Jul. 02, 2006
23話、カットされたシーン。
このシーンもカットです。
というわけで、 尺オーバーがつきまとう『カブト』。
それだけ内容が盛りだくさんだということなのですが……。
21・22話田崎組、23・24話田村組ともに、それぞれ約20分ものオーバー。
1.5 倍=2話で3話ぶん。「3話にして放送するか?」とか「田崎組・田村組合わせて5話にならないか?」とか、本気で検討されたほど。
尺というのは、「長さ」のことです。
こういう(よけいな)話をするたび、「《完全版》を出してほしい」と、ありがたい声をいただいたりします。
でも、それは違うのです。
放送バージョンこそが《完全版》です。
撮影に、いっさいの無駄はありません。どのカットも、絶対に必要だから撮る。そのためにスタッフ&キャストは、豪雨の降る日も陽の照りつける日も、24時間働きづめで汗水を流し、精魂傾けています。
キャストは、たった一言のために演技プランを練ったり、スタッフは1ショットのために、何日がかりで準備して、何時間がかりで撮ったり……。
そうして撮った素材を、尺の都合で切る。落とす。
呎調(尺調整)では、「このカットを残すには、何を切るか?」「このセリフを活かすには、どのセリフをオミットするか?」と、吟味に吟味が重ねられます。どのシーン・どのカット・どのフレームも、セリフの一言半句・演技の一挙手一投足も、大きな犠牲をともなって選ばれます。
妥協が入り込む余地はありません。
そうしてできあがった放送バージョンは、苦しい減量を重ねて研ぎ澄まされたアスリートの肉体のようなもの。
(もったいない……)という気持ちは正直あります。ですが、そうして完成された放送バージョンこそ、「これだけは伝えたい!」と全スタッフが念じた結果のエッセンス。
まさに《完全版!》と、絶対の自信を持ってお送りできるのです。
(s)
Jun. 25, 2006
左・足立さん@CG部、右・高橋さん@撮影部。
特撮ではないですが、ガタックゼクター大暴れ! のバックステージ。
セットにハンマーを振るう、屈強の助監督陣(左・大峯さん、右・池田さん)。
『カブト』の現場では、特撮研究所さんが手がけるカットを「 特撮」と呼んでいます。
新ゼクターが登場したり、新ライダーが初キャストオフしたり……といったイベントは、おおむね「特撮」。そうしたカットを、ほとんど一身に担っているのが足立亨さん@特撮研究所。
日本映像クリエイティブが手がける「合成カット」と、何がどう違うのか?
ともに 3DCG ワールドだったりするので、そと見には区別しにくいのですが、違いはそのスタンスにあります。
合成がもっぱら、「撮った映像を加工する」作業を求められるのに対して、特撮は「存在しない映像を作り出す」のが主な役目。
どっちがエラいとか、スゴいとかではなく、役割が違うのです。
特撮ブロックは、CG にせよミニチュアにせよ、まず素材自体をつくるところからスタートします。
CG の場合は、佛田特撮監督の指揮のもと、足立さんがモデリングから行ないます。
デザインを写し取るのではなく、デフォルメというか、映像映えするためのアレンジも必要だし、現物のプロップ(レインボー造型製の作り物)とのすり合わせも必要。場合によっては、目的に応じて何種類もの CG モデルを用意することになります。
21話のガタックゼクターも、そうした「特撮」カットのひとつ。
まずキレイ! という映像的な“なじみ”も含めて、かなり水準の高いものでした。
撮影現場が劇場版との並行撮影に入っているということは、特撮班もまたしかり。
劇場版のためにも先手を打って、21話が撮影に入るはるか以前から、ガタックゼクターの準備と検証をしてくれていました。
並行撮影はタイヘンですが、劇場版があるおかげで、TVのクォリティも上がるという面も確実にあります。
劇場版は、ミニチュアあり CG あり、特撮映画っぽいカットの嵐。
というか、たぶんライダー映画初の「特撮映画」なのです(ライダー映画は基本的に、「特撮カットのあるアクション映画」という香りがするという意味で)。
アクション監督しかり、チーフ助監督しかり、美術デザイナーしかり――劇場版とTVを、同時並行で手がけなければならないスタッフが多数いる中でも、自分の実作業が映像のクォリティに直結する立場にある足立さん。
そのプレッシャーは、並々ならないものがあると思います。
毎日毎日、みるみる顔がどす黒くなっていく足立さん。
どうか命を落とさずに! 劇場版の完成まで! そして、TVシリーズが終わるまで!!
