芭蕉db

猪の床にも入るやきりぎりす

(三冊子)

(いのししの とこにもいるや きりぎりす)

   洒堂が、予が枕元にて鼾をか
   き候を

床に来て鼾に入るやきりぎりす

(正秀真蹟書簡)

(とこにきて いびきにいるや きりぎりす)

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 元禄7年9月、51歳。洒堂(珍夕)は 湖南の人だが、大坂でプロの俳諧師として移住してきた。そのために、先輩の之道と軋轢を生むこととなった。 芭蕉が来坂したのは、彼ら二人の間の手打ちを促すためであった。仲裁のためにやって来ながら、その一方の洒堂宅に泊ったのはあまりうまいやり方ではない。
 一句は、その際の洒堂のイビキを主題としているが、師弟間の気の置けなさが伝わってくる。それだけに喧嘩仲裁はうまくいかない。

猪の床にも入るやきりぎりす

 洒堂(珍夕)は大の鼾持ち。猪の吠え声のような鼾を掻いたのであろう。キリギリスはコウロギのこと。芭蕉自身をコウロギに譬えている。
 なお、本物の猪については「猪もともに吹かるゝ野分かな」がある。