書評

『中東問題再考』飯山陽著 「専門家」が隠すイスラム

『中東問題再考』
『中東問題再考』

中東問題は複雑怪奇といってよい。その本質を理解することは困難だ。イスラム国(IS)が台頭した際、評者はイスラム関連の書を渉猟したが、日本で「腑に落ちる」論考はほとんどなかった。イスラム諸国に阿諛追従(あゆついしょう)する内容が多く、何故(なにゆえ)彼らがテロに走るのか解説するものがなかったからだ。中東問題を論理的に解説できる学者はいないのか。希望を失いかけていたとき、彗星(すいせい)の如(ごと)く現れたのが本書著者の飯山陽氏だった。彼女の立ち位置は明確だ。自由民主主義社会に住む一人の人間としてイスラム教を理解する。

本書では、日本で中東問題を論ずる専門家が厳しく批判される。イスラム諸国に好印象を与え、米国に対する憎悪の念を植え付ける印象操作をしているというのだ。世論を操る専門家などというと陰謀論の一種に聞こえるかもしれないが、著者は決して陰謀論者ではなく、具体的な事実をあげて論証する。

例えば、イランだ。「おしん」や日本のアニメが人気を博していることが紹介され、「親日国」であると強調されることが多いが、著者はイスラム革命の指導者ホメイニの言葉を紹介し、警鐘を鳴らす。

「イスラム教徒はイスラム教と不信仰、あるいはイスラム教徒と不信仰者の間に平和があり得ると考えるべきではない」

彼らの論理からすれば、非イスラム教徒の日本国民は「不信仰者」だ。だから、日本のタンカーがイランによって攻撃される。仮にイランが真に「親日国」であるならば、何故、日本のタンカーが攻撃されるのか。

また、イラン革命防衛隊司令官のソレイマニが暗殺された際、多くの中東専門家は米国を非難した。確かに暗殺は肯定されるべきではないかもしれない。だが、ソレイマニがシリアで人々を餓死させた事実、化学兵器で人々を虐殺した事実には触れないなど、イランに不利な情報は伝えないのは異常だ。

他ならぬ「専門家」によって中東問題の事実が隠される。彼らが隠蔽(いんぺい)しようとするイスラム諸国の不都合な真実を伝えるのが本書である。本書を不快に感じる人々も存在するだろう。しかし、我々(われわれ)は気づくべきだ。虚偽ではなく、真実からしか真の他者理解は生まれない。(扶桑社新書・1078円)

評・岩田温(政治学者)

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