これからTVシリーズも特撮ラッシュです。 (←鬼)
(s)
Apr. 02, 2006
「 食べるという字は、人が良くなると書くってな!」
さりげに毎回登場するおばあちゃん語録。
ためになるような、ならないような――でも、めったに本心を明かさない天道の真情をあらわすことが多いので、最重要セリフです。
上の09話のセリフには、企画陣一同「へえ!」だったのですが、脚本の米村さんは「自然食系でよく使われるフレーズですから……」とのこと。
さて。
10話、「天道の友情とは……?」と激論を戦わせる一同の中、大発見をした米村さん。
「友情の情という字は、鯖(サバ)という字に似ている!」
なぜいきなりサバ味噌なのか? なぜカブトはサバにこだわるのか?
だれにも解けなかった謎が、解き明かされた瞬間だったのでした。(^^;
(s)
Mar. 26, 2006
人がゼクターを選ぶのではなく、ゼクターが人を選びます。
天道総司が仮面ライダーカブトに変身するのは、カブトゼクターに選ばれし者だから。
すべてはゼクターの胸ひとつ。
ゼクターに選ばれ、資格を得た者――それが、『カブト』における仮面ライダーなのです。
「パーフェクトハーモニー=完全調和」を唱えた矢車。
ザビーゼクターは、そんな矢車を選びました。しかし、彼がみずからの道を見失ったとき、ザビーゼクターは彼を見限ります。
そして、自分を捨てても仲間を大切にする完全調和の精神を、加賀美が体得した瞬間に、彼を新たなる資格者として選び取ったわけです。
つまり「完全調和」とは、ザビーゼクターのポリシーであるといえます。
その出会いから、天道と火花を散らし合った矢車。それでも豆腐を「公平に分けよう」と言えた彼だからこそ、ザビーの資格者にふさわしかったのでしょう。そうした心を失い、天道への対抗意識を燃やしはじめた瞬間に、すでに矢車は資格を失いはじめていたのでしょう。
「変身の条件」というSF的な設定を逆手にとり、どんな人間ドラマをつむぎ出せるかが、『カブト』のひそかな挑戦のひとつ。
主義主張・思想信条・立場や肩書き・趣味嗜好……人は人を、そうしたものでラベリングし、カテゴライズし、互いの距離感を計ろうとします。でも、好みや考えが変わらない人はいません。そんな移ろいゆく基準ではなく、どうしたら人と人との本当の関係を取り結ぶことができるのでしょうか。
ライダーというメタファーをつうじて、ヨロイも仮面もはぎとった、素の人間どうしの関係ってやつに迫ろうとしています。
(S)
Mar. 19, 2006
01話・水戸ロケ。 ちょっとした待ち時間でも、つねに演出法を吟味。
石田監督の通称は「 巨匠」。
この呼び名には、平成ライダーシリーズの歴史がつまっています。
1999年秋、『仮面ライダークウガ』のロケハン初日にて。
「着きましたよ」と声をかけられ、車から降りた石田監督の第一声。
「とっとと案内(あない)せいッ! 早うせんかッ!」
「よきにはからえッ!」
い、いきなり時代劇キャラ? しかも語尾に「ッ!」がついてる?!
前作『燃えろ! ロボコン』までは、ニコニコして穏和で、子役たちの人気者だった石田監督。突然キャラ変わりすぎてませんか? というほどの豹変ぶりは、いまだに伝説となっています。
それからの石田監督は、一言でいえば、「怖い人」。
スタッフに無理難題を押しつけては、
「皆が苦労する顔を見るのが、俺は一番楽しいッ!」
とさえ言い切ってやまないコワモテ監督に変貌をとげました。
スタッフは震えあがりながら、口々に噂します。
「あの監督は何様なんだ?」
「……殿様?」
「悪代官?」
「もしかして……巨匠?」
スタッフ間に「巨匠」の名が定着するまで、長くはかかりませんでした。
08話クライマックス、お台場ロケ。
水嶋さんには一番きびしい監督。それだけ愛も深い!
石田監督に何があったのか?
