Kyoto Shimbun Topics 1996.12.13

無常観 英文で 京の英語講師「方丈記」出版
単語は簡単に リズム感出す


 京都市内に住むイギリス人英語教師が、鎌倉時代初めに鴨長明が著した随筆「方丈記」を英訳し、「Hojoki Visions of a Torn World」のタイトルでアメリカの出版社から出版した。英訳は5年ががりで完成したといい、長明が表現した人生の無常を簡単な単語を使ったリズム感あふれる英文に移している。

方丈記の英訳に取り組んだデビットさん(左)と森口さん
 英訳をしたのは、左京区吉田に住む英会話学校主任講師デビット・ジェンキンスさん(53)。友人で左京区一乗寺の英会話講師森口靖彦さん(43)が協力した。

 デビットさんは、学生時代に西洋文学を研究するうち、イエーツなどアイルランドの著名な作家が日本文学の影響を受けていることを知り、日本文学に関心を持ち始めた、という。

 大学卒業後、ロンドンで新聞や雑誌の記者をしていたが、1980年に日本で英会話教師の職を見つけて来日した。以来、京都で仕事の傍ら日本文学の英訳に取り組み、これまでに後白河法皇編著の「梁塵秘抄」や室町時代の小歌集「閑吟集」を英訳している。

 「方丈記」に取り組んだのは、神職の家に生まれながら歌人としても活躍し、晩年は日野山の方丈の庵に閑居した鴨長明の人生に関心を抱いたことと、長明の目を通して描いた鎌倉時代に起きた地震や飢きんなど当時の災害や社会情勢が文を読むだけで鮮やかにデビットさんの目に映ったことがきっかけという。

 英訳は1991年2月に始め、今春に完成した。米・カリフォルニア州の出版社が8月に5千部を出版、日本やアメリカ、イギリスの3カ国で発売した。デビットさんの友人で京都市北区在住の画家マイケル・ホフマンさんがさし絵の水墨画を描いた。

 デビットさんは「方丈記はこれまで散文として英訳されたものがほとんど。だれにもわかる言葉を使いながら詩のリズムや美しさも伝わるように心掛けた。日本について知らない英語圏の人にも方丈記を理解してもらえるはず」と話す。

 ホームページでも本の内容を紹介している。


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