モンゴルの高専卒エンジニア、発祥の地・日本で奮闘中

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佐藤剛志
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 中学校卒業後に進む5年制の高等教育機関で、出身者の多くがエンジニアとして活躍している「高等専門学校」(高専)。日本式の高専制度はモンゴルでも導入され、2014年に3校の高専が開校した。卒業生らは母国だけでなく、日本国内の企業や編入学した大学などでも仕事や勉学に励んでいる。

 モンゴルはロシアと中国に隣接する内陸国で、人口は約320万人。鉱物資源に恵まれるが多くはそのまま輸出され、国内で付加価値を生む産業振興や技術者の育成が長年の課題となっている。

 モンゴルでは1990年代以降、母国の産業発展に貢献しようと多くの若者が日本の高専に留学した。卒業生は帰国後に各界で活躍しており、教育大臣になった人もいる。彼らの間で自国に高専教育を導入する機運が高まり、日本でも高専の元教員らが呼応した。2009年には高専関係者などが「モンゴルに日本式高専を創る支援の会」を設立し、精力的に活動してきた。

 14年になり、首都ウランバートルに国立モンゴル科学技術大学付属高専、私立の新モンゴル高専とモンゴル工業技術大学付属高専が開校した。19年6月には、1期生として3校で計142人が卒業している。

 3月下旬、滋賀県東近江市にある第一工業製薬の滋賀工場。エンフバヤル・エンフウヤンガさん(20)が、ドラフトチャンバーと呼ばれる箱状の排気装置で界面活性剤の成分を分析していた。新モンゴル高専の1期生で、19年8月からここで働いている。

 中学生の時、5年一貫の新しい学校ができると知って興味を持った。高専では「化学について、理論と実践の両面からじっくり学べて楽しかった」と語る。化学メーカーや工場で働きたかったが国内には少なく、日本での就職を希望した。現在の仕事にやりがいを感じているといい、「もっといろんな仕事を覚えて会社に貢献し、資格試験にも挑戦したい」と意欲的だ。

 3月まで滋賀工場長だった清水幸治工さん(51)は「真剣に仕事に取り組む姿勢は周囲から高く評価されており、すでにいなくては困る重要な戦力になっている。明るく朗らかな人柄で、コミュニケーション力も高い」と話す。同社はもともと高専卒業生を多く採用しており、教育内容に信頼を寄せていた。全社でダイバーシティー(多様性)推進に力を入れており、過去にも日本の高専を卒業したラオス出身者を採用している。昨年も新モンゴル高専の卒業生を採用した。

 3高専の教育課程は基本的には日本と同じで、学生は日本語学習にも力を入れる。コロナ禍で来日できていない人が多いが、19年と20年の卒業者240人中、59人が日本での就職を決めている。東京都品川区は17年から、技術者不足に悩む区内の製造業がモンゴル高専生をインターンシップで受け入れる事業を展開。これまでに10人近くの就職が決まっているという。千葉商工会議所(千葉県)でも、新年度中に同様の取り組みを始める予定だ。

 全国51の国立高専を設置・運営する国立高専機構(東京都八王子市)は、16年にウランバートルにリエゾンオフィスを開設した。3高専の教育・研究力強化のため、モンゴル語の教材作成や教員研修などで支援を実施。日本企業への就職希望者にも支援している。日本で高専生を対象に開催している「ディープラーニングコンテスト」(DCON(ディーコン))への3高専合同チームの参加も後押しした。

 高専機構の谷口功(いさお)理事長は「実験・実習の面では設備などに改善の余地はあるが、もともと真面目な学生が多く、いい人材が育っている」として、日本の企業には実務を通じてさらに力を伸ばせる丁寧な教育を期待する。「日本人社員とは異なる発想などから、企業側が得るものも多いはず。モンゴルの産業を変えていく人材の育成に協力することは、必ずいい形で日本に返ってくる」と訴える。

 モンゴルの高専を卒業後、日本の高専専攻科や大学に留学する人もいる。豊橋技術科学大学愛知県豊橋市)では、学部3年に編入学した新モンゴル高専の1期生5人が学ぶ。同大は76年、新潟県長岡市の長岡技術科学大学と共に、国内の高専卒業生の編入学先として設立された。

 ガントゴス・ビルグーンさん…

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