おそらく監督は、こう考えた↓ のではないかと思います。
ほのぼのワールドが身に染みついた『ロボコン』のスタッフを束ねて、ハード路線のライダーシリーズを始めるには、現場スタッフの意識を切り替えなければならない。そのためには、まず自分自身がハードボイルドタッチを身にまとわなければ! と。
キャストに演技指導するため、みずから演じてみせるように、スタッフを導くために、みずから《巨匠》を演じてみせるのだと。
どんなに寒風が吹きすさぶロケ現場でも、ひとり薄着をつらぬく石田監督。
「監督がダボッとしてたら、現場がダボッとしてイカン」というだけの理由で……。
現場を引き締めるためには、自分の身が凍えるのもいとわない。ひとりの人間である前に、「監督」としてスタッフに何を求められているかを、何よりも優先する。
石田秀範という監督は、そういう人です。
それから。
平成ライダーは7年目を数え、「巨匠ウォッチャー」は後をたちません。
石田監督が誰よりも現場を愛しつづけるように、われわれスタッフもまた、現場を愛する監督を愛しつづけるのですから。
(考証協力:鈴村監督)
Mar. 12, 2006
現場のマスモニ (マスターモニタ)。左上の「24」がフレームレートです。
『カブト』は基本的に HD/24p (Panasonic VARICAM)で撮影しています。
「どういう方式で撮影してるの?」と、なぜか技術的なお問い合わせの多いカブト。
というわけで、ちょっと詳しく。
地デジ時代を迎え、ライダー枠も前作『響鬼』から HD 制作に移行しています。
『相棒』など、すでに多くのドラマが先行して HD 化しており、HD 制作のノウハウは十分に蓄積されていたはず。でも、特撮番組の工程は他のドラマに比べてはるかに複雑なのです。ファーストケースとなった『響鬼』では、思いもよらない課題が、つぎつぎと発見されたりしました。
あれこれ模索したあげく、暫定的に行き着いたのは、“ お芝居は 60i、合成カットは 30p”など、素材の目的ごとに最適なフォーマットに切り替えながら撮影するスタイル。
このやり方のネックとしては、インターレースとプログレッシブ映像が混在するため、方式が切り替わった瞬間にガクッと画質が変わるショックが出てしまってました。また、両者をまたぐディゾルブ (オーバーラップ)はキレイにいかないので避ける等、演出にも制約が……。
でも、またまた試行錯誤すると混乱して事故のもとですから、響鬼は最後まで問題含みで突っ走らざるをえなかったのでした。
そうした反省を踏まえて、『カブト』ではクランクイン前にテスト撮影とシミュレーションを繰り返し、HD 時代の特撮番組に最適な方式を探りました。
|
撮影方式 |
合成カット |
編集素材 |
完パケ |
響鬼 |
60i |
30p |
60i/30p 混在 |
60i |
カブト |
24p |
24p(下絵) 60p(素材) |
24p |
60i |
響鬼で培われたノウハウを活かしつつ、編集時までの全工程をプログレッシブに統一することで同じ画質をたもちます。また、どの工程を通っても編集時のフォーマットは変わらないので、トランジションも自由自在。
それに、早い話が「映画として制作する」ってことですから、映画のノウハウを応用したり、違和感なくフィルムカメラを併用することも可能です。
「映像が映画っぽい」と言われることも多いカブトですが、フレームレートの問題だけではなく、映画的絵づくりのノウハウが導入されてるせいもあるでしょう。それが何か――ここから先は、さすがに企業秘密(笑)。
と、さんざん技術的なお話をしておきながら矛盾するようですが、視聴者の方々が気にすべきことではない、と思っています。
技術とは、文字どおり「技」と「術」。
美しい絵を描くために、画家は紙や画材を入念に探します。レアで高価な材料を使わざるをえないことだってあるでしょう。でも、私たちが絵を見て感動したり評価したりするとき、「どんな紙や画材を使ってるか」なんか関係ない。
アナログ停波が迫り、HD 化に向けての議論で一色の放送界。もちろん『カブト』もスタッフの総力をあげ、最高峰の HD 映像をお送りすべくがんばっています。
けど、私たちのめざす地平は、ホントはそこではないのです……。
Mar. 05, 2006
2005年11月、出版社向けのカブト撮影会。
……を、アクロバティックな体勢で、写メール激写する押川さん@JAE(ギルス/ゾルダ/デルタ/ギャレン/イブキ)。 なぜそんなにアクロバティック??
