林檎のブレークはいうまでもないが、亀田誠治も人気プロデューサーとして駆け上がっていった。 (敬称略)
■獅子丸好(ししまる・こう) 本名・篠木雅博。徳間ジャパンコミュニケーションズ顧問。1950年生まれ。渡辺プロダクションを経て、東芝EMI(現ユニバーサル)で制作ディレクターとして布施明、アン・ルイス、五木ひろしらを手がけた。徳間ではリュ・シウォン、Perfumeらを担当した。