現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事

マンガの力(1) スラムダンク奨学金(上)

2007年11月08日11時58分

 10月24日、出版社の集英社はある奨学金制度の合格者を発表した。

写真

奨学金の第1期生に選ばれた福岡第一高の並里

 「並里成(なみざと・なりと)」。福岡第一高3年の18歳。バスケットボール選手の米国留学を支援する「スラムダンク奨学金」のただ一人の第1期生が誕生した。

 90年秋から6年弱にわたって連載され爆発的な人気を呼んだ、井上雄彦のバスケット漫画だ。連載終了後も単行本は売れ続け、04年夏に1億冊を突破した。集英社が販売するコミックでは井上を含めて過去4人しか達成していない。

 その記念事業として井上と集英社が昨年、印税の一部などを充てて奨学制度を設立した。渡航費、米国内の移動費、学費、寮費、けがに備えた保険料まで必要経費をほとんど支給する。当初はバスケット教室の開催や全国の公園にバスケットリングを寄付する案が出た。だが、「日本のバスケの現状はさびしい。高校から先の目標が描けないので何とかしたい」という井上の考えから、奨学金という形になった。

 スラムダンク人気はバスケット人気を生み、10代の競技人口は飛躍的に増えた。高校生の登録者数は95年に男子が11万3000人余、94年に女子が7万7000人余とこれまでの最多を記録した。

 だが、90年代半ば以降、NKK、熊谷組など名門実業団が休廃部に。日本のトップのリーグも日本リーグとbjリーグに分裂。「高校から先」の環境は整わなかった。

 日本バスケットボール協会理事の品田奥義は「せっかくのチャンスを生かせなかった。結局サッカーと比べると、バスケットは学校体育の枠から出られなかった」と話す。連載が終わると、高校の登録者数も少しずつ減り始めた。

 現状を打破する突破口を米国留学に求めた井上は、派遣先として大学ではなく、大学入学の準備をする課程をもつプレップスクールを選んだ。大学に入っても語学ができなければ選手として生き残れない。プレップスクールで英語を勉強しながらプレーし、大学の奨学金獲得を目指す。いずれはNBA選手を誕生させたいという。「全くの奨学金の門外漢なのに、よくここまでつくり上げた」と集英社の初代編集者、中村泰造は語る。

 昨年10月から今年3月まで募集し、1人の高校生が現地のコーチの目にかなった。今年10月、実際に米国で練習し、テストを受けた。それが、高校1年で全国高校選抜のベスト5にもなった並里だった。「NBAでプレーするという最終目標があったので、いいチャンスをもらった」。来春、米コネティカット州のサウスケント校に進む。

 連載終了から11年。スラムダンクは本の中から現実の世界に飛び出して、続きを始めた。〈敬称略〉

   ◇

 スポーツ界で漫画の影響力は大きい。主人公へのあこがれから一流選手が生まれ、競技人口も左右する。バスケット漫画「スラムダンク」など人気作品がもつ現実を動かす力を連載で探る。

   ◇

 スラムダンク 不良の高校1年生の主人公・桜木花道が初心者でバスケットを始め、高校日本一を目指す漫画。全国大会の3回戦以降が描かれずに終わっている。90年秋から96年夏まで週刊少年ジャンプで連載。コミックは全31巻で1億285万部余が販売され、アニメ化もされた。漫画は海外17カ国でも販売された。

PR情報

この記事の関連情報

このページのトップに戻る