わが国の宝物といえば、法隆寺の玉虫厨子。
それは、古代の日本人が、タマムシの体表の色相変化を「美しい!」と感じたからに他なりません。
昆虫の持つ独特の光沢は、「構造色」の一種だといいます。
身近な構造色としては、シャボン玉やCDなどのテカリがそうでしょう。厚みや不純物の影響で、無色透明な物質の偏光特性が変動することにより、反射光や透過光の色相が変化して見える現象だと思います。
シャボン玉はすぐに割れてしまいますが、その美しさを自分の体に固定化した昆虫たち。タマムシの光沢は古代人を魅了し、カブトムシの光沢は現代の子供たちを興奮させます。
私たちの生理を直撃する、昆虫の構造色――
カブトの造型は、そうした昆虫たちの視覚的な魅力を、ヒーローに持たせられないかという試みでもあります。
古代人を感動させたタマムシたちの、巧まざる造型。
その感動を、マジョーラという魔法の塗料に定着させた日本ペイントさん。そうした先進の素材をどん欲に取り入れ、応用してみせるレインボー造型さん。
彼らの試みは、「自然」への、あくなき挑戦なのかもしれません……。
Feb. 26, 2006
マジョーラとは? 「 まさにマジックを思わせるような美しいカラーシフトを実現した偏光性塗料」( マジョーラ公式サイトより)。
前作『仮面ライダー響鬼』で、キャラクターの表面塗装にはじめて使われ、ふしぎな色相をかもしだす斬新な造型が話題となりました。
カブトは、さらにその応用パターン。
カブトとバイク (カブトエクステンダー)。 同じ色なのに、輝きが違う!
カブトのボディ色は、深みのあるワインレッド。
“ オトナの赤”ってわけですが、なにしろシブい色ですから、撮影条件によっては黒ずんだり、沈んだりしてしまいがち。ところがカブトは、晴天でも曇天でも、変わらない輝きを保ちます。
マジョーラの偏光特性を応用した多層塗装(!)の妙。
昆虫の魅力ってなんだろう? というところから『カブト』ははじまりました。
自然には、巧まざる造型があります。昆虫の体のふしぎな色相変化は、「構造色」といわれるものなわけですが……
(次回につづきます)
Feb. 12, 2006
ワームに対抗する ZECT の活動は、つねに危険と隣り合わせ。
そこで、私服メンバーに支給される護身用オートマティック銃がこれ。
「ネーミングは?」とよく聞かれますが、なにしろ秘密主義が徹底している ZECT のこと。名前はわかりません (カタカナ用語が多い番組なので、特別なネーミングは極力つつしんでいる……のもありますが)。便宜的に、ZECT-GUN とか ZECT銃とか呼んでみましょう。
ZECT アイテムだけに、ノーマルな拳銃とはひと味違う工夫がほどこされています。
ふだんは高級ボールペンと高級ライターにしか見えない……のに、ところが2つのユニットを合体させると、なんと銃に!
ZECT メンバーの行動は、とにかく隠密を要します。高級ボールペンとライターといったら、モダンな紳士淑女のたしなみ。どんなに警備が厳重な場所にも、怪しまれずに持ち込めます!(本当?)
Feb. 05, 2006
というわけで。
『カブト』ページは武部Pによる番組よもやま話と、スチール部隊&P部隊のメイキング写真という構成でお送りしていきたいと思ってます。もう1人の東映P・白倉は、スーパーディープなネタを担当する予定。
なんでも「やりすぎ」るのが『カブト』の現場。
当サイトも、「やりすぎ感」を大事にしていければと思います。(^^;
さて左は、なかの★陽さんによる合成絵コンテの一部。01話の戦闘シーンです。
1カットの中で、視点がライダー側から、クロックアップしたワーム側に切り替わり、ゆっくり動いているライダーにワームが襲いかかる!
クロックアップって、口でいう理屈だけならカンタンなのですが、こと映像で表現する段になると、4つの視点を切り分けて整理しないといけません。ワームの視点/ライダーの視点/人間の視点――そして視聴者の視点。
カメラマンのいのくまさん。ハイスピードフィルムカメラと、バリアブルフレームレート HD カメラの2刀流!
いま視聴者の視点は、どの視点とシンクロするのか? どの素材が、どんな速度で動くのか?
“超高速戦闘”なんて、『龍騎』のアクセルベントや『555』のアクセルフォームで、さんざん経験済みさっ!
……のはずのスタッフ一同も、1カット1カット、議論百出。じつははるかに難度が高いのです。
アクセルフォーム経験者の田村監督(03/04話担当)も、なかのさんともども年末年始を返上してまで、1カットごとに演出表現を吟味したとか。
「脳ミソをクロックアップさせないと?!」が、合い言葉になるわけです。
どうして『カブト』という番組は、“クロックアップ”を必要としたの? なんでキャストオフするとクロックアップするの? あの映像表現はどうやってるの?
そんなお話をつうじて、ディープに『カブト』の本質に迫りたいと思います。
(といいつつ次回は、03話で加賀美にも支給される ZECT-GUN をとりあげる予定)
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