「浦和の槙野も忘れないで」 最終”主演劇場”で残したかったもの

松本麻美
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 サッカーの第101回天皇杯全日本選手権大会は19日、東京・国立競技場で決勝があり、浦和が2―1で大分を下し、3大会ぶりに頂点に立った。前身の三菱重工時代を含め、慶応BRBに並ぶ歴代最多タイの8度目の優勝。来季J2に降格する大分の初優勝はならなかった。

 浦和は前半6分にMF江坂が先制点。後半45分に追いつかれたが、追加時間に途中出場のDF槙野が決勝点を挙げた。

 決勝は元日に行われるのが恒例だが、今回は12月に前倒しされた。来年1月末にワールドカップアジア最終予選の試合が控えることなどから、選手の休養期間を確保するため。

背中を押した盟友の一言

 「お祭り男はエンターテイナーですからね。全部持っていきました!」

 浦和レッズのDF槙野智章は、涙をにじませながらニヤリと笑った。

 ピッチに送り出されたのは、1―0でリードした後半38分。守備固めで出場したはずが、同45分に同点に追いつかれ、浦和にとって嫌な流れになりかけていた。

 「どうする? (延長勝負に賭けて)終わらせる?」。GK西川周作のもとへ駆け寄り、問いかけた。返ってきた言葉に、背中を押された。「いや、(追加時間が)あと5分ある。マキ(槙野)が前に行って、点を取ってきて」

 ともに長く最終ラインのパートナーとして戦ってきた盟友だ。託された信頼にみなぎるものがあった。

 CKから流れた球を、いつも一緒に居残りのシュート練習を積んできたMF柴戸海がゴール前に蹴り込んだ。槙野は頭を合わせてコースを変え、土壇場の決勝点を突き刺した。

 サンフレッチェ広島でプロデビューし、ドイツ・ケルンを経て2012年に加入し、浦和10季目の34歳だ。持ち前の明るい性格と発信力で、生え抜きではない浦和に染まろうと行動してきた。発言が誤解を呼び、ファンと衝突することもあったが、成績が低迷した近年、チームを鼓舞する欠かせない存在になっていた。

 今季限りでの退団が発表された11月、槙野は報道陣を前に号泣した。「浦和で引退したかった。先のことなんて考えられない」。寂しさをぶちまけた。

 残された日々は、ここまで愛したクラブに何を残せるのか、という点に思いが集約していった。「浦和にはタイトル、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権が必要だ」。準決勝で今季退団するMF宇賀神友弥が得点したことも、気持ちをたかぶらせた。

 「残り10分を槙野劇場にしたいと思った。来季は違うチームでプレーすることになるけど、『浦和の槙野』も忘れないでほしい」。最高のプレーで、最高の置き土産を残した。松本麻美

 関根(浦) 交代時に涙。「今季でチームを去る選手がたくさんいて、今日で最後だと思ったらこらえきれなかった。自分たちも負けないくらい強いチームを作っていきたい」

 西川(浦) 槙野の決勝点について「有言実行の男がやってくれた。来季も残る自分たちが、浦和を背負う責任もしっかり引き継いでプレーしていきたい」。

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