櫃は古来,物財の収納・保管,運搬に用いられてきた簡素な家具である。櫃のこれらの諸機能は,主としてその内部空間の在り方にもとづいている。本稿は櫃の内部空間の構成原理を検討し,その類型と事例をあげ,特質について述べたものである。単一空間と呼ぶ型は,内部が未分割で,後述の櫃のように仕切りや装置等が一切なく,粗野なくりもの型,特定の器物の容器として製作されたもの,多目的な収納・運搬具として用いられたもの等,多様な例がある。垂直分割型及び水平分割型と呼ぶものは,垂直ないし水平の仕切りによって,櫃の内部空間を分割したものである。装置型は櫃内に抽斗,小箱等の独立した小空間を設けたり,棚を併置したもので,各種の貴重品を分類・収納するのに適している。これらの型式分類は,各型の相互の比較を可能にし,櫃における機能と形態・構造の対応をみていくのに有用であると考える。
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